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春人ルート
第32話
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あれから数日、新しい家での生活にまだ慣れない。
「そっちにひねっておいてから押すとお湯が出る」
「ごめんなさい…」
沢山のレバーに囲まれて、どれをどうすればいいのか分からなくなってしまうのだ。
「誰だって最初から何もかもできる訳じゃないんだから、謝る必要はない。
慣れるまでに色々な経験をするから楽しいっていうのもあるしね」
「左側に傾けるんですよね…?」
「そう。それでそのまま一気に押す」
生活能力に乏しい私が知っていることはまだまだ少ない。
ただ、迷惑をかけないように早く覚えようと思う。
「一旦休憩して」
「でも、」
「昨日からずっと掃除してるでしょ。…少しは休まないと体を壊す」
なんだか春人にいつも以上に気を遣わせてしまっているような気がして申し訳なくなる。
「…ごめんなさい」
一礼してから椅子に腰掛けると、春人は何かを作りはじめた。
「料理なら私も、」
「大丈夫。料理センスが絶望的な俺でもできることはあるから」
牛乳や蜂蜜、バニラエッセンス…その他諸々を入れてミキサーにかけている。
使ったことがない道具の登場に、何を作っているのか全く分からなかった。
しばらく大きな音がして、それがやむのとほぼ同時にグラスを差し出される。
「…完成。飲んでみて」
「い、いただきます…」
少し緊張しながら一口飲んでみると、口の中にほんのり甘い味が広がった。
「美味しい…」
「気に入ってもらえたならよかった。引っ越しの荷造りをしているときにたまたま見つけたんだ。
…修理すれば動くんじゃないかと思って試してみたんだけど、上手くできてよかった」
春人の笑顔を見ながら、少し不思議に思ったことがある。
「どうかした?」
「いいえ、なんでもなくて、その…作り方、教えてください」
「結構単純だと思うけど…」
彼は丁寧にレシピをメモして渡してくれた。
「ありがとうございます」
「君は少し休むこと。無理しないで」
「…はい」
そう言いつつ、どうしても気になってしまう。
食事は適当にとっていた、料理をしない、苦手でできない…彼は確かにそう言っていた。
それならどうして、こんなに沢山の調理器具があるんだろう。
誰かと一緒に住んでいたから、なのだろうか。
…それは、時折会話に出てくる【あの人】なのかもしれない。
「あの、お仕事しているところを見ていてもいいですか?」
「今日は見られて困るところじゃないから…どうぞ」
大量の部品に、それ以上の紙の束。
全部が修理の依頼書だと分かったときにはとても驚いた。
これだけ信頼されているのなら別のお仕事をしなくても生きていけそうなのに、どうして春人は修理以外の仕事もやっているのだろうか。
「そっちにひねっておいてから押すとお湯が出る」
「ごめんなさい…」
沢山のレバーに囲まれて、どれをどうすればいいのか分からなくなってしまうのだ。
「誰だって最初から何もかもできる訳じゃないんだから、謝る必要はない。
慣れるまでに色々な経験をするから楽しいっていうのもあるしね」
「左側に傾けるんですよね…?」
「そう。それでそのまま一気に押す」
生活能力に乏しい私が知っていることはまだまだ少ない。
ただ、迷惑をかけないように早く覚えようと思う。
「一旦休憩して」
「でも、」
「昨日からずっと掃除してるでしょ。…少しは休まないと体を壊す」
なんだか春人にいつも以上に気を遣わせてしまっているような気がして申し訳なくなる。
「…ごめんなさい」
一礼してから椅子に腰掛けると、春人は何かを作りはじめた。
「料理なら私も、」
「大丈夫。料理センスが絶望的な俺でもできることはあるから」
牛乳や蜂蜜、バニラエッセンス…その他諸々を入れてミキサーにかけている。
使ったことがない道具の登場に、何を作っているのか全く分からなかった。
しばらく大きな音がして、それがやむのとほぼ同時にグラスを差し出される。
「…完成。飲んでみて」
「い、いただきます…」
少し緊張しながら一口飲んでみると、口の中にほんのり甘い味が広がった。
「美味しい…」
「気に入ってもらえたならよかった。引っ越しの荷造りをしているときにたまたま見つけたんだ。
…修理すれば動くんじゃないかと思って試してみたんだけど、上手くできてよかった」
春人の笑顔を見ながら、少し不思議に思ったことがある。
「どうかした?」
「いいえ、なんでもなくて、その…作り方、教えてください」
「結構単純だと思うけど…」
彼は丁寧にレシピをメモして渡してくれた。
「ありがとうございます」
「君は少し休むこと。無理しないで」
「…はい」
そう言いつつ、どうしても気になってしまう。
食事は適当にとっていた、料理をしない、苦手でできない…彼は確かにそう言っていた。
それならどうして、こんなに沢山の調理器具があるんだろう。
誰かと一緒に住んでいたから、なのだろうか。
…それは、時折会話に出てくる【あの人】なのかもしれない。
「あの、お仕事しているところを見ていてもいいですか?」
「今日は見られて困るところじゃないから…どうぞ」
大量の部品に、それ以上の紙の束。
全部が修理の依頼書だと分かったときにはとても驚いた。
これだけ信頼されているのなら別のお仕事をしなくても生きていけそうなのに、どうして春人は修理以外の仕事もやっているのだろうか。
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