裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第76話

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「──お願い、蕀さんたち」
その日からすぐ、他の人たちが違和感を覚えない程度に蔦をはった。
どのくらい効果があるのかなんて全然分からない。
ただ、やっぱり何もしないままでいたくなくて思いきりやってみることにした。
私でも誰かの役に立てるなら、とにかく行動してみたい。
「…ソルト、私は大丈夫だから」
白猫の頭をそっと撫でて、ベッドから立ちあがる。
杖を握ろうとすると手のひらがずきずき痛んで、その場にゆっくり腰をおろした。
「少しだけ待っててね」
夏彦が何をしているか心配だ。
もしもまた暴走してしまったら、次こそ本当に誰かを傷つけてしまうかもしれない。
それだけは絶対に阻止したいと思うと、気づいたときには隣の部屋まで来ていた。
「…夏彦、入ってもいいですか?」
「月見ちゃん!?どうぞ、かなり汚れてるけど入って」
「失礼します」
部屋は汚れていたわけではなかったけれど、なんとなく点滴の量が多い気がする。
「具合、悪いんですか?」
「傷口が開いちゃって、まー君に絶対動くなって言われちゃったんだ。
あと、血が足りないらしくてちょっと輸血しておくって…」
夏彦はそこで言葉を止めると、私の腕を掴んだ。
「本当にごめん。無理させちゃったよね…」
「わ、私は大丈夫です。夏彦の方が心配です」
「…包帯巻き直すから、少しだけ待ってて」
「すみません…」
自力でやってはみたものの、やっぱり他の人たちに巻いてもらったときと比べてぐちゃぐちゃになってしまう。
「はい、できた。それから、これからの季節用に作ってたんだ。こんな渡し方で申し訳ないんだけど…」
「ありがとうございます。私にとって、その気持ちが嬉しいことなんです」
「そう言ってくれるならいいんだけど…これ、どうかな?」
それはとても綺麗な茶色のグローブで、なんだか私にとっては大人っぽいように見える。
「こんなに素敵なものが、私に似合うでしょうか?」
「月見ちゃんはきっとこういうの似合うよ。それに、俺の手は誰かを笑顔にする為にあるんだから」
それは彼の夢であり、私が伝えたかったことだ。
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夏彦が望んだ場所で、きっと彼が彼らしくいられる場所だ。
「あの…お店はどうしているんですか?」
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「あの場所は、夏彦にとって大切な場所でしょう?だから、もしなくなってしまったらどうしようって思ったんです。少し安心しました」
「…まさかそんなふうに言ってくれる人がいるなんて思わなかったよ。ありがとう」
夏彦は管が繋がっていない方の手で抱きしめてくれる。
気づいたときには、あんなに沢山あった点滴が空になっていた。
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