裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第74話

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翌朝、少し嫌な夢を視て目が冴えてしまった。
1日休んだくらいですぐに指が動くようになるはずもなく、やっぱり体がふらふらしてしまう。
「…おはようございます、チェリー」
少しだけ眠いものの、自分で料理をしない日があるのは変な感じがする。
それにしても、あんなに手のこんだものを作っているのは一体誰なんだろう。
「…朝の診察、させてもらうから」
「は、はい…」
熱はないかとか血圧がどうだとか、よく分からない数字が沢山並んでいく。
ぼんやりしていると、冬真さんに声をかけられた。
「…朝食持ってくる」
「ありがとうございます。あ、あの…」
「どうかした?」
「ご飯、ありがとうございます」
「…別に」
この反応からすると、やっぱり冬真さんが作ってくれたものだったのだろうか。
「こら、照れてないでちゃんと言わないと伝わらないだろ?」
「秋久さん…」
「悪いな、お嬢ちゃん。こいつはあんまり褒められなれてなくて、今だって照れてるだけなんだ。
多分、俺たちの中では料理が1番上手い」
「そうなんですね…」
春人が用意してくれた食器を洗って持ってきてくれる優しさにも感謝しながら、ふたりの姿が見えなくなるまで頭を下げた。
まだ早朝5時前なのに随分早くからお仕事をしているみたいだと少し疑問に思ったけれど、直接訊けないまま無言で両手を合わせる。
「…春人は起きているでしょうか」
チェリーにそんな言葉をかけながら、彼のことが心配になる。
もしかすると、具合が悪いからあのふたりが沢山看病をしているとか…そう考えると、どうしても不安になってしまった。
もう点滴はしていない私の方が動きやすいのだから、こっちから行ってみよう。
1度心配になると、春人の近くに向かわずにはいられない。
まだ寝ているかもしれないので控えめにノックする。
「…失礼します」
入ってみると、春人は何かを修理しているようだった。
「まだ休んでないと駄目なんじゃ、」
「折角俺に仕事を頼んでくれたんだから、その分はやらないといけない。この状態じゃ外には行けないけど、室内でも修理はできるし…。
ただ、できればでいいから手伝ってほしい。俺だけじゃ道具を運ぶのに苦戦するから」
止めた方がいいんじゃないかとも思ったけれど、結局私は手伝うことにした。
近くにいれば無理をしているかどうかくらいは分かるような気がして、色々な工具をテーブルに並べていく。
「ごめんなさい。やっぱり片手だと時間がかかってしまって…」
「速度なんて気にしなくていい。手伝ってもらえるだけで充分ありがたいから」
春人の笑顔に少しだけ心が軽くなる。
なんだかほっとしたけれど、それと同時に心臓が壊れそうなくらい動き出した。
「それに、今日はどうしてもこれを直しておきたいんだ」
春人が見せてくれたのは、あの時計で間違いなかった。
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