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夏彦ルート
第95話
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「夏彦…?」
彼は本当に不安そうな表情でこちらを見つめている。
少し戸惑っていると、頭にぽんと手を置かれた。
「頑張るのはすごいことだし、努力することは誰でもできることじゃない。
…だけど、それで頑張りすぎたら月見ちゃんが疲れちゃうよ。もしかすると、もっと怪我が酷くなるかもしれない」
とにかく心配させてしまったことはよく分かる。
頭を下げて、ただ一言呟いた。
「ごめんなさい」
「今夜はもう休んで。…それから、独りで頑張らないこと。約束だよ」
「は、はい」
近くのベンチに座っているように言われて、そのまま腰をおろす。
空を見上げると、なんだかいつもより星が輝いているような気がした。
「お待たせ。水分補給はした方がいいよ」
「あ、ありがとうございます…」
清涼飲料水を渡してくれたことに感謝しながら、少しずつペットボトルを傾けていく。
「俺もここで涼ませてもらおうかな」
「夏彦も、眠れなかったんですか?」
「ん?ああ、俺はちょっと、情報整理をしてたんだ」
半分本当で半分嘘、といったところだろうか。
情報整理…多分それだけではないのだろう。
「本当は、眠れなかったんじゃないんですか?」
「どうしてそう思うの?」
もし眠気があったら、あんな反応はしないはずだ。
…そんなことないと否定すればいいのだから。
「なんとなく、です」
「参ったな。月見ちゃんには敵わないや」
夏彦は苦笑いしながらベンチに座りなおす。
「本当は眠れなかったんだ。ちょっと昔のことを思い出して、自己嫌悪に陥ってる」
「自己嫌悪、ですか?」
「うん。…昔のことを考えたとき、あのときああしていればよかったのにって思っちゃうんだ。そんなことを考えても仕方ないのに…」
私には護りたいものがなかったから、その気持ちは想像することしかできない。
…ただ、もしも夏彦に何かあったら私も同じようなことを考えると思う。
だから、今できるのはこれだけだ。
「つ、月見ちゃん…?」
「大丈夫です。夏彦は優しいから沢山考えるんだと思うんですが、もっと周りを見てほしいです」
「月見ちゃんは、優しすぎるよ…」
夏彦が頭を撫でてくれたとき、私はいつも安心している。
ここにいてもいいんだって心から思う瞬間だ。
だから、私にできるのはこうやって頭を撫でることだけだと思った。
「ありがとう。ちょっと元気でたよ」
「それならよかったです」
夏彦の笑顔を見ると、心がぱっと明るくなる。
向日葵色の髪が月明かりに照らされて、きらきらと光り輝いていた。
ぼんやり月を見ると、優しく抱きしめられる。
「ちょっとだけこのままでいてね」
「は、はい…」
すごくどきどきしているのは、きっと相手が夏彦だからだ。
彼は本当に不安そうな表情でこちらを見つめている。
少し戸惑っていると、頭にぽんと手を置かれた。
「頑張るのはすごいことだし、努力することは誰でもできることじゃない。
…だけど、それで頑張りすぎたら月見ちゃんが疲れちゃうよ。もしかすると、もっと怪我が酷くなるかもしれない」
とにかく心配させてしまったことはよく分かる。
頭を下げて、ただ一言呟いた。
「ごめんなさい」
「今夜はもう休んで。…それから、独りで頑張らないこと。約束だよ」
「は、はい」
近くのベンチに座っているように言われて、そのまま腰をおろす。
空を見上げると、なんだかいつもより星が輝いているような気がした。
「お待たせ。水分補給はした方がいいよ」
「あ、ありがとうございます…」
清涼飲料水を渡してくれたことに感謝しながら、少しずつペットボトルを傾けていく。
「俺もここで涼ませてもらおうかな」
「夏彦も、眠れなかったんですか?」
「ん?ああ、俺はちょっと、情報整理をしてたんだ」
半分本当で半分嘘、といったところだろうか。
情報整理…多分それだけではないのだろう。
「本当は、眠れなかったんじゃないんですか?」
「どうしてそう思うの?」
もし眠気があったら、あんな反応はしないはずだ。
…そんなことないと否定すればいいのだから。
「なんとなく、です」
「参ったな。月見ちゃんには敵わないや」
夏彦は苦笑いしながらベンチに座りなおす。
「本当は眠れなかったんだ。ちょっと昔のことを思い出して、自己嫌悪に陥ってる」
「自己嫌悪、ですか?」
「うん。…昔のことを考えたとき、あのときああしていればよかったのにって思っちゃうんだ。そんなことを考えても仕方ないのに…」
私には護りたいものがなかったから、その気持ちは想像することしかできない。
…ただ、もしも夏彦に何かあったら私も同じようなことを考えると思う。
だから、今できるのはこれだけだ。
「つ、月見ちゃん…?」
「大丈夫です。夏彦は優しいから沢山考えるんだと思うんですが、もっと周りを見てほしいです」
「月見ちゃんは、優しすぎるよ…」
夏彦が頭を撫でてくれたとき、私はいつも安心している。
ここにいてもいいんだって心から思う瞬間だ。
だから、私にできるのはこうやって頭を撫でることだけだと思った。
「ありがとう。ちょっと元気でたよ」
「それならよかったです」
夏彦の笑顔を見ると、心がぱっと明るくなる。
向日葵色の髪が月明かりに照らされて、きらきらと光り輝いていた。
ぼんやり月を見ると、優しく抱きしめられる。
「ちょっとだけこのままでいてね」
「は、はい…」
すごくどきどきしているのは、きっと相手が夏彦だからだ。
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