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黒蝶

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1つの違いの章

言葉の魔法

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「どうしていつも、私が欲しい言葉をくれるの...?」
「そう言われても、僕は言いたいことを言っているだけだから...」

雪芽に嘘なんて吐いたことがない。
そもそも、嘘を吐こう等と考えたことがないのだ。
それは、これならもきっと変わらない。
少し間を置いて、話を続ける。

「どれだけ君が君自身を否定しても、僕が肯定し続ける。
物がなくなっても、無視されても、殴られても、君はずっとずっと頑張ってきたんだよ」
「頑張ってた...私が?」

やはり雪芽自身は気づいていないようだ。
それがどれだけ難しいことで、どれだけ大変なことなのか。
今でも感情がほとんどないが、それくらいのことは分かる。

「痣の痛みにも、心の痛みにも、病の痛みにもずっと耐え続けて...ずっと独りで辛かったね」
「...っ」

その瞳から、美しい雫が零れ落ちる。
僕にできることはとても少ない。
だからこそ、できることは全てやりたいと思う。

「僕には、こうして側にいて話を聞いて、知っている限りのことをすることしかできないけど...それでも、頭を撫でたりすることはできる」
「柊...」
「君はとても温かい人だね。無理に笑わなくていい。
たとえどんなふうに振る舞おうと、君が君であることに変わりはないのだから」
「軽蔑しないの?」

衝撃の質問に、ただただ驚いた。
まさかそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったからだ。

「...そういうものを持ち合わせていないから分からないけど、しない。
僕は、どんな形であれ必死に生きた人を否定したりしない」

雪芽は必死に生きた。
自分なりにずっと頑張ってきたのだ。
...自らを犠牲にしてきた結果がこうなってしまったのはよくないことなのかもしれないが。
それでも、僕は否定する気にはなれなかった。

「...あんなにも悪意に満ちている場所で、必死にもがいたんだから。
僕ならきっとできないなって、そう思うよ」
「...!」

いつの間にか、僕は彼女を抱きしめていた。
何故そんなことをしたのかは分からない。
分からないが、雪芽はとても温かかった。
その優しい感触を離したくないような気もするが、そろそろ行かなければならない。

(本当にらしくない)
「...そろそろ一緒に帰ろう」
「うん...」
「また泣いてるけど、どうして?」
「だって、もう独りじゃないから」

独りというのはとても寂しいことだということを、僕はなんとなく知っている。
だから雪芽に側にいてほしいと思ったのかもしれない。
泣き止むまでは抱きしめていたいと思った。
...赦されるならこれからもずっと一緒にいたいなどと思うのは、我儘ということになるのだろうか。
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