裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第5話

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いきなり選んでいいと言われても、どうすればいいのか分からない。
私が持っている洋服は3着だけ、全部どこかの誰かからもらった古着だ。
「あの、私、」
「別に遠慮しなくても大丈夫ですよ。…それとも、どう選べばいいのか分からないということでしょうか」
春人の言葉に頷くと、夏彦さんはにこりと笑って色々な洋服を持ってきてくれた。
どれも私とは縁遠いもので、どれを選ぶのが正解か分からない。
「…これとこれとこれ、あとはこちらのものをお願いします」
しばらく黙りこんでいると、春人が一気に注文してしまう。
夏彦さんは笑ってそのまま全部綺麗に包装していく。
「あの、私、お金持ってないので…」
「そういうことは気にしなくていいんだよ!春人は俺の大事な友だちだからね、格安で売ってあげられるし」
「…何かひとつくらい、好きなものを選んでみてください。
どのくらいの値段がとか、自分がもらっていいのかとか、そういうことは考えなくていいので…直感的にほしいと思ったものを教えてください」
その言葉に頷きながら、ふとひとつの疑問が沸いてくる。
夏彦さんは春人を大事な友だちだと言った。
それならば、いつもみたいに敬語をはずして話してもいいはずだ。
…どうしてそうしないんだろう。
「決まりましたか?」
「え、あ、はい。それならこれを…」
ノートを1冊お願いしようと思っていたとき、目に飛びこんできたのは可愛らしいテディベアだった。
「…すみません、こちらとこちらを追加でお願いします」
「了解、ちょっと待ってて!」
春人は視線に気づいたのか、ぬいぐるみまで買うように夏彦さんに話してくれた。
「あの、でも、」
「いいから。…もう少し欲張ってもいい」
私にだけ聞こえるようにそっと耳打ちして、そのままお会計をすませていく。
夏彦さんは春人に何かを渡して、お買い物はそれで終わった。
「ありがとうございました!月見ちゃん、また来てね」
「ありがとう、ございます」
「他に行ってみたい場所はある?」
「いえ、特には。ありがとうございます」
「…手、繋いでおかないとはぐれるよ」
そのままアパートまでの道を歩いて、あっという間に辿り着く。
「次出掛けたときは家具も少し見てみよう」
「…すみません」
「俺がそうしたいだけだから」
沢山の洋服をすみっこにまとめて置いてから、すぐにテディベアだけを取り出す。
春人のぬいぐるみの隣にその子を座らせると、後ろから声がした。
「そこだと落ちるかもしれないよ?」
「でも、ひとりでいるのは寂しそうだったので」
「…そういうこと。その子の為だったんだ」
余計なことをしたかもしれないと振り返ると、春人は満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう。俺じゃあそこまで気が回らなかった」
その笑顔が綺麗で思わず見とれてしまう。
その姿に鼓動が高鳴っているのは何故だろうか。
…もっと彼の笑顔が見たい。
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