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夏彦ルート
第60話
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夏彦は私の言葉にそんなに驚いた様子もなく、一歩一歩慎重に様子を窺いながら歩みを進めていく。
「どうして人がいるなんて分かるの?」
「さっき、画面のこのあたりにゆらゆら動く影がうつりました。…それが何となく、嫌な予感がするんです」
冬真さんに蕀さんたちのことは言えないので、なんとか誤魔化した。
夏彦の力になれることを嬉しく思いながら、じっと画面を見つめる。
『…いた。流石探しものを見つけるのが早いね。ありがとう、月見ちゃん』
「私は大したことなんてしてないです」
弱くてこれしかできないからというのが半分、役に立ちたかったから当たり前だというのが半分…。
心がこんなに沢山動いたのは初めてかもしれない。
『あんたたち、本当に懲りないよね。そんなに俺に相手してほしいの?』
「…!」
顔を合わせた瞬間、夏彦からとんでもない殺気が溢れ出した。
まるで今まで抑えていた全てをぶつけるように、静かな怒りが燃えている。
「秋久さん、3ブロック先を左に進んで。あの人をひとりで戦わせるのは危険だ」
『了解』
冬真さんが秋久さんを誘導している間に、夏彦たちの話はどんどん進んでいく。
『何しにきた?二度と顔を出すなって忠告はしたはずだけど』
『自分の息子に会うのに理由が必要か?』
『今更父親づらするんじゃない』
やっぱり夏彦は怒っている。
勿論それだけではなく、もし勘違いでなければ彼は…。
「夏彦、あなたが怒る気持ちはなんとなく分かります。それでも、相手を殺してしまったらその人たちと同じになります」
『…!』
一瞬だけぴくりと眉が動いたのを見逃さなかっな。
やっぱり、夏彦は──
「私は優しいあなたが大好きです。だからどうしても力になりたかった…。夏彦の手は誰かを傷つける為ではなくて、誰かの幸せを作っていく為にあるんだと思います。
私なんかじゃ何もできないかもしれないけど…それでも、あなたの手はいつでも笑顔を作る為にあってほしいんです」
どんな言葉をかけたらいいのか分からなくて、ぐちゃぐちゃになった感情をぶつけてしまった。
夏彦の表情は少し固くなっていたけれど、やがて小さな呟きが耳に届く。
『…ありがとう』
そして次の瞬間、がらがらと音をたてて大量のダンボールが崩れていった。
『どうだ、もう満足だろう。夏樹の弟の…俺の大事な仲間を傷つけさせはしない』
その声は秋久さんだったけれど、1番近くに立っていたのは春人さんだった。
『…ふたりとも、さがっていてくださいね』
ふしゅふしゅという音がしたかと思うと、画面いっぱいに飴が映し出される。
何が起こったのか分からないまま画面を見ていると、3人の姿が映った。
『一旦戻るか』
『そうしましょう。これからの作戦もたてなければいけませんし、この馬鹿にちょっとばかりお仕置きが必要なようですから』
『そんなに馬鹿って言わなくてもいいのに…』
さっきまでとは全然違う、和やかな雰囲気が流れている。
冬真さんも安心したのかゆっくり椅子に座りこんだ。
「どうして人がいるなんて分かるの?」
「さっき、画面のこのあたりにゆらゆら動く影がうつりました。…それが何となく、嫌な予感がするんです」
冬真さんに蕀さんたちのことは言えないので、なんとか誤魔化した。
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『…いた。流石探しものを見つけるのが早いね。ありがとう、月見ちゃん』
「私は大したことなんてしてないです」
弱くてこれしかできないからというのが半分、役に立ちたかったから当たり前だというのが半分…。
心がこんなに沢山動いたのは初めてかもしれない。
『あんたたち、本当に懲りないよね。そんなに俺に相手してほしいの?』
「…!」
顔を合わせた瞬間、夏彦からとんでもない殺気が溢れ出した。
まるで今まで抑えていた全てをぶつけるように、静かな怒りが燃えている。
「秋久さん、3ブロック先を左に進んで。あの人をひとりで戦わせるのは危険だ」
『了解』
冬真さんが秋久さんを誘導している間に、夏彦たちの話はどんどん進んでいく。
『何しにきた?二度と顔を出すなって忠告はしたはずだけど』
『自分の息子に会うのに理由が必要か?』
『今更父親づらするんじゃない』
やっぱり夏彦は怒っている。
勿論それだけではなく、もし勘違いでなければ彼は…。
「夏彦、あなたが怒る気持ちはなんとなく分かります。それでも、相手を殺してしまったらその人たちと同じになります」
『…!』
一瞬だけぴくりと眉が動いたのを見逃さなかっな。
やっぱり、夏彦は──
「私は優しいあなたが大好きです。だからどうしても力になりたかった…。夏彦の手は誰かを傷つける為ではなくて、誰かの幸せを作っていく為にあるんだと思います。
私なんかじゃ何もできないかもしれないけど…それでも、あなたの手はいつでも笑顔を作る為にあってほしいんです」
どんな言葉をかけたらいいのか分からなくて、ぐちゃぐちゃになった感情をぶつけてしまった。
夏彦の表情は少し固くなっていたけれど、やがて小さな呟きが耳に届く。
『…ありがとう』
そして次の瞬間、がらがらと音をたてて大量のダンボールが崩れていった。
『どうだ、もう満足だろう。夏樹の弟の…俺の大事な仲間を傷つけさせはしない』
その声は秋久さんだったけれど、1番近くに立っていたのは春人さんだった。
『…ふたりとも、さがっていてくださいね』
ふしゅふしゅという音がしたかと思うと、画面いっぱいに飴が映し出される。
何が起こったのか分からないまま画面を見ていると、3人の姿が映った。
『一旦戻るか』
『そうしましょう。これからの作戦もたてなければいけませんし、この馬鹿にちょっとばかりお仕置きが必要なようですから』
『そんなに馬鹿って言わなくてもいいのに…』
さっきまでとは全然違う、和やかな雰囲気が流れている。
冬真さんも安心したのかゆっくり椅子に座りこんだ。
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