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夏彦ルート
第63話
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「今日は無理しないで寝てて」
「すみません…」
翌日、私は体調を崩した。
蕀さんたちに色々やってもらったからだろうか。
夜くらいから少し熱っぽかったけれど、いつものことだからと気にしていなかった。
…油断していたのかもしれない。
「ソルト…?」
ベッドで横になっていると、ソルトがちょこんと枕元にやってくる。
その瞳は心配そうに揺れていて、それでも私にはただ頭を撫でることしかできない。
「大丈夫、少し寝たらすぐよくなるから…」
ふわふわの毛並みに触れているととても安心する。
撫でながらゆっくり視界が黒に染まっていく。
心地よい眠気に襲われて、そのまま眠ってしまった。
「──だから、今は……なんだ」
「そうか。きっと──で……‥だろう」
遠くの方で誰かが話す声がする。
重い瞼をあげると、そこには見覚えのある向日葵色の髪がふわふわと揺れていた。
「夏…」
喉を少し痛めてしまったのか、掠れた声しか出せない。
「あんまり無理して話さないほうがいい。一応薬は処方したけど、あんまり期待しないで」
冬真さんの声に驚いて、思いきり体を起こす。
秋久さんと夏彦だけだと思っていたけれど、冬真さんの他に春人さんもいる。
もし会議をするつもりなら、私がここにいては邪魔になってしまう。
「邪魔とか考えなくていいからね!まー君を呼んだらみんなで月見ちゃんのお見舞いに来てくれただけだから」
体調が悪いときに誰かが来てくれる、それがお見舞い…本で読んだことはあるけれど、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。
体調を崩したとき、誰かが近くにいてくれるのは本当に幸せなことだと思う。
もうあの人たちにたたき起こされたり、仮病扱いされないんだと考えるだけでほっとした。
「顔色がよくないみたいだが、平気か?」
秋久さんの言葉に頷いて答えると、そうかと一言返ってきた。
「月見ちゃん、何か食べられそう?」
「は、」
「それならすぐ作ってくるから、ちょっとだけ待っててね」
そう言うと、夏彦は慌ただしく部屋を出ていってしまった。
「お嬢ちゃん、随分あいつに惚れられてるらしいな」
その言葉の意味が分からなくて首を傾げていると、冬真さんがため息を吐いた。
「君もあの人もちょっと疎そうだから、両片想い状態なんじゃない?」
「ふたりとも、彼女は療養しているんですからその話はまた今度にしましょう」
春人さんはそう言ってくれたけれど、やっぱり意味が分からなくて首を傾げてしまう。
「夏彦には秘密ですよ」
その言葉に頷いたものの、夏彦の前で普通に振る舞えるか分からない。
少しだけ困っていると、秋久さんがふっと笑った。
「お嬢ちゃん、代わりにいいこと教えてやる。冬真のところに駆けこんできたときの必死な顔…あんなの久しぶりに見た。
簡単に言ってしまえば、お嬢ちゃんはあいつからかなり好かれてるんだと思う。もっと自信を持っていい」
「すみません…」
翌日、私は体調を崩した。
蕀さんたちに色々やってもらったからだろうか。
夜くらいから少し熱っぽかったけれど、いつものことだからと気にしていなかった。
…油断していたのかもしれない。
「ソルト…?」
ベッドで横になっていると、ソルトがちょこんと枕元にやってくる。
その瞳は心配そうに揺れていて、それでも私にはただ頭を撫でることしかできない。
「大丈夫、少し寝たらすぐよくなるから…」
ふわふわの毛並みに触れているととても安心する。
撫でながらゆっくり視界が黒に染まっていく。
心地よい眠気に襲われて、そのまま眠ってしまった。
「──だから、今は……なんだ」
「そうか。きっと──で……‥だろう」
遠くの方で誰かが話す声がする。
重い瞼をあげると、そこには見覚えのある向日葵色の髪がふわふわと揺れていた。
「夏…」
喉を少し痛めてしまったのか、掠れた声しか出せない。
「あんまり無理して話さないほうがいい。一応薬は処方したけど、あんまり期待しないで」
冬真さんの声に驚いて、思いきり体を起こす。
秋久さんと夏彦だけだと思っていたけれど、冬真さんの他に春人さんもいる。
もし会議をするつもりなら、私がここにいては邪魔になってしまう。
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体調が悪いときに誰かが来てくれる、それがお見舞い…本で読んだことはあるけれど、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。
体調を崩したとき、誰かが近くにいてくれるのは本当に幸せなことだと思う。
もうあの人たちにたたき起こされたり、仮病扱いされないんだと考えるだけでほっとした。
「顔色がよくないみたいだが、平気か?」
秋久さんの言葉に頷いて答えると、そうかと一言返ってきた。
「月見ちゃん、何か食べられそう?」
「は、」
「それならすぐ作ってくるから、ちょっとだけ待っててね」
そう言うと、夏彦は慌ただしく部屋を出ていってしまった。
「お嬢ちゃん、随分あいつに惚れられてるらしいな」
その言葉の意味が分からなくて首を傾げていると、冬真さんがため息を吐いた。
「君もあの人もちょっと疎そうだから、両片想い状態なんじゃない?」
「ふたりとも、彼女は療養しているんですからその話はまた今度にしましょう」
春人さんはそう言ってくれたけれど、やっぱり意味が分からなくて首を傾げてしまう。
「夏彦には秘密ですよ」
その言葉に頷いたものの、夏彦の前で普通に振る舞えるか分からない。
少しだけ困っていると、秋久さんがふっと笑った。
「お嬢ちゃん、代わりにいいこと教えてやる。冬真のところに駆けこんできたときの必死な顔…あんなの久しぶりに見た。
簡単に言ってしまえば、お嬢ちゃんはあいつからかなり好かれてるんだと思う。もっと自信を持っていい」
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