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夏彦ルート
第62話
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帰り道、いつものように話しながらゆっくり歩く。
「ごめんね、待たせもらっちゃって…」
「いえ、大丈夫です。話、まとまったんですか?」
「多少ね。たっぷり怒られちゃったし、次からもっと気をつけないと」
「ひとりで、頑張らないでください」
なんだか夏彦だけ遠くにいるような気がして、ついそんな言葉をかけてしまう。
彼ははっとした様子でこちらを見ると、そっと頭を撫でてくれた。
「ありがとう。俺は大丈夫だよ。独りでなんとかしないといけないことだからって、ずっとそう思ってた。
だけど今は、みんなを巻きこみながらやってる。…もう勝手に暴走したりしないように気をつけるよ」
やっぱり心配ではあるけれど、私にできることは本当に少ない。
それが申し訳なくて、ただ黙って少し後ろを歩いた。
「もっとこっちおいで」
「え…」
腕を引かれて少し体勢を崩してしまいながら、ゆっくり夏彦の隣を歩き出す。
「月見ちゃんが嫌じゃなければ、俺はこうやって帰りたいな」
「夏彦がいいなら、お願いします…」
私なんかがこんなふうに誰かの隣を歩いてはいけないんだと思っていた。
人と違うからと癖でつい1歩ひいてしまいがちだ。
けれどもし、隣にいることが許されるなら…私はずっと夏彦の側にいたい。
いつの間にかすくすくと育っていたこの気持ちは一体何だろう。
「ソルトも疲れてるみたいだし、ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
近くのベンチに腰掛けると、夏彦がすぐに飲み物を買ってきてくれた。
「こういうのの方が体が温まるだろうから…はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
まだ温かいココアを飲みながら、大人しく座っているソルトの頭を撫でる。
にゃあとひと鳴きしたかと思うと、手にすり寄ってきてくれた。
「ふたりは本当に仲良しだね。俺も混ぜてほしいな…」
不機嫌そうにしっぽをふるソルトは、仕方がないというように短く鳴いた。
「俺相手がそんなに嫌とは…」
「嫌なんじゃなくて、戸惑っているのではないでしょうか?夏彦はいつも優しいから、どう接したらいいのか分からないのかもしれません」
「月見ちゃん…ありがとう。ソルトのことだけじゃなくて、色々」
特にお礼を言われるようなことをした覚えがないので、ただ首を傾げることしかできない。
「本当にありがとう」
「私、何もしてないです」
「俺にとっては、君の何気ない言葉が救いになってるよ」
今の言葉はきっと嘘じゃない。
もし嘘なら、あんな表情にはならないと思うから。
「そろそろ行こうか。家までは特定されてないから、帰ってゆっくり寛ごう」
「はい。あの…私にも、なにか手伝えることはありませんか?」
あんまり役に立てていないので、思いきって訊いてみる。
すると、思ってもいなかった言葉が返ってきた。
「月見ちゃんは充分頑張ってるよ。強いて言うなら、もっと我儘を言ってほしいくらいにね」
「ごめんね、待たせもらっちゃって…」
「いえ、大丈夫です。話、まとまったんですか?」
「多少ね。たっぷり怒られちゃったし、次からもっと気をつけないと」
「ひとりで、頑張らないでください」
なんだか夏彦だけ遠くにいるような気がして、ついそんな言葉をかけてしまう。
彼ははっとした様子でこちらを見ると、そっと頭を撫でてくれた。
「ありがとう。俺は大丈夫だよ。独りでなんとかしないといけないことだからって、ずっとそう思ってた。
だけど今は、みんなを巻きこみながらやってる。…もう勝手に暴走したりしないように気をつけるよ」
やっぱり心配ではあるけれど、私にできることは本当に少ない。
それが申し訳なくて、ただ黙って少し後ろを歩いた。
「もっとこっちおいで」
「え…」
腕を引かれて少し体勢を崩してしまいながら、ゆっくり夏彦の隣を歩き出す。
「月見ちゃんが嫌じゃなければ、俺はこうやって帰りたいな」
「夏彦がいいなら、お願いします…」
私なんかがこんなふうに誰かの隣を歩いてはいけないんだと思っていた。
人と違うからと癖でつい1歩ひいてしまいがちだ。
けれどもし、隣にいることが許されるなら…私はずっと夏彦の側にいたい。
いつの間にかすくすくと育っていたこの気持ちは一体何だろう。
「ソルトも疲れてるみたいだし、ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
近くのベンチに腰掛けると、夏彦がすぐに飲み物を買ってきてくれた。
「こういうのの方が体が温まるだろうから…はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
まだ温かいココアを飲みながら、大人しく座っているソルトの頭を撫でる。
にゃあとひと鳴きしたかと思うと、手にすり寄ってきてくれた。
「ふたりは本当に仲良しだね。俺も混ぜてほしいな…」
不機嫌そうにしっぽをふるソルトは、仕方がないというように短く鳴いた。
「俺相手がそんなに嫌とは…」
「嫌なんじゃなくて、戸惑っているのではないでしょうか?夏彦はいつも優しいから、どう接したらいいのか分からないのかもしれません」
「月見ちゃん…ありがとう。ソルトのことだけじゃなくて、色々」
特にお礼を言われるようなことをした覚えがないので、ただ首を傾げることしかできない。
「本当にありがとう」
「私、何もしてないです」
「俺にとっては、君の何気ない言葉が救いになってるよ」
今の言葉はきっと嘘じゃない。
もし嘘なら、あんな表情にはならないと思うから。
「そろそろ行こうか。家までは特定されてないから、帰ってゆっくり寛ごう」
「はい。あの…私にも、なにか手伝えることはありませんか?」
あんまり役に立てていないので、思いきって訊いてみる。
すると、思ってもいなかった言葉が返ってきた。
「月見ちゃんは充分頑張ってるよ。強いて言うなら、もっと我儘を言ってほしいくらいにね」
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