裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第27話

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それはよく晴れた夏の日のことだった。
「なっちゃん、いる?」
「花菜…」
「やっぱりいた!お店が開いてないからここじゃないかと思ったんだ!」
朝早くから花菜がやってきて、とても楽しそうにしている。
邪魔にならないように部屋に籠り、膝の上にいるソルトを撫でた。
「お客さんが来ているから、ここで一緒に待っていようね」
ソルトはにゃんとひと鳴きして、しっぽをだらんとおろしてしまう。
夏彦に会いたいのか、扉にがりがりと爪をたてはじめた。
「駄目。ソルトが怪我をしたら、夏彦が悲しむ…」
まるで言葉が通じたように、ソルトは引っ掻くのをやめた。
あと少しで男性向けのコサージュが完成するから見てほしかったけれど、話がなかなか終わらないということはお仕事が忙しいのだろう。
「そっか。報告ありがとう」
「ついでだから気にしないで!仕事に行く前に飲み物が飲める場所でごちそうになりたかっただけだし…」
「それならいつものところでもよかったんじゃない?なんでここに直接来たの?」
「他にもうひとつ、報告しないといけないことがあって…」
もしかすると、私に関することだろうか。
固唾を飲みながら扉の向こうに意識を集中していると、突然ばたんと開かれる。
「え、月見!?」
「だから待ってって言ったのに…。ごめんね月見ちゃん。吃驚したでしょ?」
一瞬何がおこったのか分からなかったけれど、夏彦が丁寧に説明してくれた。
「花菜が誰かに盗聴されてるって言い出して、話す前に勢いよく開けちゃったんだ。
止められなくて本当にごめん…」
「いえ、私は大丈夫、です」
困ったような表情を浮かべる夏彦がそう話すと、花菜がソルトに目を向ける。
「あ、その子大切にしてくれてるんだね!名前とか決めた?」
「その前に月見ちゃんに、」
「…ソルト、です」
「へえ、いい名前もらったね!」
ソルトと戯れる姿を見て、夏彦は深いため息を吐く。
「ごめんね。花菜は昔からこうだから…」
「いいえ。私の方こそ、ごめんなさい」
「もしかして、新商品のサンプルがもうできたの?」
頷いてできあがったものを見せると、何故か彼は驚いたような表情をしている。
もしかすると、どこかあり得ないような間違い方をしていたのだろうか。
「本当に早くて丁寧で、プロの仕事よりすごい」
「そ、そんなことはない…と、思います」
「これ、早速明日からお店に並べさせてもらうね。
急な頼み事だったのに、作ってくれてありがとう」
その言葉が聞けて嬉しい。
じっと見られているような気がして視線をうつすと、花菜と目が合う。
「…?あの、」
「お願い、私にも服を作って!」
それは唐突なお願いだった。
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