裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
159 / 385
夏彦ルート

第34話

しおりを挟む
「いくら相手が犯罪者とはいえ、それ以上は見過ごせない。…やめて」
「それは無理。だって俺、すごく怒ってるから」
夏彦はまた相手の体を吹き飛ばす。
もしも暴力をふるわれすぎたら大変なことになる。
もしも相手が動かなくなったら、彼の人生は滅茶苦茶になってしまう。
すると、足元でソルトが動いたときとは別の音がした。
どうやら近くまで蔦を引き寄せることができたらしい。
それをなんとか拾って、血まみれの手で握りしめる。
「──お願い、あの人たちの動きを止めて」
そう念じることしかできないけれど、襲撃犯たちの動きを止められれば夏彦が誰かを傷つけなくてよくなるかもしれない。
すると、蕀さんたちが少しずつ伸びていって相手の足に絡まっていく。
「なんだこれ、切れない…!」
「そこまで。あなたたちを逮捕します」
隙間から見えるのはそこまでが限界だけど、聞こえてくる音からして多分捕まえられたのだろう。
少し時間が経ってからロッカーの扉が開かれる。
「月見ちゃん、やっぱりここにいたんだ…。怪我してない?」
「だ、大丈夫です」
「…手、大丈夫じゃないでしょ?」
さっきまで痛みなんて感じている余裕がなかったからか、今はいつも以上にずきずきしているような気がする。
「ごめんなさい…」
「俺の方こそ、上手く追い出せなくて怖がらせちゃってごめんね。
花菜を呼んでくれたのも月見ちゃんなんでしょ?本当にありがとう」
「いえ、私は何も…」
何もできなかった。
もっと役にたちたいのに、寧ろ迷惑だったかもしれない。
「取り敢えず手当てするから、こっちに来てくれる?」
「…はい」
「ソルトももう出てきていいよ」
ソルトはにゃあ、とひと鳴きして歩き出す。
やはりロッカーにずっといるのは狭いし苦しかっただろう。
「あ、あの…」
「どうかしたの?」
「夏彦は、」
「あ、いた!」
扉が勢いよく開けられたと思うと、花菜がこちらに駆け寄ってくる。
「無事でよかった…。月見はいないしなっちゃんは本気で怒るしで、流石に焦ったよ」
「ごめん、今ちょっと忙しいから後にして。月見ちゃんはずっとロッカーに隠れててくれたんだけど、怪我してるから」
「ごめん!また後でね」
花菜は急ぎ足で部屋を出てしまった。
普段の夏彦ならもっと優しく言い聞かせるように話しそうな気がするけれど、やっぱり怒っているのだろうか。
「ごめん。実はあの侵入者たちの目的はなんとなく分かってるんだ。
狙いは俺だろうし、すぐ帰ってくれるとありがたかったんだけど…」
「どういう、ことですか?」
「事情はまた今度ゆっくり話すよ。その前に傷口を洗わないとね」
夏彦はそう言っていつもどおり処置してくれる。
なんだかいつもより心が痛んだような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【完結】貴方の子供を産ませてください♡〜妖の王の継承者は正妻志望で学園1の銀髪美少女と共に最強スキル「異能狩り」で成り上がり復讐する〜

ひらたけなめこ
キャラ文芸
【完結しました】【キャラ文芸大賞応援ありがとうございましたm(_ _)m】  妖の王の血を引く坂田琥太郎は、高校入学時に一人の美少女と出会う。彼女もまた、人ならざる者だった。一家惨殺された過去を持つ琥太郎は、妖刀童子切安綱を手に、怨敵の土御門翠流とその式神、七鬼衆に復讐を誓う。数奇な運命を辿る琥太郎のもとに集ったのは、学園で出会う陰陽師や妖達だった。 現代あやかし陰陽譚、開幕! キャラ文芸大賞参加します!皆様、何卒応援宜しくお願いいたしますm(_ _)m投票、お気に入りが励みになります。 著者Twitter https://twitter.com/@hiratakenameko7

従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィオレッタはとある理由で、侯爵令息のフランツと婚約した。 しかし、そのフランツは従姉である子爵令嬢アメリアの事ばかり優遇し優先する。 アメリアもまたフランツがまるで自分の婚約者のように振る舞っていた。 目的のために婚約だったので、特別ヴィオレッタは気にしていなかったが、アメリアにも婚約者がいるので、そちらに睨まれないために窘めると、それから関係が悪化。 フランツは、アメリアとの関係について口をだすヴィオレッタを疎ましく思い、アメリアは気に食わない婚約者の事を口に出すヴィオレッタを嫌い、ことあるごとにフランツとの関係にマウントをとって来る。 そんな二人に辟易としながら過ごした一年後、そこで二人は盛大にやらかしてくれた。

【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。 彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。 それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。 それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。 故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。 どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。 王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。

もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】

青緑
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。 親代わりの枢機卿と王都を散策中、王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。 ある辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認められていく。しかしある日、多くの王侯貴族の前で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。 ——————————— 本作品は七日から十日おきでの投稿を予定しております。 更新予定時刻は投稿日の17時を固定とさせていただきます。 誤字・脱字をお知らせしてくださると、幸いです。 読み難い箇所のお知らせは、何話の修正か記載をお願い致しますm(_ _)m ※40話にて、近況報告あり。 ※52話より、次回話の更新をお知らせします。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。 初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・感想欄は完結してから開きます。

処理中です...