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夏彦ルート
第85話
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「…で、相手はどうせ蔡原の家の奴等でしょ?」
「そうだよ。戦力を補強して君に会いに行くつもりだったみたい。
ただ、先に今捕まってる人たちを助けてから、みたいな話はしてたかな」
手品師さんは淡々と説明してくれる。
まだ油断できないと思っていた私に向けて、彼は手元に目を向けながらにっこり笑った。
「その鎌、僕はいいと思うんだけど…そろそろ仕舞っておかないとまずいかな?」
「え…?」
それと同時にぼろぼろと崩れていく蕀さんたちにこっそりお礼の言葉を伝える。
なんとなく目を逸したらいけないような気がして、そのままじっと見つめた。
「…おい、これは一体どういう状況だ?」
「こんばんは、守護神。便利屋に…冬真?ああそっか、ここはカルテットのアジトだったんだね。
ごめん、僕の下調べが足りてなかったよ」
「なんであんたがここにいるの?」
「僕はただ、僕の仕事をしようとしただけ。だけど、どうやらこちらの手違いだったらしい」
冬真さんの殺気にあてられたのか、彼の腕の中にいるソルトが少し怯えている。
手紙がきちんと届いたことにほっとしたけれど、もしかするとこれはやってはいけないことだったのかもしれない。
「ごめん。俺から事情を説明させて」
ただ立ち尽くしていた私の代わりに、夏彦が他の人たちに説明してくれた。
手品師さんは依頼を受けてやってきたこと、自分が不意打ちされたこと、話をしているうちに手品師さんが受けた依頼内容がおかしいと気づいたこと、今は事情を説明してもらっていた最中だったこと…。
…私が蕀さんたちで作った鎌を使ったことは伏せてくれた。
「そういうことか。まあ、情報屋を傷つけたならお嬢ちゃんから見れば敵に見えるだろうな」
「まあ、僕が持ってる情報は全部渡したし、今回はこれで失礼するよ。
…守護神、頑張って囚人たちを奪還されないようにしてね。それから…」
また足音ひとつたてずに近づいてきた手品師さんは、私の手を握って微笑みかける。
「ごめんね、お姫様。君を傷つけたかったわけじゃないんだ。またいつか会えるといいね」
「えっと、」
「お姫様じゃつまらないし…そうだ。あんなふうに立ち向かっていける勇気があるんだし、周りは棘より怖い護りで固められてる。
…さしずめ蕀姫といったところかな」
「あの…手品師さん、ありがとうございます」
「僕はお礼を言われるようなことは何もしてないよ」
手品師さんにはにっこり笑って立ち去っていった。
「なんで礼なんて言ったんだ?」
「夏彦のことを、殺さないでいてくれたからです」
秋久さんはそうかと納得しているけれど、私は今嘘を吐いた。
手品師さんには私のことを隠す理由なんてなかったはずだ。
それなのに、蕀さんたちのことを黙っていてくれた。
勿論、夏彦のことを殺さないでいてくれたというのも嘘ではないけれど。
「…月見ちゃん、ちょっといい?」
「わ、分かりました」
夏彦にもお礼を伝えないといけないと思いつつ、他の3人の後ろをついていく。
これでここを襲ってくる人たちはいないと信じたい。
「そうだよ。戦力を補強して君に会いに行くつもりだったみたい。
ただ、先に今捕まってる人たちを助けてから、みたいな話はしてたかな」
手品師さんは淡々と説明してくれる。
まだ油断できないと思っていた私に向けて、彼は手元に目を向けながらにっこり笑った。
「その鎌、僕はいいと思うんだけど…そろそろ仕舞っておかないとまずいかな?」
「え…?」
それと同時にぼろぼろと崩れていく蕀さんたちにこっそりお礼の言葉を伝える。
なんとなく目を逸したらいけないような気がして、そのままじっと見つめた。
「…おい、これは一体どういう状況だ?」
「こんばんは、守護神。便利屋に…冬真?ああそっか、ここはカルテットのアジトだったんだね。
ごめん、僕の下調べが足りてなかったよ」
「なんであんたがここにいるの?」
「僕はただ、僕の仕事をしようとしただけ。だけど、どうやらこちらの手違いだったらしい」
冬真さんの殺気にあてられたのか、彼の腕の中にいるソルトが少し怯えている。
手紙がきちんと届いたことにほっとしたけれど、もしかするとこれはやってはいけないことだったのかもしれない。
「ごめん。俺から事情を説明させて」
ただ立ち尽くしていた私の代わりに、夏彦が他の人たちに説明してくれた。
手品師さんは依頼を受けてやってきたこと、自分が不意打ちされたこと、話をしているうちに手品師さんが受けた依頼内容がおかしいと気づいたこと、今は事情を説明してもらっていた最中だったこと…。
…私が蕀さんたちで作った鎌を使ったことは伏せてくれた。
「そういうことか。まあ、情報屋を傷つけたならお嬢ちゃんから見れば敵に見えるだろうな」
「まあ、僕が持ってる情報は全部渡したし、今回はこれで失礼するよ。
…守護神、頑張って囚人たちを奪還されないようにしてね。それから…」
また足音ひとつたてずに近づいてきた手品師さんは、私の手を握って微笑みかける。
「ごめんね、お姫様。君を傷つけたかったわけじゃないんだ。またいつか会えるといいね」
「えっと、」
「お姫様じゃつまらないし…そうだ。あんなふうに立ち向かっていける勇気があるんだし、周りは棘より怖い護りで固められてる。
…さしずめ蕀姫といったところかな」
「あの…手品師さん、ありがとうございます」
「僕はお礼を言われるようなことは何もしてないよ」
手品師さんにはにっこり笑って立ち去っていった。
「なんで礼なんて言ったんだ?」
「夏彦のことを、殺さないでいてくれたからです」
秋久さんはそうかと納得しているけれど、私は今嘘を吐いた。
手品師さんには私のことを隠す理由なんてなかったはずだ。
それなのに、蕀さんたちのことを黙っていてくれた。
勿論、夏彦のことを殺さないでいてくれたというのも嘘ではないけれど。
「…月見ちゃん、ちょっといい?」
「わ、分かりました」
夏彦にもお礼を伝えないといけないと思いつつ、他の3人の後ろをついていく。
これでここを襲ってくる人たちはいないと信じたい。
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