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春人ルート
第85.5話
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「そのまま動かないで」
「ひとつだけ教えてください。…どうして春人は、」
「ここに来られたのか?」
大型車両のなか、真っ先にその質問が飛んできても仕方ない。
キャンディーボックスをまともに喰らったであろう彼女の目は少し充血している。
咄嗟だったとはいえ、あんな作戦しか思いつかなかったのは申し訳ない。
それにも関わらず、彼女の目はしっかり俺を見つめていた。
「…夏彦に頼んでおいたんだ。何かあれば役に立つから、連れていってほしいって。
それに、この子たちがいればなんとかなる気がしていた」
持ってきていた道具箱から取り出したのは、ラビとチェリーだ。
「たしかにふたりがいれば心強い、ですけど…」
「それに、君ひとりに重責を背負わせたくなかった。本当ならあの一味に手錠をかけたかったけどね」
だが、今現場に向かっても俺はただの足手まといだ。
だからこそ、大量の道具を作ってみんなに渡しておいた。
…今の俺には、それくらいのことしかできないから。
「ありがとうございます。春人のおかげで助かりました」
「それならいいけど…」
「私が今日ここに立っていられるのも、さっきあのお屋敷から出られたのも、全部春人のおかげです」
どうして彼女は、いつも俺なんかに感謝の言葉を口にするのだろう。
特別なことは何もしていないし、寧ろこんなことにまで巻きこんで恨まれてもおかしくない。
にも関わらず、月見はいつも俺を見てくれている。
「…結果論だ」
「それでも私は、春人が一緒にいてくれるから頑張れるんです」
この子の笑顔には本当に敵わない。
やっぱり俺は、彼女のことが──
「おふたりさん、お待たせ!車出すよ」
いつものノリでやってきた夏彦に、できるだけ気をつけてほしいと目線を送る。
恐らく相手を殴ったときについたものだと思うが、できるだけ月見には見せたくない。
「ふたりで何話してたの?すごく気になるなあ…」
「…夏彦がおちょくってきたと秋久に伝えておきますね」
「それだけはやめて、本気で怒られるから…」
「…それで、決着はついた?」
「ん?すごくあっさり終わったよ。後で写真見せてあげる」
きっと友人なりに気を遣ってくれたのだろう。
捜査に行けなかった悔しさも、作戦に少ししか参加できなかった後悔も彼はよく知っているだろうから。
「あ、あの…」
「どうかした?」
「この資料って証拠になりますか?」
その中身は悪行の数々が記された記録のようなものだった。
「…充分だ」
「それがあれば、何の罪もないにも関わらず殺された人たちについて余罪を追及できるかもしれない。
月見ちゃん、お手柄だね」
「ありがとうございます」
彼女にとってせいいっぱいの前向きな言葉を聞きながら、俺は少しだけ安心した。
いつの間にか、そんな一生懸命なところに俺は…。
今はそんな想いを隠しておこう。
せめてこの件に方がついてからきちんと整理して伝えるのが礼儀だ。
何か感じ取ったのか、運転席の夏彦がにやけているのが気になって仕方がない。
…やっぱり後で秋久にからかわれたと報告しておこうか。
「ひとつだけ教えてください。…どうして春人は、」
「ここに来られたのか?」
大型車両のなか、真っ先にその質問が飛んできても仕方ない。
キャンディーボックスをまともに喰らったであろう彼女の目は少し充血している。
咄嗟だったとはいえ、あんな作戦しか思いつかなかったのは申し訳ない。
それにも関わらず、彼女の目はしっかり俺を見つめていた。
「…夏彦に頼んでおいたんだ。何かあれば役に立つから、連れていってほしいって。
それに、この子たちがいればなんとかなる気がしていた」
持ってきていた道具箱から取り出したのは、ラビとチェリーだ。
「たしかにふたりがいれば心強い、ですけど…」
「それに、君ひとりに重責を背負わせたくなかった。本当ならあの一味に手錠をかけたかったけどね」
だが、今現場に向かっても俺はただの足手まといだ。
だからこそ、大量の道具を作ってみんなに渡しておいた。
…今の俺には、それくらいのことしかできないから。
「ありがとうございます。春人のおかげで助かりました」
「それならいいけど…」
「私が今日ここに立っていられるのも、さっきあのお屋敷から出られたのも、全部春人のおかげです」
どうして彼女は、いつも俺なんかに感謝の言葉を口にするのだろう。
特別なことは何もしていないし、寧ろこんなことにまで巻きこんで恨まれてもおかしくない。
にも関わらず、月見はいつも俺を見てくれている。
「…結果論だ」
「それでも私は、春人が一緒にいてくれるから頑張れるんです」
この子の笑顔には本当に敵わない。
やっぱり俺は、彼女のことが──
「おふたりさん、お待たせ!車出すよ」
いつものノリでやってきた夏彦に、できるだけ気をつけてほしいと目線を送る。
恐らく相手を殴ったときについたものだと思うが、できるだけ月見には見せたくない。
「ふたりで何話してたの?すごく気になるなあ…」
「…夏彦がおちょくってきたと秋久に伝えておきますね」
「それだけはやめて、本気で怒られるから…」
「…それで、決着はついた?」
「ん?すごくあっさり終わったよ。後で写真見せてあげる」
きっと友人なりに気を遣ってくれたのだろう。
捜査に行けなかった悔しさも、作戦に少ししか参加できなかった後悔も彼はよく知っているだろうから。
「あ、あの…」
「どうかした?」
「この資料って証拠になりますか?」
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「…充分だ」
「それがあれば、何の罪もないにも関わらず殺された人たちについて余罪を追及できるかもしれない。
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「ありがとうございます」
彼女にとってせいいっぱいの前向きな言葉を聞きながら、俺は少しだけ安心した。
いつの間にか、そんな一生懸命なところに俺は…。
今はそんな想いを隠しておこう。
せめてこの件に方がついてからきちんと整理して伝えるのが礼儀だ。
何か感じ取ったのか、運転席の夏彦がにやけているのが気になって仕方がない。
…やっぱり後で秋久にからかわれたと報告しておこうか。
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