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夏彦ルート
第79話
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「夏彦…?」
怒っているようには見えないけれど、何か不安を抱えているような気がする。
「…俺は、これ以上月見ちゃんを巻きこみたくない。勿論他のみんなもだけど…君のことを護りたいんだ。
いつも俺ばかり頼ってて、だけどどうしたらいいのか分からなくて…。普通って難しいね」
「夏彦は、私が傷つくと悲しいんですか?」
「悲しいよ。俺のせいで誰かが傷つくのは、すごく悲しい」
あの場所にいた頃の私なら、きっとその気持ちを理解しきれていないだろう。
けれど、今なら分かる。
ただ、それはきっと他の人たちだって同じだ。
「…私は、夏彦に傷ついてほしくないんです。一緒にいると落ち着いて、いつも私を明るく照らしてくれる…誰でもいいわけじゃなくて、夏彦がいいんです。
それに、誰かを護れるなら私は何度だって蕀さんたちにお願いします。
…このまままた護ってもらうだけなんて、絶対に嫌です」
これだけはどうしても譲れない。
夏彦にどんな言葉を返されても、彼に独りで戦ってほしくなかった。
どうすればいいかなんて、具体的にはまだ分からないけれど…なんとか力になりたい。
何もしない私ではなく、何ができる私になりたいと思った。
「…蕀さんたちにはもうお願いしてあります。ベッドの下で育っている子たちもいますし…きっと上手くいきます。
だから、全部ひとりでやろうとしないでください。私は夏彦に笑っていてほしいんです」
「月見ちゃん…」
しばらく沈黙が流れた後、彼はぽつりと呟いた。
「…電話、どれくらい持ったか覚えてる?」
「は、はい。たしかお店から家までの道で3時間以上は余力があるみたいでした」
「それなら、長さはこれで充分。あとは強度だけど…それをどうにかするのは俺の役目だね」
何かを決意したように、夏彦が顔をあげる。
「今回は俺の負け。復讐の為じゃなくて、決着をつける為とこれ以上被害者を出さない為に。
いつ怒りで暴走するか分からないけど…月見ちゃん、手伝ってくれる?」
「はい、勿論です」
頼ってもらえるのはとても嬉しい。
頭を撫でられるとなんだかどきどきしてしまうけれど、できるだけ顔に出さないようにした。
「蔦は今の分だけあれば充分だから…頼らせてもらうね」
「が、頑張ります」
万が一蕀さんたちで察知できたことがあれば、すぐに伝えられる。
ずっと護ってもらってばかりだった私にだってできることはあるんだと証明したい。
それに、誰かが危ない目に遭うのをただ見ているなんて嫌だ。
「それじゃあまず、こっちをこうして…」
夏彦の説明どおりに蔦を編みながら、少しずつではあるけれど通信に使えるように仕上げていく。
もしも電波をきちんと通すことができたら、彼の側にいてもいいだろうか。
私は相変わらず、そんなことを考えていた。
怒っているようには見えないけれど、何か不安を抱えているような気がする。
「…俺は、これ以上月見ちゃんを巻きこみたくない。勿論他のみんなもだけど…君のことを護りたいんだ。
いつも俺ばかり頼ってて、だけどどうしたらいいのか分からなくて…。普通って難しいね」
「夏彦は、私が傷つくと悲しいんですか?」
「悲しいよ。俺のせいで誰かが傷つくのは、すごく悲しい」
あの場所にいた頃の私なら、きっとその気持ちを理解しきれていないだろう。
けれど、今なら分かる。
ただ、それはきっと他の人たちだって同じだ。
「…私は、夏彦に傷ついてほしくないんです。一緒にいると落ち着いて、いつも私を明るく照らしてくれる…誰でもいいわけじゃなくて、夏彦がいいんです。
それに、誰かを護れるなら私は何度だって蕀さんたちにお願いします。
…このまままた護ってもらうだけなんて、絶対に嫌です」
これだけはどうしても譲れない。
夏彦にどんな言葉を返されても、彼に独りで戦ってほしくなかった。
どうすればいいかなんて、具体的にはまだ分からないけれど…なんとか力になりたい。
何もしない私ではなく、何ができる私になりたいと思った。
「…蕀さんたちにはもうお願いしてあります。ベッドの下で育っている子たちもいますし…きっと上手くいきます。
だから、全部ひとりでやろうとしないでください。私は夏彦に笑っていてほしいんです」
「月見ちゃん…」
しばらく沈黙が流れた後、彼はぽつりと呟いた。
「…電話、どれくらい持ったか覚えてる?」
「は、はい。たしかお店から家までの道で3時間以上は余力があるみたいでした」
「それなら、長さはこれで充分。あとは強度だけど…それをどうにかするのは俺の役目だね」
何かを決意したように、夏彦が顔をあげる。
「今回は俺の負け。復讐の為じゃなくて、決着をつける為とこれ以上被害者を出さない為に。
いつ怒りで暴走するか分からないけど…月見ちゃん、手伝ってくれる?」
「はい、勿論です」
頼ってもらえるのはとても嬉しい。
頭を撫でられるとなんだかどきどきしてしまうけれど、できるだけ顔に出さないようにした。
「蔦は今の分だけあれば充分だから…頼らせてもらうね」
「が、頑張ります」
万が一蕀さんたちで察知できたことがあれば、すぐに伝えられる。
ずっと護ってもらってばかりだった私にだってできることはあるんだと証明したい。
それに、誰かが危ない目に遭うのをただ見ているなんて嫌だ。
「それじゃあまず、こっちをこうして…」
夏彦の説明どおりに蔦を編みながら、少しずつではあるけれど通信に使えるように仕上げていく。
もしも電波をきちんと通すことができたら、彼の側にいてもいいだろうか。
私は相変わらず、そんなことを考えていた。
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