裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
36 / 385
春人ルート

第22.5話

しおりを挟む
まさかこんな形で秘密を知ることになるとは思わなかった。
家族から無償の愛をもらえなかった理由はきっと隠された能力にあって…そう考えるとやりきれない。
自分も愛されたことがなかったからだろうか。
それとも、
「ハル!」
「…ああ、ごめん」
「ごめんじゃなくて、何があったの?」
「ちょっと色々、考え事をしてただけ」
ふたりで話していると、いつもの作戦場所まであっという間だった。
「それじゃあ話はじめるぞ。夏彦にはいつもどおり情報を集めてもらう。
それから、今回は春人に作ってもらうアレが重要だ。…悪いが頼む」
「了解しました」
秋久はいつも申し訳なさそうに頼んでくる。
別にそんな表情をしなくてもいいのにとは思うものの、それを口にしても彼の態度が変わることがないのも事実だ。
「そういえば、ひとつ共有しておきたいことがあります」
「…春人さん、何かあったの?」
冬真は鋭い。
実はこのメンバーのなかで1番洞察力があるのではないかと密かに思っている。
彼が訊いているのは共有しておきたいことについてではなく、俺自身に何かあったのではないかということだ。
「僕はいつもどおりですよ。ただ、先日雪乃の店が強盗のようなものに侵入されてしまいまして…」
「それは穏やかじゃないね」
秋久には事後処理を頼まなければならなかったので知っていたのだが、他のふたりにはまだ知らせていなかった。
突然話したところで、相手を混乱させてしまうことは分かっている。
「なので、時間があるときに彼女の様子を見てきてもらえるとありがたいです」
「春人にばっかり負担がいくのもあれだし、雪乃ちゃんのところには俺たちで行こう」
「…夏彦、おまえは店が休みの日だけでいい。冬真も忙しいだろ。基本的には俺がやるから気にするな」
リーダーの頼もしい姿を見て、まだまだ精進が足りていないと実感する。
「…すみません、先に失礼します」
俺の仕事はあくまで裏方の裏方だ。
普段ならこれから白熱するであろう討論を最後まで聞くのだが、今はその少しの時間さえも惜しい。
「春人、そういえば月見ちゃんの捜索願だけど…まだ出されてないよ」
「分かりました。ありがとうございます」
何故こんなにも彼女のことばかり気になってしまうのかは分からない。
ただ、もっと知りたいと思っている自分がいる。
【ハル】…そう呼んでくれたあの人や共に過ごした時間が長い対する感情とは、また別のものが俺の中で動いているらしい。
彼女が今まで隠していた理由に、夜眠れない理由…そして何より、能力についてもっと詳しく聞いておこう。
……場合によっては、他のメンバーにも話すべきなのかもしれないから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

困るのは貴方なので、全然婚約破棄でもオッケーです。

ララ
恋愛
愛する彼は私を裏切り、悪女を選んだ。 まあ別に構いませんが、困るのは貴方なので。

【完結】公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す

金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。 今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。 死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。 しかも、すでに王太子とは婚約済。 どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。 ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか? 作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

結婚式をやり直したい辺境伯

C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。 「――お前を愛する事は無いぞ」 帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。 誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。 予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。 ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。 彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。 ※シリアスなラブコメ ■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。

前世でわたしの夫だったという人が現れました

柚木ゆず
恋愛
 それは、わたしことエリーズの婚約者であるサンフォエル伯爵家の嫡男・ディミトリ様のお誕生日をお祝いするパーティーで起きました。  ディミトリ様と二人でいたら突然『自分はエリーズ様と前世で夫婦だった』と主張する方が現れて、驚いていると更に『婚約を解消して自分と結婚をして欲しい』と言い出したのです。  信じられないことを次々と仰ったのは、ダツレットス子爵家の嫡男アンリ様。  この方は何かの理由があって、夫婦だったと嘘をついているのでしょうか……? それともアンリ様とわたしは、本当に夫婦だったのでしょうか……?

処理中です...