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春人ルート
第28話
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それから荷物をまとめて、走って、走って…結局また公園に辿り着く。
あのあとすぐに蔦は剥ぎ取ったけれど、あの人は大丈夫だっただろうか。
「…痛い」
歩く度体にあたる向かい風が、ずっと蕀さんたちが出ていた手のひらが、恐怖に凍りついた心が痛い。
春人の優しさに甘えてすっかり忘れていた。
こんなふうに暴走してしまうなら、やっぱり私は普通の幸せなんて望んではいけないんだ。
この先手に入ることは、絶対にない。
独りブランコに座っていると、すぐ後ろに人の気配を感じる。
ふりかえろうとしたけれど、すぐに腕がまわされて身動きがとれなくなった。
「…見つけた」
「どう、して、」
「どんなものがやってきても護るって言ったのに、勝手に出ていってるから…つい探しちゃったんだ」
その声は間違いなく春人のもので、どうすればいいのか分からなくなる。
ふりほどかないといけないのにそれができない。
「最初はいつでも出ていっていいとは思ってた。俺の事情に巻きこみたくないから…それでもいいと思ってた」
「……」
「だけど、誰かと一緒にご飯を食べたり話したり、そうしているのが楽しくなっちゃったんだ」
春人は小さく耳許で囁いた。
「…俺は君に側にいてほしいと思った。出ていきたいなら止める権利はないけど、それが迷惑をかけたと思っているからなら戻ってきてほしい。
この言葉に嘘偽りはない。…月見、君はどうしたい?」
「私が、どうしたいかで決めていいんですか…?」
私が近くにいれば、いつか春人を不幸にしてしまうかもしれない。
もしもさっきみたいに、力を抑えられなくなったら…。
「君は、俺と過ごす時間が嫌いだった?」
「そんなこと、ありません…。あんなにあったかい時間は初めてで、美味しいって言ってもらえたのが嬉しくて…」
「それなら、帰ってきてもらえないかな?君の能力のことはばれないようにしておいた。
家には警察がきてる。知り合いもいるからついでに紹介しておくよ」
本当は拒絶しないといけない。
ついていけないと突き放さないといけないのに…1度知ってしまったぬくもりを話したくないと思ってしまった。
もしも、私の意思で選択することが許されるなら──
「側にいても、いいですか?」
「…帰ろう」
春人は私の前に立って、ゆっくり手をさしのべる。
握っていいのか迷っていると、血だらけの手のひらをよけて手首を握ってくれた。
「帰ったら手当てするから、今はこれだけ巻いておく」
両手をハンカチで丁寧に応急処置してくれて、春人に腕を引かれながら荷物を持ってついていく。
風がどれだけふいてきても、もう冷たくなかった。
あのあとすぐに蔦は剥ぎ取ったけれど、あの人は大丈夫だっただろうか。
「…痛い」
歩く度体にあたる向かい風が、ずっと蕀さんたちが出ていた手のひらが、恐怖に凍りついた心が痛い。
春人の優しさに甘えてすっかり忘れていた。
こんなふうに暴走してしまうなら、やっぱり私は普通の幸せなんて望んではいけないんだ。
この先手に入ることは、絶対にない。
独りブランコに座っていると、すぐ後ろに人の気配を感じる。
ふりかえろうとしたけれど、すぐに腕がまわされて身動きがとれなくなった。
「…見つけた」
「どう、して、」
「どんなものがやってきても護るって言ったのに、勝手に出ていってるから…つい探しちゃったんだ」
その声は間違いなく春人のもので、どうすればいいのか分からなくなる。
ふりほどかないといけないのにそれができない。
「最初はいつでも出ていっていいとは思ってた。俺の事情に巻きこみたくないから…それでもいいと思ってた」
「……」
「だけど、誰かと一緒にご飯を食べたり話したり、そうしているのが楽しくなっちゃったんだ」
春人は小さく耳許で囁いた。
「…俺は君に側にいてほしいと思った。出ていきたいなら止める権利はないけど、それが迷惑をかけたと思っているからなら戻ってきてほしい。
この言葉に嘘偽りはない。…月見、君はどうしたい?」
「私が、どうしたいかで決めていいんですか…?」
私が近くにいれば、いつか春人を不幸にしてしまうかもしれない。
もしもさっきみたいに、力を抑えられなくなったら…。
「君は、俺と過ごす時間が嫌いだった?」
「そんなこと、ありません…。あんなにあったかい時間は初めてで、美味しいって言ってもらえたのが嬉しくて…」
「それなら、帰ってきてもらえないかな?君の能力のことはばれないようにしておいた。
家には警察がきてる。知り合いもいるからついでに紹介しておくよ」
本当は拒絶しないといけない。
ついていけないと突き放さないといけないのに…1度知ってしまったぬくもりを話したくないと思ってしまった。
もしも、私の意思で選択することが許されるなら──
「側にいても、いいですか?」
「…帰ろう」
春人は私の前に立って、ゆっくり手をさしのべる。
握っていいのか迷っていると、血だらけの手のひらをよけて手首を握ってくれた。
「帰ったら手当てするから、今はこれだけ巻いておく」
両手をハンカチで丁寧に応急処置してくれて、春人に腕を引かれながら荷物を持ってついていく。
風がどれだけふいてきても、もう冷たくなかった。
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