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春人ルート
第38話
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謝罪の言葉を口にされたことに、ただ呆然としてしまう。
今の状況に頭がついていけていない。
「その、私が勝手に起きていただけなので…」
眠れない夜が続くのは相変わらずだ。
眠っては悪夢に魘されて、そのまま目が覚めれば眠れなくなる。
「それから、その…ちゃんと、謝りたかったんです。勝手に資料を見るのは、あまり気分がいいことじゃないだろうなって…」
「君のせいじゃない。それから、別に見られたからって俺は怒ってない」
「それじゃあどうして…」
どうして最近口数が減っていたんですか、なんて訊いてしまってもいいのだろうか。
どんな顔をすればいいのか分からなくて俯いてしまっていると、肩に手が添えられた。
「それで勘違いさせていたのか…。言ったでしょ、急ぎの仕事があるって」
「え…?」
顔をあげると、春人は何かに緊張しているような様子だった。
しばらく沈黙が続いた後、目の前に小箱が差し出される。
「あの、これは…」
「急ぎの仕事。俺は夏彦みたいに器用じゃないからこういうのしか作れなかったけど…開けてみて」
そこに入っている腕時計は、月光が乱反射してきらきらしていた。
桃色のベルトには可愛らしい花があしらわれていて、ただ見ているだけで癒される。
「…君にもらってほしかった。何を渡せばいいとかそういうのは分からないから、完全に手探り状態で…本を読みながらやってたら時間を忘れて没頭してた」
「そう、だったんですか…。私は、怒っているから話してもらえないんだと思っていました」
春人を怒らせてしまった私が悪い、だからどうなっても仕方ない…そう思っていた。
しかし、彼は決して怒っていた訳ではなく単純に作業に没頭していただけだったらしい。
…それも、私のものを作る為に。
「あの、ありがとう、ございます」
「別にお礼を言われるようなことはしてない。いつも家事をしてもらっているんだし、俺は機械ものしか作れないから…」
「大切にします」
「もし壊れたら言って。硝子部分も含めて直すことはできるから。それから…誤解させてごめん」
「私も、早とちりしてしまいましたから。それから、その…」
そういえば籠はどこに行ってしまっただろう。
倒れたときに形が崩れないようにしたはずだけど、どうなったのか不安になる。
あたりを見回してみても見当たらず、廊下に出ようとしたそのときだった。
「探し物はこれ?」
「あ…それです。春人に、渡したかったので」
「もしかして、最近遅くまで起きていたのはこれを作っていたから?」
その言葉に頷くと、春人は複雑そうな表情をした。
今の状況に頭がついていけていない。
「その、私が勝手に起きていただけなので…」
眠れない夜が続くのは相変わらずだ。
眠っては悪夢に魘されて、そのまま目が覚めれば眠れなくなる。
「それから、その…ちゃんと、謝りたかったんです。勝手に資料を見るのは、あまり気分がいいことじゃないだろうなって…」
「君のせいじゃない。それから、別に見られたからって俺は怒ってない」
「それじゃあどうして…」
どうして最近口数が減っていたんですか、なんて訊いてしまってもいいのだろうか。
どんな顔をすればいいのか分からなくて俯いてしまっていると、肩に手が添えられた。
「それで勘違いさせていたのか…。言ったでしょ、急ぎの仕事があるって」
「え…?」
顔をあげると、春人は何かに緊張しているような様子だった。
しばらく沈黙が続いた後、目の前に小箱が差し出される。
「あの、これは…」
「急ぎの仕事。俺は夏彦みたいに器用じゃないからこういうのしか作れなかったけど…開けてみて」
そこに入っている腕時計は、月光が乱反射してきらきらしていた。
桃色のベルトには可愛らしい花があしらわれていて、ただ見ているだけで癒される。
「…君にもらってほしかった。何を渡せばいいとかそういうのは分からないから、完全に手探り状態で…本を読みながらやってたら時間を忘れて没頭してた」
「そう、だったんですか…。私は、怒っているから話してもらえないんだと思っていました」
春人を怒らせてしまった私が悪い、だからどうなっても仕方ない…そう思っていた。
しかし、彼は決して怒っていた訳ではなく単純に作業に没頭していただけだったらしい。
…それも、私のものを作る為に。
「あの、ありがとう、ございます」
「別にお礼を言われるようなことはしてない。いつも家事をしてもらっているんだし、俺は機械ものしか作れないから…」
「大切にします」
「もし壊れたら言って。硝子部分も含めて直すことはできるから。それから…誤解させてごめん」
「私も、早とちりしてしまいましたから。それから、その…」
そういえば籠はどこに行ってしまっただろう。
倒れたときに形が崩れないようにしたはずだけど、どうなったのか不安になる。
あたりを見回してみても見当たらず、廊下に出ようとしたそのときだった。
「探し物はこれ?」
「あ…それです。春人に、渡したかったので」
「もしかして、最近遅くまで起きていたのはこれを作っていたから?」
その言葉に頷くと、春人は複雑そうな表情をした。
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