裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
13 / 385
春人ルート

第2話

しおりを挟む
その日の夜、どうしても眠れなくてキッチンへ向かう。
この部屋以外ならどこでも入っていい…春人さんの指示通り、その鍵がかけられた部屋には近づかないようにしている。
「まだ寝てなかったの?」
「えっと、眠れなくてお水をいただこうかと思いまして…」
「水じゃなくても、好きなものを淹れていいよ。…今から少し出掛けてくるけど、絶対に勝手に外へ行かないように」
「え、あ、分かりました」
こんな真夜中に出掛けるのは、普通のことなのだろうか。
分からないことだらけの私には、ただ背中を見送ることしかできなかった。
「…お願い蕀さんたち」
手袋を外し蔦を繰り出す。
これが普通のことではないと知ったのは、一体いつのことだったか。
どうして自分にこんな力があるのかは分からない。
ただ、この事を知られればきっと出ていくように言われてしまうだろう。
「…痛っ」
手のひらからぽたぽたと血が滴り落ちていく。
ここまで大きく出すつもりはなかったのに、時々どうしても上手くコントロールできない。
雑巾で床掃除をしていると、がちゃりと扉が開かれる。
「えっと…おかえりなさい」
「眠れない?」
「ごめんなさ…」
春人さんは眉を寄せ、私の手を強めに掴む。
「床掃除よりも自分の心配をして。…この怪我、いつからしているものなの?」
「随分前からなので、正確には分かりません。ごめんなさい、床を汚してしまったのも傷が開いたせいで…」
「…ちょっと待ってて」
春人さんは小走りで奥の部屋へと向かってしまう。
もしも怒らせてしまっていたらどうしよう、出ていけと言われてしまったら…不安に思っていると、真っ白な箱を抱えて戻ってきた。
「こういう傷は、2,3日してからが1番痛む。だから今のうちに消毒して、それが軽くなるようにした方がいい」
「あ、ありがとうございます」
どうしてそんなことを知っているのだろう。
それとも、私が知らないことが多いだけ…?
「…春人」
「え?」
「さん付け、あんまり慣れないからそう呼ばれた方が嬉しい。
あと敬語はなし。多分年が近いから、そういう相手にまで畏まって話す必要はない」
「分かりました…春人」
「敬語は外すまで時間がかかりそうだね」
「ごめんなさい」
「別に責めた訳じゃない。…その気持ちはなんとなく分かる」
丁寧に包帯を巻いてくれた春人は、そのまま白い箱を持って奥の部屋へと吸いこまれるように消えてしまう。
怪我について詮索せずに黒柿色の髪をくしゃっと撫でる後ろ姿は、なんだかとてもかっこよかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...