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夏彦ルート
第55話
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こんな勝手なことをして、怒られるのは間違いないだろう。
それでも、この場所を護る為に何かせずにはいられない。
もしも今あの人たちが入ってきたら、夏彦は怒りを抑えられなくなるだろう。
それに、おかしな噂になってお客さんがこなくなってしまうのはきっと悲しい。
「…もしも動きがあればすぐ分かるようにしておいた方が、いいですよね?」
隣でじっとしているソルトに声をかけると、血がついていない手の甲をぺろっとなめてくれる。
それはまるで慰めてくれているようで、そう思うと涙が一筋零れた。
「…血を落とすから、少しだけ待ってね」
本当はソルトの頭を撫でたいけれど、このまま触れば大変なことになってしまうかもしれない。
それに…できれば彼には知られたくない、隠しておかなければいけないような気がする。
「店長、ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「その部屋のことなんですけど…」
「ああ、あの角部屋?あそこには俺の大切な子がいるから、死んでも開けないで。
…照れ屋さんで、あんまり人前に出たがらないんだ」
「分かりました」
角の部屋は倉庫だったはずだ。
あとは私がいる部屋もそうなるけれど…もしかすると、ソルトと遊ぶときの音が漏れ出していたのだろうか。
今から気をつけようと思っていると、また話し声が聞こえてくる。
「店長、ファッションモデルが足りなくなりそうです!」
「それは…ちょっと困ったね。まあ、練習だから誰か探してみようか」
「ですが衣装が、」
「大きめに作ってあるから、小さくするんだよね?俺にとっては大きくするより気が楽かもしれない。
…モデルはいい子がいるから、やっぱりその子に連絡してみるね。身長高い分の調節は必要になるけど、俺が責任持ってやるから心配しないで」
その声には少し焦りが滲んでいて、断られたらどうしようと考えているのが分かる。
「ごめんね、月見ちゃん。ちょっと騒がしくなると思うけど…」
「いえ、大丈夫です。ところで、モデルさんって誰にお願いするんですか?」
「日曜日の午後予定が空いてそうで、なんとかお願いできそうな人…誰だと思う?」
その声を合図にしたように、夏彦の後ろに誰かがやってくる。
その人物はため息を吐きながら、ぽつりと一言呟いた。
「…それで残ったのが僕だったの?」
「あ、こ、こんにちは」
「…どうも」
「ごめんね、まー君。バイト代はちゃんと払うからさ…お願い!」
多分夏彦は、万が一のことを考えて動いている。
私にもっと力があれば、なんて高望みだろうか。
「仕方ないから受けてもいい。ただ、可愛らしい服だったらあんたの過去の写真を周りに配ってやる」
「それは勘弁してよ…そういうのじゃないからさ」
「…それで、どこで着替えるの?」
夏彦はふっと笑って私を指さした。
「月見ちゃんに手伝ってもらわないといけないから、ここでお願い」
それでも、この場所を護る為に何かせずにはいられない。
もしも今あの人たちが入ってきたら、夏彦は怒りを抑えられなくなるだろう。
それに、おかしな噂になってお客さんがこなくなってしまうのはきっと悲しい。
「…もしも動きがあればすぐ分かるようにしておいた方が、いいですよね?」
隣でじっとしているソルトに声をかけると、血がついていない手の甲をぺろっとなめてくれる。
それはまるで慰めてくれているようで、そう思うと涙が一筋零れた。
「…血を落とすから、少しだけ待ってね」
本当はソルトの頭を撫でたいけれど、このまま触れば大変なことになってしまうかもしれない。
それに…できれば彼には知られたくない、隠しておかなければいけないような気がする。
「店長、ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「その部屋のことなんですけど…」
「ああ、あの角部屋?あそこには俺の大切な子がいるから、死んでも開けないで。
…照れ屋さんで、あんまり人前に出たがらないんだ」
「分かりました」
角の部屋は倉庫だったはずだ。
あとは私がいる部屋もそうなるけれど…もしかすると、ソルトと遊ぶときの音が漏れ出していたのだろうか。
今から気をつけようと思っていると、また話し声が聞こえてくる。
「店長、ファッションモデルが足りなくなりそうです!」
「それは…ちょっと困ったね。まあ、練習だから誰か探してみようか」
「ですが衣装が、」
「大きめに作ってあるから、小さくするんだよね?俺にとっては大きくするより気が楽かもしれない。
…モデルはいい子がいるから、やっぱりその子に連絡してみるね。身長高い分の調節は必要になるけど、俺が責任持ってやるから心配しないで」
その声には少し焦りが滲んでいて、断られたらどうしようと考えているのが分かる。
「ごめんね、月見ちゃん。ちょっと騒がしくなると思うけど…」
「いえ、大丈夫です。ところで、モデルさんって誰にお願いするんですか?」
「日曜日の午後予定が空いてそうで、なんとかお願いできそうな人…誰だと思う?」
その声を合図にしたように、夏彦の後ろに誰かがやってくる。
その人物はため息を吐きながら、ぽつりと一言呟いた。
「…それで残ったのが僕だったの?」
「あ、こ、こんにちは」
「…どうも」
「ごめんね、まー君。バイト代はちゃんと払うからさ…お願い!」
多分夏彦は、万が一のことを考えて動いている。
私にもっと力があれば、なんて高望みだろうか。
「仕方ないから受けてもいい。ただ、可愛らしい服だったらあんたの過去の写真を周りに配ってやる」
「それは勘弁してよ…そういうのじゃないからさ」
「…それで、どこで着替えるの?」
夏彦はふっと笑って私を指さした。
「月見ちゃんに手伝ってもらわないといけないから、ここでお願い」
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