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春人ルート
第37話
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それから少し、気まずい日が続いた。
会話は挨拶程度で、それ以外のとき春人は部屋に籠りっぱなしだ。
ご飯のときも元々そんなに話してはいなかったけれど、更に会話が減ってしまった。
怒らせてしまったのならちゃんと謝りたいのに、嫌われてしまったらどうしようと思うと怖くなって動けない。
「あ、あの…」
「ごめん、ちょっと急ぎの仕事があるんだ。ごちそうさまでした」
こうして今日も話ができなかった。
怒っているのならちゃんと謝りたいのに、それができないのは辛い。
その日の夜更け、私は蔦で作れる籠を編んでいた。
「──お願い、蕀さんたち」
いつもより蕀の量が多くて、それをどけるところからはじまる。
私が強く念じない限りただの籠にしかならないだろうし、これなら春人にも受け取ってもらえるかもしれない。
そう思い作り続けて数日、やっと完成した。
作業部屋には勝手に入ってはいけないような気がして、すぐ側の廊下で立って待つ。
「いっ……」
痛い、そう言いかけてなんとか黙る。
本当は包帯を換えた方がいいのだろうけれど、自分で上手く巻くことができなかった。
血がつかないように気をつけながら、チェリーを抱きしめる。
…どのぐらいそうしていただろうか。
突然目眩と吐き気に襲われて、その場に膝をつく。
体に力が入らなくて、そのまま視界が暗くなる。
最近睡眠時間を削っていたから、それが原因だろうか。
起きあがらないといけないのに、そのまま意識を手放した。
「──は、────」
「多分、──で、──だったから…」
遠くで誰かの声がする。
目を開けたときに少し離れた場所に見えたのは、春人と夏彦さんだった。
「ありがとう。あとは俺でもできるから」
「あんなに慌てて連絡してくるなんて珍しいね、ハル?」
「またそうやってからかう…」
ぼんやりしていると、春人と目が合う。
あんなに気まずいと感じていたはずなのに、何か話をしたいと思った。
「ほら、ハル」
「…君は寝不足と脱水症状で倒れたんだ。それは冬真が作ってくれたもの」
指をさされた方を見てみると、いつかのように体にチューブが刺さっていた。
「ごめんなさい…」
迷惑をかけたくなかったのに、結局こうなってしまっては意味がない。
夜中に起きて活動するのなんて普通だったのに、いつからこうなってしまったのだろう。
いつの間にこんなに弱くなって、周りの人たちを困らせて、
「別に君には怒ってない。ただ、それほど無理をさせた自分に対して腹がたつだけ」
やっぱり春人には考えていることが分かってしまうらしい。
「えっと…俺、邪魔になりそうだから帰るね。月見ちゃん、お大事に」
夏彦さんの背中を目で追っていると、今にも消えてしまいそうな声が届いた。
「こんなになるまで無理をさせて、本当にごめん」
会話は挨拶程度で、それ以外のとき春人は部屋に籠りっぱなしだ。
ご飯のときも元々そんなに話してはいなかったけれど、更に会話が減ってしまった。
怒らせてしまったのならちゃんと謝りたいのに、嫌われてしまったらどうしようと思うと怖くなって動けない。
「あ、あの…」
「ごめん、ちょっと急ぎの仕事があるんだ。ごちそうさまでした」
こうして今日も話ができなかった。
怒っているのならちゃんと謝りたいのに、それができないのは辛い。
その日の夜更け、私は蔦で作れる籠を編んでいた。
「──お願い、蕀さんたち」
いつもより蕀の量が多くて、それをどけるところからはじまる。
私が強く念じない限りただの籠にしかならないだろうし、これなら春人にも受け取ってもらえるかもしれない。
そう思い作り続けて数日、やっと完成した。
作業部屋には勝手に入ってはいけないような気がして、すぐ側の廊下で立って待つ。
「いっ……」
痛い、そう言いかけてなんとか黙る。
本当は包帯を換えた方がいいのだろうけれど、自分で上手く巻くことができなかった。
血がつかないように気をつけながら、チェリーを抱きしめる。
…どのぐらいそうしていただろうか。
突然目眩と吐き気に襲われて、その場に膝をつく。
体に力が入らなくて、そのまま視界が暗くなる。
最近睡眠時間を削っていたから、それが原因だろうか。
起きあがらないといけないのに、そのまま意識を手放した。
「──は、────」
「多分、──で、──だったから…」
遠くで誰かの声がする。
目を開けたときに少し離れた場所に見えたのは、春人と夏彦さんだった。
「ありがとう。あとは俺でもできるから」
「あんなに慌てて連絡してくるなんて珍しいね、ハル?」
「またそうやってからかう…」
ぼんやりしていると、春人と目が合う。
あんなに気まずいと感じていたはずなのに、何か話をしたいと思った。
「ほら、ハル」
「…君は寝不足と脱水症状で倒れたんだ。それは冬真が作ってくれたもの」
指をさされた方を見てみると、いつかのように体にチューブが刺さっていた。
「ごめんなさい…」
迷惑をかけたくなかったのに、結局こうなってしまっては意味がない。
夜中に起きて活動するのなんて普通だったのに、いつからこうなってしまったのだろう。
いつの間にこんなに弱くなって、周りの人たちを困らせて、
「別に君には怒ってない。ただ、それほど無理をさせた自分に対して腹がたつだけ」
やっぱり春人には考えていることが分かってしまうらしい。
「えっと…俺、邪魔になりそうだから帰るね。月見ちゃん、お大事に」
夏彦さんの背中を目で追っていると、今にも消えてしまいそうな声が届いた。
「こんなになるまで無理をさせて、本当にごめん」
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