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夏彦ルート
第69話
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「さあ、本家に戻ろう夏彦。そうすればきっと、自らがしたことがどれだけ恥じるべきことか分かるはずだ」
「…俺は、店を作ったことも、人助けの道を選んだことも後悔していない」
なんとか辿り着いた先でおこっていたのは、もうすぐ殺すという瞬間だった。
夏彦はぼろぼろの状態なのに、それでも相手にかかっていくつもりでいるのは見ただけですぐに分かる。
「おまえの気が迷っているのは、周りにあるもののせいかな?…それなら、全部壊してしまおうか」
「何も摘ませない!」
ぽたぽたと血が滴り落ちるのも気にせずに、夏彦は拳をふりあげている。
間に入って止めたかったけれど、怖くて足が動かない。
ただ、多分相手は私がここにいることに気づいていないだろう。
「──お願い、蕀さんたち」
無数の蔦を操って、少し離れた場所から攻撃を仕掛ける。
これからどうなってしまうだろうと不安に思いながら、沢山の蕀さんたちに手伝ってもらった。
ただ、刀に細工がしてあるのかすぐに切られてしまう。
「…どうやら親子喧嘩の邪魔をしているものがいるようだね。あの3人のうちの誰かかな」
「さあな。今更保護者面するあんたに教える義理はない」
夏彦のポケットから沢山の武器が出てきて、刀とナイフがぶつかる音が響き渡る。
「なんだ、まだ諦めてくれないのか。もうぼろぼろなんだから降参しなさい」
「断る。あんたたちとは同じにならない」
「…まったく、夏樹みたいな我儘を言わないでくれ」
「おまえがその名前を呼ぶな…!」
ただ見ているだけの私にだって、蕀さんを通さなくても分かる。
彼は怒っていて、悲しんでいて…もう自分ではどうしようもないような感情を抱いていることが。
「反抗期も大概にしなさい」
「人であることを捨てたあんたが言うのか」
「…やれやれ、大人の言うことは絶対だと見せつけなければならないようだ」
そう話したかと思うと、男の蹴りは思いきり夏彦のお腹の傷を直撃した。
「……っ、ごほ!」
「残念だが、これで終わりのようだ。連れ帰って再教育することにしよう」
刀を大きく持ちあげる腕が目に入る。
その瞬間、もう迷いはなかった。
近くにいるある人のところまで、蕀さんの力を使ってソルトが入ったケージを届ける。
「…あとで夏彦が来てくれますから」
走っている誰かの足はそこで止まって、私史上1番速く夏彦に駆け寄った。
背中と太もものあたりに同時に痛みを感じる。
「なん、で…」
「まさかこんなことがおこるなんてね」
じわりと赤い花を咲かせて、その場に倒れこむ。
夏彦はナイフであの人を刺すつもりだった。
…それを自分の体で止めたから、殺すつもりがなかったことくらい分かる。
「夏彦の、手は、誰かを護る為に…」
首だけ後ろをふりかえって、彼に向かってできるだけ笑ってみせた。
背中には少し痛みがあるくらいなのに、足の感覚がもうない。
この人は死なない程度に夏彦を斬り捨てるつもりだったんだ。
もう1度男の方に顔を向けて、ひと束だけ持っていた蕀さんたちに向かって念じる。
「あなたの、負けです…」
「まさかこんなものがこの世に存在したなんてね。夏彦…おまえを、愛して…」
しっかり固定したつもりだけれど、あんまり自信はない。
これ以上嘘の言葉を聞きたくなくて、少しだけ力を強めた。
「俺のせいだ。俺が、こいつを──けば、」
「夏彦、やめろ。それ以上言ったら今のおまえでも殴るぞ」
かちゃかちゃと何かをつけられる音がする。
私がではなく、男に、だ。
月光降り注ぐ中、誰かの号哭が耳に届く。
雨が降ってきたのか、頬に冷たい水が当たるのを感じながら目を閉じた。
「…俺は、店を作ったことも、人助けの道を選んだことも後悔していない」
なんとか辿り着いた先でおこっていたのは、もうすぐ殺すという瞬間だった。
夏彦はぼろぼろの状態なのに、それでも相手にかかっていくつもりでいるのは見ただけですぐに分かる。
「おまえの気が迷っているのは、周りにあるもののせいかな?…それなら、全部壊してしまおうか」
「何も摘ませない!」
ぽたぽたと血が滴り落ちるのも気にせずに、夏彦は拳をふりあげている。
間に入って止めたかったけれど、怖くて足が動かない。
ただ、多分相手は私がここにいることに気づいていないだろう。
「──お願い、蕀さんたち」
無数の蔦を操って、少し離れた場所から攻撃を仕掛ける。
これからどうなってしまうだろうと不安に思いながら、沢山の蕀さんたちに手伝ってもらった。
ただ、刀に細工がしてあるのかすぐに切られてしまう。
「…どうやら親子喧嘩の邪魔をしているものがいるようだね。あの3人のうちの誰かかな」
「さあな。今更保護者面するあんたに教える義理はない」
夏彦のポケットから沢山の武器が出てきて、刀とナイフがぶつかる音が響き渡る。
「なんだ、まだ諦めてくれないのか。もうぼろぼろなんだから降参しなさい」
「断る。あんたたちとは同じにならない」
「…まったく、夏樹みたいな我儘を言わないでくれ」
「おまえがその名前を呼ぶな…!」
ただ見ているだけの私にだって、蕀さんを通さなくても分かる。
彼は怒っていて、悲しんでいて…もう自分ではどうしようもないような感情を抱いていることが。
「反抗期も大概にしなさい」
「人であることを捨てたあんたが言うのか」
「…やれやれ、大人の言うことは絶対だと見せつけなければならないようだ」
そう話したかと思うと、男の蹴りは思いきり夏彦のお腹の傷を直撃した。
「……っ、ごほ!」
「残念だが、これで終わりのようだ。連れ帰って再教育することにしよう」
刀を大きく持ちあげる腕が目に入る。
その瞬間、もう迷いはなかった。
近くにいるある人のところまで、蕀さんの力を使ってソルトが入ったケージを届ける。
「…あとで夏彦が来てくれますから」
走っている誰かの足はそこで止まって、私史上1番速く夏彦に駆け寄った。
背中と太もものあたりに同時に痛みを感じる。
「なん、で…」
「まさかこんなことがおこるなんてね」
じわりと赤い花を咲かせて、その場に倒れこむ。
夏彦はナイフであの人を刺すつもりだった。
…それを自分の体で止めたから、殺すつもりがなかったことくらい分かる。
「夏彦の、手は、誰かを護る為に…」
首だけ後ろをふりかえって、彼に向かってできるだけ笑ってみせた。
背中には少し痛みがあるくらいなのに、足の感覚がもうない。
この人は死なない程度に夏彦を斬り捨てるつもりだったんだ。
もう1度男の方に顔を向けて、ひと束だけ持っていた蕀さんたちに向かって念じる。
「あなたの、負けです…」
「まさかこんなものがこの世に存在したなんてね。夏彦…おまえを、愛して…」
しっかり固定したつもりだけれど、あんまり自信はない。
これ以上嘘の言葉を聞きたくなくて、少しだけ力を強めた。
「俺のせいだ。俺が、こいつを──けば、」
「夏彦、やめろ。それ以上言ったら今のおまえでも殴るぞ」
かちゃかちゃと何かをつけられる音がする。
私がではなく、男に、だ。
月光降り注ぐ中、誰かの号哭が耳に届く。
雨が降ってきたのか、頬に冷たい水が当たるのを感じながら目を閉じた。
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