55 / 385
春人ルート
第40話
しおりを挟む
「お、おはようございます」
「…おはよう」
翌朝から、また普通に話ができるようになっていた。
沢山のことを経験しながらこうして人と繋がりが持てるのはすごく嬉しい。
「あの…ご飯、これで大丈夫でしょうか?食材が少なくなっていたのをすっかり忘れていて…」
「充分だよ。ありがとう」
いつもより少し寂しいテーブルを見つめながら、ゆっくり食事を摂る。
「…そういえば、今日は町に行く用事があるんだ。よかったら一緒に行かない?」
「わ、私でよければ…」
「準備しておいて」
そう話す春人は少し寂しそうで、思わず服の袖を掴んでしまう。
「どうかしたの?」
「あの…何か、あったんですか?」
「特にはないよ。ちょっと昔のことを思い出してただけ」
どこか悲しそうに見えるけれど、そうなんですねと返すことしかできなかった。
嫌われてしまうのが怖くて、それ以上踏みこんでいいのか分からなくて。
一旦部屋に戻り、出掛ける支度を整えた。
「お待たせしました」
「そんなに待ってない。それじゃあ行こうか」
どこかに修理したものを届けに行くんだと思っていたけれど、それにしては荷物が少ないような気がする。
「どこに行くんですか?」
「…花屋さん」
話しているうち、あっという間に辿り着く。
「いらっしゃいませ!」
しばらく一緒に花を見ていると、後ろから声をかけられた。
「…やっぱり春人も買いにきたんだ」
「手ぶらで行くわけにはいきませんから」
「突然声をかけてごめんなさい。月見も花を見てみるの?」
「え、あ、はい…」
どうして春人がここに来たのか知りたい。
雪乃は何か知っているのかもしれないけれど、勝手に聞いてしまうのはいけないことのような気がした。
「仏花はそっちの方がいいみたい」
「それならこっちにした方がよさそうですね」
どこか亡くなった人のところへ行くのだろうか。
何も訊けずにいる私に、花屋さんの店員さんが声をかけてくれる。
「お客様、よろしければこちらをつけてみていただけませんか?」
「…?どうして私に…」
「突然すみません。お客様なら似合いそうだと思ったんです。
季節外れの花ではありますが、桜は綺麗でしょう?」
「そう、ですね」
見たことはあったけれど、ブローチなんて身につけたことがない。
悩みつつやってみると、なんとか上手くできた。
「やっぱりよくお似合いです!」
「いえ、そんなことは、」
「お代はいただきませんので、そのままつけていってください」
「えっと、ありがとうございます…」
どうやって花が枯れないようになっているのかよく分からないけれど、なんとなく独りじゃないと思えた。
「…おはよう」
翌朝から、また普通に話ができるようになっていた。
沢山のことを経験しながらこうして人と繋がりが持てるのはすごく嬉しい。
「あの…ご飯、これで大丈夫でしょうか?食材が少なくなっていたのをすっかり忘れていて…」
「充分だよ。ありがとう」
いつもより少し寂しいテーブルを見つめながら、ゆっくり食事を摂る。
「…そういえば、今日は町に行く用事があるんだ。よかったら一緒に行かない?」
「わ、私でよければ…」
「準備しておいて」
そう話す春人は少し寂しそうで、思わず服の袖を掴んでしまう。
「どうかしたの?」
「あの…何か、あったんですか?」
「特にはないよ。ちょっと昔のことを思い出してただけ」
どこか悲しそうに見えるけれど、そうなんですねと返すことしかできなかった。
嫌われてしまうのが怖くて、それ以上踏みこんでいいのか分からなくて。
一旦部屋に戻り、出掛ける支度を整えた。
「お待たせしました」
「そんなに待ってない。それじゃあ行こうか」
どこかに修理したものを届けに行くんだと思っていたけれど、それにしては荷物が少ないような気がする。
「どこに行くんですか?」
「…花屋さん」
話しているうち、あっという間に辿り着く。
「いらっしゃいませ!」
しばらく一緒に花を見ていると、後ろから声をかけられた。
「…やっぱり春人も買いにきたんだ」
「手ぶらで行くわけにはいきませんから」
「突然声をかけてごめんなさい。月見も花を見てみるの?」
「え、あ、はい…」
どうして春人がここに来たのか知りたい。
雪乃は何か知っているのかもしれないけれど、勝手に聞いてしまうのはいけないことのような気がした。
「仏花はそっちの方がいいみたい」
「それならこっちにした方がよさそうですね」
どこか亡くなった人のところへ行くのだろうか。
何も訊けずにいる私に、花屋さんの店員さんが声をかけてくれる。
「お客様、よろしければこちらをつけてみていただけませんか?」
「…?どうして私に…」
「突然すみません。お客様なら似合いそうだと思ったんです。
季節外れの花ではありますが、桜は綺麗でしょう?」
「そう、ですね」
見たことはあったけれど、ブローチなんて身につけたことがない。
悩みつつやってみると、なんとか上手くできた。
「やっぱりよくお似合いです!」
「いえ、そんなことは、」
「お代はいただきませんので、そのままつけていってください」
「えっと、ありがとうございます…」
どうやって花が枯れないようになっているのかよく分からないけれど、なんとなく独りじゃないと思えた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
怒れるおせっかい奥様
asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。
可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。
日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。
そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。
コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。
そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。
それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。
父も一緒になって虐げてくるクズ。
そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。
相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。
子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない!
あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。
そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。
白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。
良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。
前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね?
ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。
どうして転生したのが私だったのかしら?
でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!
あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ!
子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。
私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ!
無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ!
前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる!
無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。
他の人たちのざまあはアリ。
ユルユル設定です。
ご了承下さい。
【完結】公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す
金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。
今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。
死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。
しかも、すでに王太子とは婚約済。
どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。
ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか?
作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
結婚式をやり直したい辺境伯
C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。
「――お前を愛する事は無いぞ」
帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。
誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。
予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。
ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。
彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。
※シリアスなラブコメ
■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。
姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる