裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
157 / 385
夏彦ルート

第32話

しおりを挟む
夏彦から感じる怒りは、恐らくお店に強盗目的で入られたことだろう。
それでも、一体どんなことを考えているのか分からなかった。
「…外の人に、状況を伝える?」
手元にある携帯電話には、花菜の連絡先が入っている。
もしも彼女が洋服を取りに来てしまったら、不審者と鉢合わせる可能性が高い。
《今はお店に来ないでください。多分、不審者がいるんです。
人数は確認できただけでふたりですが、もっといるかもしれません。私は別の部屋で作業をしていたから、今もなんとか隠れています。
捕まっているのは夏彦しか確認できません。この時間帯なら他の店員さんは帰っているはずですが…》
もう少し詳しく知りたいところだけど、隠れ蓑になる植物がない場所でこれ以上探るのは厳しい。
数分たたないうちにメールの返信がきた。
《…了解。外からアプローチをかけてみる。
月見は絶対隠れてて!何か変化があったらすぐ教えてね!》
寧ろ来てほしいと言っているような形になってしまったような気もするけれど、独りで無理なら誰かにお願いするしかない。
いつの間に起きたのか、ソルトが膝に飛び乗ってくる。
「…ソルト、大丈夫だから」
血だらけなうえに蕀さんたちが沢山出ている状態で撫でるのは難しいので、手の甲が当たらないように気をつけながら言い聞かせる。
すると、ドアのすぐ近くから男性の声がした。
「…この部屋、さっきまであったか?」
「部屋は全部確認しただろ。まあ、一応確認しておくか」
一応鍵は閉まっているものの非常にまずい。
外から見た扉が蕀だらけになっているのはなんとなく想像できる。
ただ、急いで回収しないと誰かが来たときに怪しまれてしまう。
「…この扉、工具を使えば開けられそうだな」
その一言に凍りつく。
万が一見つかってしまえば、夏彦たちに迷惑をかけてしまう。
蕀さんたちを隙間から出しているのもあって、金具はすぐに外されてしまうかもしれない。
「…ソルト、こっちで一緒に静かにしてようね」
ぼそぼそと話しかけて、急ぎ足でロッカーに向かう。
手の甲から強引に出しきった蔦がかなり酷い状態になっているものの、そんなことを気にしている場合ではない。
どくどくと脈打つように流れる赤を隠しながら、タオル越しにソルトを抱きしめる。
ドアが蹴破られる音がして、ぎゅっと目を閉じた。
「誰かいるんじゃないのか?いるなら出てきてくれないと、このお店めちゃくちゃにしちゃうよ?」
……もうどうすればいいのか分からない。
パニックになりそうになっていると、勢いよく誰かが走ってくる音がした。
「…人が大人しくしてたら、本当に好き勝手してくれるよね。そんなに相手してほしいなら俺がしてあげるよ。
従業員はみんな帰ってるし、他のテナントさんにも迷惑はかけられない。──こいよ、人を傷つける覚悟があるなら」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢の番犬 ピンク

茜琉ぴーたん
恋愛
 20××年、どこかの街の大きなお屋敷に住む少女とその番犬2人の、それぞれの愛と恋と秘密、そして血の話。 *同じ設定の独立した『ピンク』『ブルー』『ブラック』の3編です。 *挿絵は、原画をAI出力し編集したものです。キャラクターを想像しやすくするイメージカットという感じです。*印は挿絵ありのお話です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。

天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」 甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。 「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」 ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。 「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」 この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。 そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。 いつもこうなのだ。 いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。 私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ? 喜んで、身を引かせていただきます! 短編予定です。 設定緩いかもしれません。お許しください。 感想欄、返す自信が無く閉じています

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー 数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった! それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。 夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?! 努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

チェスクリミナル

ハザマダアガサ
SF
 全世界で極少数の特別な能力を持つ者。いわゆる能力者。  現代社会ではその者達に対する差別や迫害が絶えず、不満を持つ者は少なくなかった。  しかし、その能力を活かして社会に貢献しようとする者達がいた。  その者達の名はジャスターズ。  ジャスターズはクリミナルスクールという、犯罪の未遂又は犯した能力者達を収容し、矯正する施設と連携しており、日々能力者達の自立を目指して活動していた。          

世界が色付くまで

篠原 皐月
恋愛
 ただこのまま、この狭い無彩色の世界で、静かに朽ちて逝くだけだと思っていた……。  そんな漠然とした予想に反して、数年前恭子の目の前に広がった世界は、少しずつ確実に新しい自分を作り上げていったが、時折追いかけて来る過去が彼女の心身を覆い隠し、心の中に薄闇を広げていた。そんな変わり映えしない日常の中、自己中心極まりない雇い主から受けたとある指令で、恭子は自分とは相対する立場の人間と真正面から向き合う事になる。  【夢見る頃を過ぎても】続編。背負った重荷の為、互いに自分の感情を容易に表に出せない男女の、迷走する恋愛模様を書いていきます。

幸せな政略結婚のススメ

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

処理中です...