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春人ルート
第51話
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「ごめんなさい、困らせるつもりでは…」
「今見たもの、忘れて」
「ぜ、善処します…」
知られたくなかったことに触れてしまった後悔に頭を下げると、何故か撫でられた。
「違う、そうじゃなくて…昔の俺、あんまり見られたくなかったんだ」
「小さくて可愛いなって思ったんですけど、」
「やっぱり恥ずかしいから、本当に忘れて」
さっきから顔が赤いのは体調が悪いのか怒っているからだと思っていたけれど、そうじゃないらしい。
「…照れてるん、ですか?」
「別にそんなことない。それより、早く食べないと冷める」
「そう、ですね」
本当は少し照れているのかもしれないなんて考えながら、違ったのだろうと言い聞かせる。
部屋に入れてもらえただけで充分だ。
「…君は、いつからこんなふうにご飯を作りはじめたの?」
「もう、忘れてしまいました。食べるものがなかったので、あの人たちのご飯を作った残り物で料理していました。
だから、今みたいに食べたいだけ食べることもできなくて…ご飯が、楽しくなりました」
「…そう」
春人はただ微笑んでいて、その笑顔が散ってしまわないか心配になる。
なんだかいつもより寂しげで、儚いように見えたから。
それからあまり時間が経たないうちに食べ終わって、食器を下げる。
片づけをすませて様子をみようと扉に近づくと弱々しく開いた。
「ごめん。ぶつからなかった?」
「大丈夫です」
「そう。…さっきの話を聞いて改めて思ったけど、君ってやっぱりすごいね」
「え…?」
まさかそんなふうに言ってもらえるとは思っていなかったので、そのまま固まってしまう。
「俺があの場所にいたとき、料理なんて作ったことがなかった。いつも菓子パンかカップ麺で、自分でやってみようとさえ思わなかったんだ。
でも君は違う。そういうところ、もっと自信を持っていいと思う」
そこまで話すと、春人はラビを抱えたまま黙ってしまった。
どんな反応をしていいのか分からないまま立ち尽くしていると、インターホンの音で意識を引き戻される。
「君はここにいて」
「わ、私も行きます」
相手が誰か分からない以上、傷だらけの彼だけを行かせたくない。
そう思っていたけれど、玄関に誰かが入ってきた音がした。
「…雪乃?」
そこには息を切らす雪乃が立っていて、驚いたようにこちらを見つめている。
「ごめんなさい。てっきり誰もいないものだと思っていたから…」
「それは構わないけど、大丈夫ですか?」
「うん。それより…今度の仕事の話、聞いた?」
「いえ、詳しいことはあまり」
春人がそう答えると、雪乃は真剣な表情で淡々と告げた。
「その依頼、絶対に受けないで。さっききたお客さんたちが話してた…『これでカルテットを滅茶苦茶にできる』って」
「今見たもの、忘れて」
「ぜ、善処します…」
知られたくなかったことに触れてしまった後悔に頭を下げると、何故か撫でられた。
「違う、そうじゃなくて…昔の俺、あんまり見られたくなかったんだ」
「小さくて可愛いなって思ったんですけど、」
「やっぱり恥ずかしいから、本当に忘れて」
さっきから顔が赤いのは体調が悪いのか怒っているからだと思っていたけれど、そうじゃないらしい。
「…照れてるん、ですか?」
「別にそんなことない。それより、早く食べないと冷める」
「そう、ですね」
本当は少し照れているのかもしれないなんて考えながら、違ったのだろうと言い聞かせる。
部屋に入れてもらえただけで充分だ。
「…君は、いつからこんなふうにご飯を作りはじめたの?」
「もう、忘れてしまいました。食べるものがなかったので、あの人たちのご飯を作った残り物で料理していました。
だから、今みたいに食べたいだけ食べることもできなくて…ご飯が、楽しくなりました」
「…そう」
春人はただ微笑んでいて、その笑顔が散ってしまわないか心配になる。
なんだかいつもより寂しげで、儚いように見えたから。
それからあまり時間が経たないうちに食べ終わって、食器を下げる。
片づけをすませて様子をみようと扉に近づくと弱々しく開いた。
「ごめん。ぶつからなかった?」
「大丈夫です」
「そう。…さっきの話を聞いて改めて思ったけど、君ってやっぱりすごいね」
「え…?」
まさかそんなふうに言ってもらえるとは思っていなかったので、そのまま固まってしまう。
「俺があの場所にいたとき、料理なんて作ったことがなかった。いつも菓子パンかカップ麺で、自分でやってみようとさえ思わなかったんだ。
でも君は違う。そういうところ、もっと自信を持っていいと思う」
そこまで話すと、春人はラビを抱えたまま黙ってしまった。
どんな反応をしていいのか分からないまま立ち尽くしていると、インターホンの音で意識を引き戻される。
「君はここにいて」
「わ、私も行きます」
相手が誰か分からない以上、傷だらけの彼だけを行かせたくない。
そう思っていたけれど、玄関に誰かが入ってきた音がした。
「…雪乃?」
そこには息を切らす雪乃が立っていて、驚いたようにこちらを見つめている。
「ごめんなさい。てっきり誰もいないものだと思っていたから…」
「それは構わないけど、大丈夫ですか?」
「うん。それより…今度の仕事の話、聞いた?」
「いえ、詳しいことはあまり」
春人がそう答えると、雪乃は真剣な表情で淡々と告げた。
「その依頼、絶対に受けないで。さっききたお客さんたちが話してた…『これでカルテットを滅茶苦茶にできる』って」
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