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春人ルート
第39話
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「あ、の…余計なこと、だったでしょうか」
「ごめん、そうじゃないんだ。ただ…」
春人はひと呼吸間をおいて、籠を持ったまま一息に告げた。
「これを作る為に君が傷つくのが嫌なんだ。作ってもらえるのも、こうして誰かから贈り物をもらうことなんて滅多にないから嬉しい。
だけど、そのせいで君の体が傷だらけになってしまうのは見ていられない」
春人は、そんなことを考えていてくれたのか。
私のことなんかどうでもいいのに、そんなふうに気にかけてもらえていることが嬉しい。
「大丈夫です。そこまで深い傷にはならないように注意しながらやったので…」
「大小の問題じゃない。これ以上怪我を増やしてほしくないんだ。
…どんな傷であれ、痛くないはずがないから」
ぐるぐる巻きにされている両手を見る。
たしかにずきずきと痛むものの、あの場所にいた頃よりはずっと軽い。
「ごめんなさい。気をつけます」
心配させたい訳じゃない。
ただお礼がしたくて、自分にできることがそれだけだった。
まだ液体が流れる管を見つめていると、中途半端にしか起こせなかった体がゆっくり持ち上げられる。
「あ、ありがとうございます…」
「もう少しで終わると思うから、それまではあんまり動かないで」
「ごめんなさい…」
「別に謝ることじゃない。これ、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
春人はただ笑っていて、その柔らかい表情にほっとする。
「少しだけ空気の入れ換えをするね」
かららと窓が開く音がして、黒柿色の髪が風に靡いている。
その姿がまた綺麗で、つい魅いってしまっていた。
「それじゃあ、抜くよ」
「お、お願いします…」
点滴が終わったところで引き抜こうとした瞬間、春人が慌てた様子でこちらへやってきた。
首をかしげているうちに、いつの間にか腕から針が抜かれている。
「こんなに痛くなかったの、初めてかもしれません」
「まさか無理矢理引き抜こうとするとは思わなかった」
「ご、ごめんなさい。どうするのがいいのか、全然分からなくて…」
春人はずっとこちらを見ていて、どうしたんだろうと見つめ返す。
「ここでの生活には慣れた?」
「はい。だいぶ、色々なものの使い方も分かってきたので…」
「それならよかった。眠れそう?」
「それは、えっと…」
正直に話せば、きっとまた迷惑をかけてしまう。
ただ、他に方法を思いつかなかった。
そのまま黙っていると、何かを察知したように紅茶を淹れてくれる。
「……俺もこれからもう少し休憩するから、よければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
カップをゆっくり傾けると、温かいものが口に入ってくる。
いつもより甘くて、真心の味がした。
「ごめん、そうじゃないんだ。ただ…」
春人はひと呼吸間をおいて、籠を持ったまま一息に告げた。
「これを作る為に君が傷つくのが嫌なんだ。作ってもらえるのも、こうして誰かから贈り物をもらうことなんて滅多にないから嬉しい。
だけど、そのせいで君の体が傷だらけになってしまうのは見ていられない」
春人は、そんなことを考えていてくれたのか。
私のことなんかどうでもいいのに、そんなふうに気にかけてもらえていることが嬉しい。
「大丈夫です。そこまで深い傷にはならないように注意しながらやったので…」
「大小の問題じゃない。これ以上怪我を増やしてほしくないんだ。
…どんな傷であれ、痛くないはずがないから」
ぐるぐる巻きにされている両手を見る。
たしかにずきずきと痛むものの、あの場所にいた頃よりはずっと軽い。
「ごめんなさい。気をつけます」
心配させたい訳じゃない。
ただお礼がしたくて、自分にできることがそれだけだった。
まだ液体が流れる管を見つめていると、中途半端にしか起こせなかった体がゆっくり持ち上げられる。
「あ、ありがとうございます…」
「もう少しで終わると思うから、それまではあんまり動かないで」
「ごめんなさい…」
「別に謝ることじゃない。これ、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
春人はただ笑っていて、その柔らかい表情にほっとする。
「少しだけ空気の入れ換えをするね」
かららと窓が開く音がして、黒柿色の髪が風に靡いている。
その姿がまた綺麗で、つい魅いってしまっていた。
「それじゃあ、抜くよ」
「お、お願いします…」
点滴が終わったところで引き抜こうとした瞬間、春人が慌てた様子でこちらへやってきた。
首をかしげているうちに、いつの間にか腕から針が抜かれている。
「こんなに痛くなかったの、初めてかもしれません」
「まさか無理矢理引き抜こうとするとは思わなかった」
「ご、ごめんなさい。どうするのがいいのか、全然分からなくて…」
春人はずっとこちらを見ていて、どうしたんだろうと見つめ返す。
「ここでの生活には慣れた?」
「はい。だいぶ、色々なものの使い方も分かってきたので…」
「それならよかった。眠れそう?」
「それは、えっと…」
正直に話せば、きっとまた迷惑をかけてしまう。
ただ、他に方法を思いつかなかった。
そのまま黙っていると、何かを察知したように紅茶を淹れてくれる。
「……俺もこれからもう少し休憩するから、よければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
カップをゆっくり傾けると、温かいものが口に入ってくる。
いつもより甘くて、真心の味がした。
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