裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
166 / 385
夏彦ルート

第40話

しおりを挟む
「月見ちゃん、昨日はありがとう」
「いえ。…お役にたててよかったです」
あのあと、なんとか1枚の絵が完成した。
何度か休憩をいれながら作りあげたそのパズルはもうすでに飾られていて、見ているだけで気分が明るくなる。
「今日はこれをお店に飾ってみようと思うんだけど、ついでに新作商品をどうするか考えようと思うんだ。
月見ちゃんさえよかったら、意見を聞かせてもらえないかな?」
「勿論です」
私に何ができるのか、今でもはっきりとは分からない。
ただ、夏彦に求めてもらえるなら頑張ってみようと思う。
「月見ちゃん、これ着てみてもらえる?」
「は、はい」
「ソルトはこっちね」
夏彦に抱っこされたソルトは大人しくしていて、そんな場面を見ているだけで癒される。
着替える部屋を借りて、新品の洋服に袖をとおしたそのときだった。
「…まったく、本当に懲りないね」
がたんと音がしたのは分かったものの、誰が来ているのかさえ分からない。
慌てて出ていこうとすると、外側から鍵がかけられていた。
「…久しいな、夏彦」
「何の用だ」
「いい加減家に帰って、」
その瞬間、鋭い金属音が響く。
「そんな恐ろしい武器を持ってるくせに、よく言う。俺のことも消しに来たんだろ?」
何がおこっているのか全然分からない。
とにかくこの部屋から出なければ、そう思うのに頭の中で思考がずっとぐるぐるしている。
「──お願い、蕀さんたち」
ヘタなことをすれば夏彦に怪我を負わせてしまう。
それに、相手の人がどうであれ傷つけたい訳じゃない。
限りなく狭い扉の隙間から少しずつ蔦をおくりこんでいく。
状況を知るのは難しいかもしれないけれど、このまま何もしなかったら絶対に後悔する。
「腕が鈍っていないようで安心したぞ」
「俺はあんたたちみたいにはならない。…人殺しなんてしない」
…ヒトゴロシ?
衝撃的な言葉のあまり、思わず後ろに下がってしまう。
「やはり誰かいるのか。…では、その相手を始末すれば、」
ざく、と肉が切れる音がする。
「行かせるわけ、ないだろ。ここから先に進みたいならまずは俺を殺せ。
…兄貴のときみたいになると思うな」
夏彦の怒りと、相手の期待と愉しいと感じる心…両方からの思いがすさまじく、ふらついてその場に立っていられない。
夏彦にはお兄さんがいた、ということだろうか。
…具合が悪い。吐き気がする。
夏彦は怪我をしているはずだ。
私だけではどうにもできない、早く誰か呼ばないと…。
「力づくでも通してもらおうか」
ふと顔をあげた瞬間、目の前には光る刃が迫っていた。
これで時間を稼ぐことはできるかもしれない。
「──お願い、蕀さんたち」
悲鳴をあげてしまいそうになるのを堪えながら、小さくそう呟く。
大量の蔦は扉に刺さったままの刃に向かって飛んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。 上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。 すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。 そんな末娘に変化が起きる。 ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。 領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。 パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。 彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか? かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。 個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。 ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。 ★初めての投稿小説になります。  お読み頂けたら、嬉しく思います。 全91話 完結作品

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

憑かれるのはついてくる女子高生と幽霊

水瀬真奈美
恋愛
家出じゃないもん。これは社会勉強! 家出人少女は、雪降る故郷を離れて東京へと向かった。東京では行く当てなんてないだから、どうしようか? 車内ではとりあえずSNSのツイツイを立ち上げては、安全そうなフォロワーを探すことに……。

処理中です...