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春人ルート
第89話
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盲点だった。
というよりも、そんなことを考えたことがなかったと言った方が正確かもしれない。
「…あなたは人のことを優先しすぎているような気がする。自覚がないのかもしれないけど、私はそう感じた」
「ごめんなさい」
「別に謝るようなことじゃない。…ただ心配になっただけ」
雪乃はそう言っていたけれど、なんとなく不安に思っているような気がしてそっと手を握る。
「あ、あの…雪乃は、自分のことを知るのが怖いんですか?」
「…どうしてそう思ったの?」
「なんとなく、です。何か不安なことがあるのかなって思って…」
嫌な思いをさせたかもしれないと思っていたけれど、雪乃は苦笑いしながら話してくれた。
「…言い当てられたのは3回目。あなたは人をよく見ている。私は普段から感情を出さないようにしているから、ばれてしまうとは思っていなかった」
「それじゃあ、やっぱり…」
「私は、自分の占いに自信がある訳じゃない。結果のせいで相手の人生を狂わせてしまうかもしれないと思うと、時々怖くなる。
大切な人をこの力で護れればよかったって考えることもあるけど、時間を戻すことはできないから…」
誰のことかなんて訊かなくても分かる。
それは多分、彼女の育ての親で春人が大切だと思っている人のことだ。
言っていいかどうか戸惑いつつ、なんとか言葉にして伝えてみる。
「…その人のことが大好きだったんですね」
「うん。分かる?」
「話しているとき、雪乃が寂しそうにしていたので…。その方は、どれだけ離れてもあなたのことを大切に想っているのではないでしょうか?」
「…そう思う?」
「少なくとも、私はそう思いました。お相手も雪乃のことを大切に想っているからこそ、雪乃に何も話さなかったのではないでしょうか…」
彼女はしばらく黙っていたけれど、やがて顔をあげてカードを引く。
「私は、自分が非力だから頼られないと思っていた。…だけど、そういう考え方もあるのかもしれない」
「あの…?」
「ありがとう。あなたのおかげで吹っ切れた」
めくられたカードにはハートを支える天使が描かれていて、彼女は優しく微笑んだ。
「…春人との相性、ばっちりみたい」
「やっぱり、雪乃と春人は仲良しさんですね」
「違う。…月見と春人の相性」
「え…?」
「想いはちゃんと言葉にしないと伝わらない。助言できるとしたらこれくらい」
雪乃のさりげない一言に呆然としてしまう。
私と春人の相性がいい…?
「そろそろ春人が来る」
「え…?」
がちゃりと扉が開かれたかと思うと、そこから現れたのはたしかに春人だった。
「…雪乃」
「ふたりの邪魔をするつもりはない。それから、あなたが知りたいものはここにある」
車椅子を動かしてこちらに向かってくる春人と封筒を渡して部屋を出る雪乃がすれ違う。
ふたりとも少し笑っているような気がして、そのまま視線だけ向けた。
私の目の前までやってきた春人に感覚がない右手を掴まれる。
「あ、あの…」
「冬真が忙しいから、今日は俺がマッサージしにきた」
というよりも、そんなことを考えたことがなかったと言った方が正確かもしれない。
「…あなたは人のことを優先しすぎているような気がする。自覚がないのかもしれないけど、私はそう感じた」
「ごめんなさい」
「別に謝るようなことじゃない。…ただ心配になっただけ」
雪乃はそう言っていたけれど、なんとなく不安に思っているような気がしてそっと手を握る。
「あ、あの…雪乃は、自分のことを知るのが怖いんですか?」
「…どうしてそう思ったの?」
「なんとなく、です。何か不安なことがあるのかなって思って…」
嫌な思いをさせたかもしれないと思っていたけれど、雪乃は苦笑いしながら話してくれた。
「…言い当てられたのは3回目。あなたは人をよく見ている。私は普段から感情を出さないようにしているから、ばれてしまうとは思っていなかった」
「それじゃあ、やっぱり…」
「私は、自分の占いに自信がある訳じゃない。結果のせいで相手の人生を狂わせてしまうかもしれないと思うと、時々怖くなる。
大切な人をこの力で護れればよかったって考えることもあるけど、時間を戻すことはできないから…」
誰のことかなんて訊かなくても分かる。
それは多分、彼女の育ての親で春人が大切だと思っている人のことだ。
言っていいかどうか戸惑いつつ、なんとか言葉にして伝えてみる。
「…その人のことが大好きだったんですね」
「うん。分かる?」
「話しているとき、雪乃が寂しそうにしていたので…。その方は、どれだけ離れてもあなたのことを大切に想っているのではないでしょうか?」
「…そう思う?」
「少なくとも、私はそう思いました。お相手も雪乃のことを大切に想っているからこそ、雪乃に何も話さなかったのではないでしょうか…」
彼女はしばらく黙っていたけれど、やがて顔をあげてカードを引く。
「私は、自分が非力だから頼られないと思っていた。…だけど、そういう考え方もあるのかもしれない」
「あの…?」
「ありがとう。あなたのおかげで吹っ切れた」
めくられたカードにはハートを支える天使が描かれていて、彼女は優しく微笑んだ。
「…春人との相性、ばっちりみたい」
「やっぱり、雪乃と春人は仲良しさんですね」
「違う。…月見と春人の相性」
「え…?」
「想いはちゃんと言葉にしないと伝わらない。助言できるとしたらこれくらい」
雪乃のさりげない一言に呆然としてしまう。
私と春人の相性がいい…?
「そろそろ春人が来る」
「え…?」
がちゃりと扉が開かれたかと思うと、そこから現れたのはたしかに春人だった。
「…雪乃」
「ふたりの邪魔をするつもりはない。それから、あなたが知りたいものはここにある」
車椅子を動かしてこちらに向かってくる春人と封筒を渡して部屋を出る雪乃がすれ違う。
ふたりとも少し笑っているような気がして、そのまま視線だけ向けた。
私の目の前までやってきた春人に感覚がない右手を掴まれる。
「あ、あの…」
「冬真が忙しいから、今日は俺がマッサージしにきた」
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