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夏彦ルート
第40話
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「月見ちゃん、昨日はありがとう」
「いえ。…お役にたててよかったです」
あのあと、なんとか1枚の絵が完成した。
何度か休憩をいれながら作りあげたそのパズルはもうすでに飾られていて、見ているだけで気分が明るくなる。
「今日はこれをお店に飾ってみようと思うんだけど、ついでに新作商品をどうするか考えようと思うんだ。
月見ちゃんさえよかったら、意見を聞かせてもらえないかな?」
「勿論です」
私に何ができるのか、今でもはっきりとは分からない。
ただ、夏彦に求めてもらえるなら頑張ってみようと思う。
「月見ちゃん、これ着てみてもらえる?」
「は、はい」
「ソルトはこっちね」
夏彦に抱っこされたソルトは大人しくしていて、そんな場面を見ているだけで癒される。
着替える部屋を借りて、新品の洋服に袖をとおしたそのときだった。
「…まったく、本当に懲りないね」
がたんと音がしたのは分かったものの、誰が来ているのかさえ分からない。
慌てて出ていこうとすると、外側から鍵がかけられていた。
「…久しいな、夏彦」
「何の用だ」
「いい加減家に帰って、」
その瞬間、鋭い金属音が響く。
「そんな恐ろしい武器を持ってるくせに、よく言う。俺のことも消しに来たんだろ?」
何がおこっているのか全然分からない。
とにかくこの部屋から出なければ、そう思うのに頭の中で思考がずっとぐるぐるしている。
「──お願い、蕀さんたち」
ヘタなことをすれば夏彦に怪我を負わせてしまう。
それに、相手の人がどうであれ傷つけたい訳じゃない。
限りなく狭い扉の隙間から少しずつ蔦をおくりこんでいく。
状況を知るのは難しいかもしれないけれど、このまま何もしなかったら絶対に後悔する。
「腕が鈍っていないようで安心したぞ」
「俺はあんたたちみたいにはならない。…人殺しなんてしない」
…ヒトゴロシ?
衝撃的な言葉のあまり、思わず後ろに下がってしまう。
「やはり誰かいるのか。…では、その相手を始末すれば、」
ざく、と肉が切れる音がする。
「行かせるわけ、ないだろ。ここから先に進みたいならまずは俺を殺せ。
…兄貴のときみたいになると思うな」
夏彦の怒りと、相手の期待と愉しいと感じる心…両方からの思いがすさまじく、ふらついてその場に立っていられない。
夏彦にはお兄さんがいた、ということだろうか。
…具合が悪い。吐き気がする。
夏彦は怪我をしているはずだ。
私だけではどうにもできない、早く誰か呼ばないと…。
「力づくでも通してもらおうか」
ふと顔をあげた瞬間、目の前には光る刃が迫っていた。
これで時間を稼ぐことはできるかもしれない。
「──お願い、蕀さんたち」
悲鳴をあげてしまいそうになるのを堪えながら、小さくそう呟く。
大量の蔦は扉に刺さったままの刃に向かって飛んでいった。
「いえ。…お役にたててよかったです」
あのあと、なんとか1枚の絵が完成した。
何度か休憩をいれながら作りあげたそのパズルはもうすでに飾られていて、見ているだけで気分が明るくなる。
「今日はこれをお店に飾ってみようと思うんだけど、ついでに新作商品をどうするか考えようと思うんだ。
月見ちゃんさえよかったら、意見を聞かせてもらえないかな?」
「勿論です」
私に何ができるのか、今でもはっきりとは分からない。
ただ、夏彦に求めてもらえるなら頑張ってみようと思う。
「月見ちゃん、これ着てみてもらえる?」
「は、はい」
「ソルトはこっちね」
夏彦に抱っこされたソルトは大人しくしていて、そんな場面を見ているだけで癒される。
着替える部屋を借りて、新品の洋服に袖をとおしたそのときだった。
「…まったく、本当に懲りないね」
がたんと音がしたのは分かったものの、誰が来ているのかさえ分からない。
慌てて出ていこうとすると、外側から鍵がかけられていた。
「…久しいな、夏彦」
「何の用だ」
「いい加減家に帰って、」
その瞬間、鋭い金属音が響く。
「そんな恐ろしい武器を持ってるくせに、よく言う。俺のことも消しに来たんだろ?」
何がおこっているのか全然分からない。
とにかくこの部屋から出なければ、そう思うのに頭の中で思考がずっとぐるぐるしている。
「──お願い、蕀さんたち」
ヘタなことをすれば夏彦に怪我を負わせてしまう。
それに、相手の人がどうであれ傷つけたい訳じゃない。
限りなく狭い扉の隙間から少しずつ蔦をおくりこんでいく。
状況を知るのは難しいかもしれないけれど、このまま何もしなかったら絶対に後悔する。
「腕が鈍っていないようで安心したぞ」
「俺はあんたたちみたいにはならない。…人殺しなんてしない」
…ヒトゴロシ?
衝撃的な言葉のあまり、思わず後ろに下がってしまう。
「やはり誰かいるのか。…では、その相手を始末すれば、」
ざく、と肉が切れる音がする。
「行かせるわけ、ないだろ。ここから先に進みたいならまずは俺を殺せ。
…兄貴のときみたいになると思うな」
夏彦の怒りと、相手の期待と愉しいと感じる心…両方からの思いがすさまじく、ふらついてその場に立っていられない。
夏彦にはお兄さんがいた、ということだろうか。
…具合が悪い。吐き気がする。
夏彦は怪我をしているはずだ。
私だけではどうにもできない、早く誰か呼ばないと…。
「力づくでも通してもらおうか」
ふと顔をあげた瞬間、目の前には光る刃が迫っていた。
これで時間を稼ぐことはできるかもしれない。
「──お願い、蕀さんたち」
悲鳴をあげてしまいそうになるのを堪えながら、小さくそう呟く。
大量の蔦は扉に刺さったままの刃に向かって飛んでいった。
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