裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
214 / 385
夏彦ルート

第84話

しおりを挟む
近くまで生えていた蔦を鎌の形にまとめて、そのまま夏彦の前に出る。
「月見ちゃん、駄目だよ。逃げないと…」
「私、殴られたりするのは慣れているんです。夏彦だけは絶対に助けます。
それに、私は頑丈なので…簡単にやられたりはしません」
他の人たちが来るまでどれくらいかかるか分からない。
それでも、今ここで根をはれなかったらきっと後悔する。
「今夜は君がダンスの相手かな?」
「…そういうことでいいと思います」
「そう。それじゃあいくよ!」
相手はとても楽しそうに、とても正確に私の足を狙ってくる。
今は蕀さんたちに支えてもらっているから痛みを感じず歩けているけれど、少しでも走ったらきっと持たない。
見たことがない人ではあるけれど、夏彦を狙ってきているのは素人の私でも分かった。
「ねえ、その武器ってどこで買ったの?それとも自作?」
「じ、自分で…」
「へえ、君ってすごいんだね!…壊し甲斐がある」
「……!」
重い1撃に腕が痺れる。
「次はもっと楽しませてよ!」
「終わりに、したいです…」
本に出てきた大きな鎌を想像したけれど、どうしてこんなに使いやすいんだろう。
相手を刺激しないように、とにかく護ることだけを考えて戦っている。
「他人なんてどうでもいいでしょ?大切なのは自分なんじゃないの?」
「私は、彼を置いていったりしません。それだけは絶対にしないんです…!」
相手のナイフは玩具ではない。
だからこそ、蕀さんたちでは太刀打ちできないと思っていた。
今も少しずつ鎌が悲鳴をあげている。
「…それじゃあ、まずは君から消すことにするよ」
「い、嫌です…!」
なんとか攻撃を止められているけれど、いよいよ鎌が壊れてきた。
もう駄目かもしれない…新しい蔦を集めようとしたそのとき、相手の足に私の蔦が絡まって転んだ。
「──遊戯あそびは終わりだ」
そのまま夏彦が上に飛び乗り、相手に手錠をかける。
伸びていた蔦の先を持ったままの彼に、相手は話しかけた。
「君たち面白いね」
「…人のことを不意打ちしてきた奴の台詞かよ」
「ごめんごめん、君が無粋な奴だって聞いてたから依頼を受けたんだ。
だけど、勘違いだったみたいだね。倒すべきはあっちか…」
普通に話しているふたりに驚いて呆然としていると、どうやって解いたのか相手が私に迫っていた。
「え…」
「僕は君に興味が沸いたよ。復讐しか考えていなかった情報屋をここまで変えたのは、きっと君だろう?」
「それ、は…」
「僕は手品師。まあ、普段から手品は仕事だからやってるんだ。
…今夜はこれで帰るよ。ついでに依頼主についても教えてあげる」
手品師と名乗った彼は私の手を握って、近くにあった切り株に腰掛けた。
「君が依頼主に言われたとおりにしないのは珍しい。…目的は何?」
「そんなのどうでもいいでしょ?僕は僕がやりたいことしかしないんだ。
今回の依頼は【同胞を殺した情報屋を消してほしい。できれば生きがいいうちにここに連れてこい】だった。
だけどこの場に、【人を殺した人】自体存在しない。それなのに、どうやって依頼を達成すればいいの?」
こんな状況になると思っていなかった私は、ただ呆然と見ていることしかできない。
ふたりの話に入っていてもいいのか悪いのか…その場に立ち尽くすことしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

狙いの隙間で積み重ねるアイ

西沢きさと
BL
暗殺を生業にしている裏稼業コンビによる、仕事の合間のいちゃいちゃ話です。 サポート役の溺愛おにーさん × 情緒育ち中の無自覚狙撃手。 自分のことを「おにーさん」と呼ぶ飄々とした態度の胡散臭い攻めが、無自覚な年下受けに内心で翻弄されているのが好きです。 ◆ Twitter(現X)で開催されているワンライ【#創作BL版深夜の60分一本勝負】に参加したSS集。 今後増えていくかもしれないしこれで終わりかもしれない、という無計画な連作ワンライです。 勢いで書いたまま、ほぼ手直しせずに掲載しているので、少しの矛盾や粗さには目を瞑ってやってください。 60分でお話作るの、本当に難しいですね。

憑かれるのはついてくる女子高生と幽霊

水瀬真奈美
恋愛
家出じゃないもん。これは社会勉強! 家出人少女は、雪降る故郷を離れて東京へと向かった。東京では行く当てなんてないだから、どうしようか? 車内ではとりあえずSNSのツイツイを立ち上げては、安全そうなフォロワーを探すことに……。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢アリーズは、侯爵家で侍女として働いていたが、そこの主人に抱きしめられているところを夫人に見られて愛人だと誤解され、首になって実家に戻った。 夫を誘惑する女だと社交界に広められてしまい、侍女として働くことも難しくなった時、元雇い主の侯爵が申し訳なかったと嫁ぎ先を紹介してくれる。 しかし、相手は妻が不貞相手と心中し昨年醜聞になった男爵で、アリーズのことを侯爵の愛人だったと信じていたため、初夜は散々。 しかも、夫が愛人にした侍女が妊娠。 離婚を望むアリーズと平民を妻にしたくないために離婚を望まない夫。というお話です。

Legend of kiss 1 〜雪の王子編〜(R)

明智 颯茄
恋愛
 1年後に死ぬ運命だとしたら、どうしますか?  白石 祐(ゆう)、17歳は人気ロックバンドのボーカル。彼の高校生活は、朝登校すれば、下駄箱にはプレゼントや手紙の山。昼休みや休み時間は女子に囲まれて、サインを求められる日々。性格はツンで俺様。  彼の幼馴染、神月(かづき) 亮(りょう)。彼女との仲は何ともないどころか、亮の天然ボケがあまりにもひどすぎて、祐の彼女への決まり文句は「放置してやる。ありがたく思え」  そんな亮には幼い頃から繰り返す見る夢があった。それは自分が死んでゆくもの。しかも、17歳の誕生日の朝から、呪いについてを伝える内容に変わったのだ。だが、特に変わったことも起きず、その日は無事に終了。  けれども、目が覚めると、別世界へといきなり来ていた。2人は他国の王子と王女に。混乱を極める中、それぞれの立場で、異世界で生きていくことになる。  だが、1晩明けると、本人たちの意思とは関係なく、恋仲だと噂が城中に広まっており、結婚話までトントン拍子に進んでいってしまう。    時の流れが通常より早い1年間の中で、亮の呪いを解くという使命が2人に課せられてしまったが、無事に解くことができるのだろうか?     Legend of kissシリーズ、第1弾、雪の王子編、開幕。  恋愛シミュレーションゲーム要素、30%あり。  この作品は性質上、同じ登場人物、設定で、主人公だけが入れ替わった状態で、シリーズが進んでゆきます。 *この作品は、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ、魔法のiランドにも掲載しています。

え?後悔している?それで?

みおな
恋愛
 婚約者(私)がいながら、浮気をする婚約者。  姉(私)の婚約者にちょっかいを出す妹。  娘(私)に躾と称して虐げてくる母親。  後悔先に立たずという言葉をご存知かしら?

処理中です...