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春人ルート
第82話
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「それじゃあお嬢ちゃん。あんたにはこれからこの地図を覚えてもらわないといけない」
「わ、分かりました」
秋久さんから小さな紙を受け取って、少しずつ順番を覚えていく。
事前に少しでも覚えておけば、万が一のことがおこったときに動きやすい…彼はそう提案してわざわざ持ってきてくれた。
「なんとか覚えられそうです」
「役に立ったならよかった。他にも必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
「危険なことを巻きこむのに、礼を言われるようなことなんて何もしちゃいない」
秋久さんは少しだけ複雑そうな表情を浮かべている。
「私がやりたくてやることなので、その、謝らないでほしいです」
「…強いんだな、お嬢ちゃんは」
秋久さんが帰っていった後は、冬真さんの診察を受けながらどんなふうに入っていくのか演技の仕方を教えてもらう。
「変に気負うより、いつもどおりでいた方がいいと思う。君らしさが消えても意味がないし、やりづらい」
「わ、分かりました」
「演技の話はここまでにして…」
突然右手を握られたけれど、やっぱり指先に感覚はない。
「ごめんなさい」
「どうして謝るの?怪我をしたのは誰のせいでもないんだから、そんなに謝る必要ないでしょ?
いつまでも俯いているより、前を向いた方がいい。…じゃないと、春人さんが一生気にするから」
「ぜ、善処します…」
冬真さんが指先をマッサージしながらぽつりと呟く。
「…本当は僕が力不足なのが悪いんだし、そんなに落ちこまなくていい」
「私が今こうしていられるのは、皆さんのおかげです。だから、力不足だなんて言わないでください」
「君って時々変わってるよね」
はじめは呆れられてしまったのだと思っていたけれど、その表情は晴れ晴れとしていた。
自分でも動かせない右手の指先を左手でマッサージしてみるけれど、やっぱり感覚がない。
「月見ちゃん、ちょっといい?」
「は、はい。どうぞ…」
部屋にやってきた夏彦さんは見慣れない道具を持っていて、これからどんなことがおこるのか少し不安だった。
「ごめんね。一応特別な服を作っておこうと思って、サイズを測らせてほしくてきたんだ」
「えっと、どうすればいいですか?」
「そのままで大丈夫だよ。あ、やっぱりちょっとだけ立ってもらおうかな」
「分かりました」
言われるがまま体を動かしていると、夏彦さんの真剣な表情が目にうつる。
見ているだけで洋服に対して真摯に向き合っているというのはなんとなく理解した。
終わった直後、部屋の扉がゆっくり開かれる。
「…休憩するんだろうと思って持ってきた」
「ありがとうございます」
「ハルが持ってきてあげるなんて珍し…痛っ!?」
「夏彦にはあげない」
温かいココアを持ってきてくれた春人の優しさを感じながら、少しだけ不安に思っているのをなんとなく察知する。
「今日は、色々なことを教えてもらいました」
「…そう」
「なんとかなりそうです」
「……そう」
そう、としか言わない春人にどんな話をしようか困っていると、夏彦さんが苦笑しながら春人に言った。
「…もう少し言葉にしないと伝わらないよ、ハル」
「わ、分かりました」
秋久さんから小さな紙を受け取って、少しずつ順番を覚えていく。
事前に少しでも覚えておけば、万が一のことがおこったときに動きやすい…彼はそう提案してわざわざ持ってきてくれた。
「なんとか覚えられそうです」
「役に立ったならよかった。他にも必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
「危険なことを巻きこむのに、礼を言われるようなことなんて何もしちゃいない」
秋久さんは少しだけ複雑そうな表情を浮かべている。
「私がやりたくてやることなので、その、謝らないでほしいです」
「…強いんだな、お嬢ちゃんは」
秋久さんが帰っていった後は、冬真さんの診察を受けながらどんなふうに入っていくのか演技の仕方を教えてもらう。
「変に気負うより、いつもどおりでいた方がいいと思う。君らしさが消えても意味がないし、やりづらい」
「わ、分かりました」
「演技の話はここまでにして…」
突然右手を握られたけれど、やっぱり指先に感覚はない。
「ごめんなさい」
「どうして謝るの?怪我をしたのは誰のせいでもないんだから、そんなに謝る必要ないでしょ?
いつまでも俯いているより、前を向いた方がいい。…じゃないと、春人さんが一生気にするから」
「ぜ、善処します…」
冬真さんが指先をマッサージしながらぽつりと呟く。
「…本当は僕が力不足なのが悪いんだし、そんなに落ちこまなくていい」
「私が今こうしていられるのは、皆さんのおかげです。だから、力不足だなんて言わないでください」
「君って時々変わってるよね」
はじめは呆れられてしまったのだと思っていたけれど、その表情は晴れ晴れとしていた。
自分でも動かせない右手の指先を左手でマッサージしてみるけれど、やっぱり感覚がない。
「月見ちゃん、ちょっといい?」
「は、はい。どうぞ…」
部屋にやってきた夏彦さんは見慣れない道具を持っていて、これからどんなことがおこるのか少し不安だった。
「ごめんね。一応特別な服を作っておこうと思って、サイズを測らせてほしくてきたんだ」
「えっと、どうすればいいですか?」
「そのままで大丈夫だよ。あ、やっぱりちょっとだけ立ってもらおうかな」
「分かりました」
言われるがまま体を動かしていると、夏彦さんの真剣な表情が目にうつる。
見ているだけで洋服に対して真摯に向き合っているというのはなんとなく理解した。
終わった直後、部屋の扉がゆっくり開かれる。
「…休憩するんだろうと思って持ってきた」
「ありがとうございます」
「ハルが持ってきてあげるなんて珍し…痛っ!?」
「夏彦にはあげない」
温かいココアを持ってきてくれた春人の優しさを感じながら、少しだけ不安に思っているのをなんとなく察知する。
「今日は、色々なことを教えてもらいました」
「…そう」
「なんとかなりそうです」
「……そう」
そう、としか言わない春人にどんな話をしようか困っていると、夏彦さんが苦笑しながら春人に言った。
「…もう少し言葉にしないと伝わらないよ、ハル」
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