裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第54話

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夏彦さんたちを見送った後、ぽんと肩に手をおかれる。
「ありがとう。さっきは助かった」
「いえ、私はただ水を持っていただけで…」
「君にとっての『だけ』が、俺にとってはすごくありがたかった」
春人にそう言ってもらえるのは嬉しい。
ただ、今はずっしりと罪悪感がのっている。
やっぱり、彼にだけでも話しておくべきだっただろうか。
「疲れたでしょ、休んでて」
「いえ、あの…冬真さんは大丈夫なんですか?」
「うん。さっき秋久が診た感じだと大丈夫そうだって言ってた。…冬真がお礼を伝えておいてくれって」
「そう、ですか…」
全員揃った後、どんな話をしたのか私は知らない。
ただ、怪我が思ったより酷くなさそうで少し安心した。
「…君は他の人のところに行った方がいいかもしれない」
「どういう、ことですか?」
それはあまりに突然告げられた言葉で、驚きのあまりそんな疑問しか口にできなかった。
「冬真が狙われたってことは、俺の1番近くにいる君が狙われるかもしれないってことだ。
俺はもう、自分のせいで誰かがいなくなるのは…」
「…春人は、何も悪いことをしてないじゃないですか。
私みたいなものにまで優しくしてくれたり、何度も助けてもらって…だから、今度は私が力になりたいんです」
「君に何ができるっていうの?」
「それは…」
そう言われても仕方ない。
いつも護ってもらってばかりで、頼ってばかりの私にできることなんて何もない…実は、今もそうやって折れてしまいそうになっている。
それでも、今回はここで引くわけにはいかない。
「分かったら荷物をまとめて、」
「嫌です!」
「……!」
「今度は、私が護るんです。その為に蕀さんたちに手伝ってもらうことにしたんですから」
「まさか君は…」
震える指先を春人に掴まれる。
手のひらからはぽたぽたと血が滴り落ちていた。
「どうしてこんな無茶を、」
「いつも無理をして、独りで頑張っているのはあなたの方です。
私なんて、こんなことくらいしかできないのに…」
何もかも独りで背負っている彼に、誰かの為に頑張る彼に、少しでも近づきたかった。
私なんかじゃ全然足元にも及ばないだろうけれど、それでもやってみないと分からない。
「…私は、簡単に死んだりしません。だって、あの人たちの暴力を受けても今こうして立っているんですから」
腕の感覚がなくなっていく。
もしかすると、思っていた以上に傷が深かったのかもしれない。
「君は本当に…」
そこまでは聞こえたけれど、だんだん耳鳴りが酷くなって何を話しているのか分からなくなってしまう。
泣かないでほしいのに、それを口にすることさえ難しい。
そんななか、激しい頭痛と共に危険な状態が流れこんできた。
「…お願、秋久さん、に…」
「月見?」
そこまで話したところで私の意識は暗闇に落ちてしまった。
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