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夏彦ルート
第64話
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夏彦に、好かれている?私が?
その一言に、ただ呆然とすることしかできない。
「秋久、彼女が困っていますよ」
「そうだな。悪い、急に驚かせた」
首を横にふりながら、心臓が壊れそうなくらい音を立てているのを止められない。
これは喜び?それとも、また別の感情が花開きそうになっているのだろうか。
「それ、は……」
ごほごほと咳こんでしまっていると、突然背中に手がまわされる。
「大丈夫?」
その声は間違いなく夏彦のもので、また心臓がどくどくと脈打つ。
ゆっくり頷くと、彼からどうしてか苛立ちと不安を感じた。
「何を話してたのか知らないけど、お見舞いはもういいでしょ。…今日はもう帰って」
「…これ飲んだら治る。駄目そうだったら呼んで」
「お大事になさってください」
「またな、お嬢ちゃん。元気になったらまた話をしよう」
ばたばたと帰っていく3人に一礼すると、夏彦はふっと息を吐いた。
「大丈夫?嫌なことされてない?」
話そうとすると喉に変な感覚を感じたので、ただ頷いておくだけにする。
夏彦は安心したような表情をして、ただ私の手を握ってくれた。
「無理に話そうとしなくていいから、取り敢えずご飯食べようか。…月見ちゃん、ちょっと喉が腫れてるから話しづらいと思うってまー君が言ってたんだ。
刺激物は避けたつもりだけど、もし食べづらいものがあったら教えてね」
まだここに来たばかりの頃、試供品だから受け取ってほしいと言われて持っていたノートがあるのを思い出す。
【ありがとうございます】
「そんなお礼を言われるようなことなんて何もしてないよ。俺もここで食べていい?」
その言葉が嬉しくて頷くと、夏彦はただ微笑んだ。
いつの間にか彼から怒りと不安が消えていて、少しだけ安心する。
食べやすいようにと考えてくれたのか、器の中にはうどんが入っていた。
両手を合わせて一口食べてみると、それは今まで食べてきたうどんの中で1番美味しく感じた。
「どうかな?美味しい?」
その言葉に頷いてみせると、夏彦はまた笑った。
「やっぱり最近、ちょっと笑う回数増えてきたような気がする。そういうの、すごく嬉しいな」
「…?」
「そんなに不思議なこと?俺は君が笑ってくれるの、すごく嬉しいんだけど…」
どう答えたらいいのか分からない。
思っていることを言葉にすれば、彼に伝わるだろうか。
【私はもっと夏彦に笑ってほしいです】
「嬉しいこと言ってくれるね。だけど、俺はちゃんと笑ってるよ。今だって、月見ちゃんと一緒にいるのが楽しいから笑えるわけだしね!」
いつもどおりの明るい様子に安心しながら、ゆっくりと食べ進めていく。
久しぶりの平穏な時間を楽しんでいたけれど、秋久さんたちの言葉が胸に残っていた。
その一言に、ただ呆然とすることしかできない。
「秋久、彼女が困っていますよ」
「そうだな。悪い、急に驚かせた」
首を横にふりながら、心臓が壊れそうなくらい音を立てているのを止められない。
これは喜び?それとも、また別の感情が花開きそうになっているのだろうか。
「それ、は……」
ごほごほと咳こんでしまっていると、突然背中に手がまわされる。
「大丈夫?」
その声は間違いなく夏彦のもので、また心臓がどくどくと脈打つ。
ゆっくり頷くと、彼からどうしてか苛立ちと不安を感じた。
「何を話してたのか知らないけど、お見舞いはもういいでしょ。…今日はもう帰って」
「…これ飲んだら治る。駄目そうだったら呼んで」
「お大事になさってください」
「またな、お嬢ちゃん。元気になったらまた話をしよう」
ばたばたと帰っていく3人に一礼すると、夏彦はふっと息を吐いた。
「大丈夫?嫌なことされてない?」
話そうとすると喉に変な感覚を感じたので、ただ頷いておくだけにする。
夏彦は安心したような表情をして、ただ私の手を握ってくれた。
「無理に話そうとしなくていいから、取り敢えずご飯食べようか。…月見ちゃん、ちょっと喉が腫れてるから話しづらいと思うってまー君が言ってたんだ。
刺激物は避けたつもりだけど、もし食べづらいものがあったら教えてね」
まだここに来たばかりの頃、試供品だから受け取ってほしいと言われて持っていたノートがあるのを思い出す。
【ありがとうございます】
「そんなお礼を言われるようなことなんて何もしてないよ。俺もここで食べていい?」
その言葉が嬉しくて頷くと、夏彦はただ微笑んだ。
いつの間にか彼から怒りと不安が消えていて、少しだけ安心する。
食べやすいようにと考えてくれたのか、器の中にはうどんが入っていた。
両手を合わせて一口食べてみると、それは今まで食べてきたうどんの中で1番美味しく感じた。
「どうかな?美味しい?」
その言葉に頷いてみせると、夏彦はまた笑った。
「やっぱり最近、ちょっと笑う回数増えてきたような気がする。そういうの、すごく嬉しいな」
「…?」
「そんなに不思議なこと?俺は君が笑ってくれるの、すごく嬉しいんだけど…」
どう答えたらいいのか分からない。
思っていることを言葉にすれば、彼に伝わるだろうか。
【私はもっと夏彦に笑ってほしいです】
「嬉しいこと言ってくれるね。だけど、俺はちゃんと笑ってるよ。今だって、月見ちゃんと一緒にいるのが楽しいから笑えるわけだしね!」
いつもどおりの明るい様子に安心しながら、ゆっくりと食べ進めていく。
久しぶりの平穏な時間を楽しんでいたけれど、秋久さんたちの言葉が胸に残っていた。
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