裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第26話

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「本当に大丈夫?もうちょっと休んでからの方がいいんじゃ…」
「もう動けるので大丈夫です。…ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでした」
頭をさげると勢いよく撫でられる。
状況が呑みこめなくて顔をあげると、そこには不安そうな表情が広がっていた。
「月見ちゃんが謝ることじゃないよ。ただ俺が勝手に不安になってるだけで…とにかく、そんなふうに自分を責めないでほしいな」
彼は優しくそう言ってくれたけれど、冬真さんにも申し訳なかった。
「あの、ご迷惑をお掛けしてしまい、」
「…気にしてない。それよりいつまでも暗い顔をされてる方が困る」
「マー君、言い方…。ごめんね月見ちゃん。要約すると、マー君はすごく心配してるって」
「え…?」
夏彦は制止しようとする冬真さんを腕1本で止めて話を続ける。
「マー君はすぐ恥ずかしがって言い方がきつくなるけど、どうでもいい相手とかお仕事の相手にしか優しい言葉は使わないから…。
それに、どうでもいい人のことなんて心配にはならないでしょ?」
「あんた、本当に余計なことを…」
「あの、ありがとう、ございます」
「…もういいから、早く帰って休んだ方がいい。具合が悪くて困ったら来て」
ひとりで暮らしているにしては広い部屋に驚きながら、一礼して夏彦に続く。
「月見ちゃん」
「は、はい…」
「もし嫌じゃなければ、隣を歩いてもらってもいいかな?」
「嫌じゃ、ないです。ただ、距離感が分からなくて…」
どうしようかと困っていると、夏彦はリードを片手に持ったまま手を繋いでくれる。
それは今まで感じてきた何よりも温かくて、すごく安心した。
「こうしていれば、はぐれたりしないでしょ?」
「ありがとう、ございます…」
彼はとてもいい人で、彼の周りの人たちもいい人たちで…とにかく感謝しかない。
少し前を歩くソルトも町に慣れてきたのか、なんだかとても嬉しそうに歩いていた。
「…親子連れとか見ると、昔のことを思い出しちゃうの?」
「どうしてそれを…」
「なんとなく分かったんだ。本当にそれだけ」
夏彦はただ笑ってそう話す。
恐らく彼は本心からそう言っている。
その事実が嬉しくて頑張って笑顔を作ろうとしたけれど、思っていた以上に上手くいかない。
「大丈夫。いつかきっと、もっと素直に感情を出せるようになるから」
「ご、ごめんなさい…」
どうして彼はいつも私の心が見えているように話をするんだろう。
もしかすると本当に心が見えているんじゃないかと思うくらいに、考えていることをほとんど当ててくる。
いつか私も、彼の心が見えるようになるだろうか。
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