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夏彦ルート
第77話
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「…寝てる?」
「えっと…」
ドアをノックする音が聞こえた瞬間、夏彦は寝たふりをはじめてしまった。
返答に困っていると、冬真さんがため息を吐いて立ちあがる。
「…ちょっとだけ出掛けてくるけど、大人しくしてて。今出掛けたりしたら、傷口が開くから」
「わ、分かりました」
冬真さんの背中を見送り、ふっと息を吐く。
「月見ちゃん」
名前を呼ばれたかと思うと、夏彦は管を勢いよく引き抜いた。
「そ、そんなことをしたら…」
「大丈夫。俺、こういうの慣れてるから。ほら、血が溢れたり傷になったりしてないでしょ?」
夏彦の腕にはたしかに傷がなくて、それを見て安心していた。
「ちょっとだけ外に行かない?」
「冬真さんは勝手に出ないでほしいと言っていた、ので…」
「敷地より外には出ないよ。ただ、そろそろソルトを散歩させたいだけなんだ。
他のみんなは忙しいだろうけど、俺ひとりでは行けないから…」
多分、夏彦の言葉に嘘はない。
…それでも私は、どうしても不安になってしまう。
冬真さんの言葉には、夏彦にも大人しく休んでいてほしいという意味がこめられていたような気がする。
どうしようか迷っていると、にゃあと不機嫌そうに鳴く声がした。
「ソルト…?」
「ソルトも仲間に入りたかったの?ごめんごめん、てっきり寝てるものだとばかり思ってたから…」
「じゃあ私も仲間に入れてくれる、なっちゃん?」
いきなり扉が開いたかと思うと、花菜がふくれっ面で入ってきた。
「駄目だよ、なっちゃんを甘やかしたら…。まあ、誰かの願いを叶えたい月見の気持ちも分かるけどね」
「ご、ごめんなさい…」
花菜の言葉に震えが止まらなくなる。
私が判断を間違えれば、夏彦の具合が悪くなるかもしれない。
それくらい少し考えてみればすぐ分かるのに、なんて浅はかなことをしようとしたんだろう。
俯いていると肩の上に優しく手を置かれる。
「月見ちゃんに頼んだのは俺なんだから、そんなに俯かなくても大丈夫だよ。
それに、外に出たわけじゃないのに咎められる理由はないからね」
「なっちゃんはもうちょっと自分のことも心配して。あと、月見の体のことも気にかけて。
…杖ってなかなか慣れないんだよ」
そんなふうに話すのは、きっと花菜が経験しているからだ。
そうじゃないと、あそこまで怒ったりしない。
「そうだった。ごめんね、月見ちゃん。もっと考慮するべきだった…」
「いえ、私の方こそ気づかなくて本当にすみませんでした」
ソルトが少し満足げに鳴いた声を聞くと、少しだけ安心する。
このまま平穏な時間が続いてほしいと願いながら、杖を握り直した。
「えっと…」
ドアをノックする音が聞こえた瞬間、夏彦は寝たふりをはじめてしまった。
返答に困っていると、冬真さんがため息を吐いて立ちあがる。
「…ちょっとだけ出掛けてくるけど、大人しくしてて。今出掛けたりしたら、傷口が開くから」
「わ、分かりました」
冬真さんの背中を見送り、ふっと息を吐く。
「月見ちゃん」
名前を呼ばれたかと思うと、夏彦は管を勢いよく引き抜いた。
「そ、そんなことをしたら…」
「大丈夫。俺、こういうの慣れてるから。ほら、血が溢れたり傷になったりしてないでしょ?」
夏彦の腕にはたしかに傷がなくて、それを見て安心していた。
「ちょっとだけ外に行かない?」
「冬真さんは勝手に出ないでほしいと言っていた、ので…」
「敷地より外には出ないよ。ただ、そろそろソルトを散歩させたいだけなんだ。
他のみんなは忙しいだろうけど、俺ひとりでは行けないから…」
多分、夏彦の言葉に嘘はない。
…それでも私は、どうしても不安になってしまう。
冬真さんの言葉には、夏彦にも大人しく休んでいてほしいという意味がこめられていたような気がする。
どうしようか迷っていると、にゃあと不機嫌そうに鳴く声がした。
「ソルト…?」
「ソルトも仲間に入りたかったの?ごめんごめん、てっきり寝てるものだとばかり思ってたから…」
「じゃあ私も仲間に入れてくれる、なっちゃん?」
いきなり扉が開いたかと思うと、花菜がふくれっ面で入ってきた。
「駄目だよ、なっちゃんを甘やかしたら…。まあ、誰かの願いを叶えたい月見の気持ちも分かるけどね」
「ご、ごめんなさい…」
花菜の言葉に震えが止まらなくなる。
私が判断を間違えれば、夏彦の具合が悪くなるかもしれない。
それくらい少し考えてみればすぐ分かるのに、なんて浅はかなことをしようとしたんだろう。
俯いていると肩の上に優しく手を置かれる。
「月見ちゃんに頼んだのは俺なんだから、そんなに俯かなくても大丈夫だよ。
それに、外に出たわけじゃないのに咎められる理由はないからね」
「なっちゃんはもうちょっと自分のことも心配して。あと、月見の体のことも気にかけて。
…杖ってなかなか慣れないんだよ」
そんなふうに話すのは、きっと花菜が経験しているからだ。
そうじゃないと、あそこまで怒ったりしない。
「そうだった。ごめんね、月見ちゃん。もっと考慮するべきだった…」
「いえ、私の方こそ気づかなくて本当にすみませんでした」
ソルトが少し満足げに鳴いた声を聞くと、少しだけ安心する。
このまま平穏な時間が続いてほしいと願いながら、杖を握り直した。
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