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秋久ルート
第2話
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言われたとおりしばらく待っていると、どこかから1枚の写真がひらひらと落ちてくる。
勝手に見るのは申し訳ないと思いつつそれを拾った。
【xx年、冬真を連れて行く】
後ろにそう書かれていた写真にうつっているのは小さな男の子とその子の肩に手を添える少年の姿だった。
何もしないわけにもいかないと思い直し、取り敢えず持ち物の中にあった掃除セットを取り出す。
あまりほこりはないようだけれど、少しずつ床掃除をすませていく。
「あ…」
上の方から何かが動く音がして咄嗟に身構える。
ばらばらになりかけているファイルを支えていると、今度は支えきれなかったものが音をたてて崩れていく。
「【野村秋久と蔡原夏樹】…?」
大きめの写真に、見たことがない制服…秋久さんが学生だった頃のものだろうか。
「悪い、もう少し片づけておくべきだったな」
「い、いえ…。私の方こそ勝手に見てすみません」
「いや、別に見られて困るものはないし、片づけてなかったのは俺だからな。掃除してくれてたのか、ありがとな」
「本当に勝手なことばかりして、すみません」
「こういうのをやってもらえると、俺としてはありがたい。お嬢ちゃんの部屋はこっちだ」
秋久さんは丁寧に案内してくれて、そこは沢山の可愛いもので溢れていた。
「ここを好きに使ってくれ」
「でも、私は…」
「訳ありなんだろ?そういうことを収拾する為に、俺たちみたいな仕事があるんだ」
秋久さんは優しく笑いかけながら接してくれた。
私なんかにそんな資格はないのに、どうしてこの人は普通の人と話すみたいな態度でいてくれるんだろう。
「どんなお仕事、なんですか?」
「ああ、それは──」
そのとき、ざりざりと音がして秋久さんは首からぶら下げていた機械を耳にしっかりつけ直す。
「俺だ。どうした?…それは問題だな。5分で戻るから少し待っててくれ」
そう話した後、秋久さんは申し訳なさそうな表情を私に向ける。
「すまない。俺の仕事は急に出ていかないといけなくなることが多くてな。
…お嬢ちゃん、悪いが留守番を頼めるか?こっちの夜食は好きに食べてくれて構わないから」
「は、はい。分かりました」
「それじゃあいってくる」
頭に優しく手がおろされて、なんだか変な感じがしてしまう。
今までこんなふうに扱われたことがないからだろうか。
今だって、たたかれると思って体に反射的に力が入ってしまっていた。
申し訳ないと思いながら、好きに食べていいと言ってもらえたものに早速手を伸ばす。
「…いただきます」
一口食べてみると、何故か涙が止まらなくなった。
こんなに温かいものを食べたのはいつ以来だろう、どうしてこんなによくしてくれるんだろう…色々な気持ちでぐちゃぐちゃだ。
何かお礼をしようと思ったのに、体が重くてそのまま机に突っ伏してしまう。
少し恐怖を感じたけれど、そのまま意識が真っ黒になった。
勝手に見るのは申し訳ないと思いつつそれを拾った。
【xx年、冬真を連れて行く】
後ろにそう書かれていた写真にうつっているのは小さな男の子とその子の肩に手を添える少年の姿だった。
何もしないわけにもいかないと思い直し、取り敢えず持ち物の中にあった掃除セットを取り出す。
あまりほこりはないようだけれど、少しずつ床掃除をすませていく。
「あ…」
上の方から何かが動く音がして咄嗟に身構える。
ばらばらになりかけているファイルを支えていると、今度は支えきれなかったものが音をたてて崩れていく。
「【野村秋久と蔡原夏樹】…?」
大きめの写真に、見たことがない制服…秋久さんが学生だった頃のものだろうか。
「悪い、もう少し片づけておくべきだったな」
「い、いえ…。私の方こそ勝手に見てすみません」
「いや、別に見られて困るものはないし、片づけてなかったのは俺だからな。掃除してくれてたのか、ありがとな」
「本当に勝手なことばかりして、すみません」
「こういうのをやってもらえると、俺としてはありがたい。お嬢ちゃんの部屋はこっちだ」
秋久さんは丁寧に案内してくれて、そこは沢山の可愛いもので溢れていた。
「ここを好きに使ってくれ」
「でも、私は…」
「訳ありなんだろ?そういうことを収拾する為に、俺たちみたいな仕事があるんだ」
秋久さんは優しく笑いかけながら接してくれた。
私なんかにそんな資格はないのに、どうしてこの人は普通の人と話すみたいな態度でいてくれるんだろう。
「どんなお仕事、なんですか?」
「ああ、それは──」
そのとき、ざりざりと音がして秋久さんは首からぶら下げていた機械を耳にしっかりつけ直す。
「俺だ。どうした?…それは問題だな。5分で戻るから少し待っててくれ」
そう話した後、秋久さんは申し訳なさそうな表情を私に向ける。
「すまない。俺の仕事は急に出ていかないといけなくなることが多くてな。
…お嬢ちゃん、悪いが留守番を頼めるか?こっちの夜食は好きに食べてくれて構わないから」
「は、はい。分かりました」
「それじゃあいってくる」
頭に優しく手がおろされて、なんだか変な感じがしてしまう。
今までこんなふうに扱われたことがないからだろうか。
今だって、たたかれると思って体に反射的に力が入ってしまっていた。
申し訳ないと思いながら、好きに食べていいと言ってもらえたものに早速手を伸ばす。
「…いただきます」
一口食べてみると、何故か涙が止まらなくなった。
こんなに温かいものを食べたのはいつ以来だろう、どうしてこんなによくしてくれるんだろう…色々な気持ちでぐちゃぐちゃだ。
何かお礼をしようと思ったのに、体が重くてそのまま机に突っ伏してしまう。
少し恐怖を感じたけれど、そのまま意識が真っ黒になった。
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