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其の漆
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その夜、私はわざとあの家の人間たちに見つかった。
「追え!逃がすな!」
声と態度だけは大きい大人たちを蹴散らし、そのまま穂乃がいるであろう部屋に入る。
「さあ、おまえはあの子の為に死になさい」
「助けて、お姉ちゃん……」
しばらく走って辿り着いた裏口から侵入して目の当たりにしたのは、何かの陣の真ん中で磔にされている穂乃の姿だった。
体中傷だらけで肌着しか身に着けていなかった、こちらに向けられる虚ろな目が、何をされたか物語っている。
その日は今日みたいな上弦の月で、怒りで力が爆発した。
「妹には手を出すなと言ったはずだ」
「おまえは強いから本家に迎えてやってもいいですが、この子は無駄に力が強いだけです」
「私たちのことを放っておいてくれないか?あんたたちの家とは関係ない。私は折原詩乃だからな」
まだ使い慣れていなかった火炎刃をひとふりして、捕らえられていた穂乃を背負って駆け抜ける。
以前から予告状のようなものが届いたり、意味不明な電話がかかってくることはあった。
だが、まさか本当に誘拐を企てるとは思っていなかったのだ。
「──燃やし尽くせ、全てを!」
部屋中から火の手があがるのを確認し、思いきり地面を蹴る。
「贄だけでも…ぐっ!?」
後ろから襲われそうになった瞬間、突風が巻きおこり相手が倒れる。
そこにやってきたのが義政さんだ。
「俺は大丈夫だから早く行って」
「ありがとう」
逃げ切れると思っていたが、しばらく走ったところで追手にひとつくくりにしていた髪を掴まれてしまった。
「捕まえたぞ…いいなあ、女学生ってそそられるな…」
なんとか穂乃の体には触られないように横抱きにしたが、いやらしい手つきで太ももを触られたのが気持ち悪かった。
「君は可愛がるように言われてるから、ちょっとだけ…ね?」
スカートを切りつけられ、下着が露わになる。
それを見てにたにたしているそいつらが気持ち悪くて吐き気を覚える。
穂乃だけは無事に帰したい。
その一心で男を蹴り飛ばし、持っていた札を地面に並べる。
「──爆ぜろ!」
思った以上に火力が強かった。
神宮寺本家の建物の方に向かって真っ直ぐ燃えはじめ、私が蹴飛ばした相手は悲鳴をあげてその場から逃げていく。
穂乃を抱えたまま蔵まで辿り着いたものの、いつまで経っても義政さんはやってこなかった。
電話をしても繋がらず、風雲のことも探したが見つからない。
結んだ髪はぐちゃぐちゃで、さっき男に触れられた感触を思い出して気持ち悪くなる。
「……ここまでか」
穂乃を護りたかったのに、こんなんじゃまだまだだ。
義政さんと連絡がとれたら稽古を増やしてもらって、穂乃は風雲に見ててもらうことにして……
《詩乃》
どこからか名前を呼ばれる声が聞こえ、そこで意識はぷっつり途切れた。
「追え!逃がすな!」
声と態度だけは大きい大人たちを蹴散らし、そのまま穂乃がいるであろう部屋に入る。
「さあ、おまえはあの子の為に死になさい」
「助けて、お姉ちゃん……」
しばらく走って辿り着いた裏口から侵入して目の当たりにしたのは、何かの陣の真ん中で磔にされている穂乃の姿だった。
体中傷だらけで肌着しか身に着けていなかった、こちらに向けられる虚ろな目が、何をされたか物語っている。
その日は今日みたいな上弦の月で、怒りで力が爆発した。
「妹には手を出すなと言ったはずだ」
「おまえは強いから本家に迎えてやってもいいですが、この子は無駄に力が強いだけです」
「私たちのことを放っておいてくれないか?あんたたちの家とは関係ない。私は折原詩乃だからな」
まだ使い慣れていなかった火炎刃をひとふりして、捕らえられていた穂乃を背負って駆け抜ける。
以前から予告状のようなものが届いたり、意味不明な電話がかかってくることはあった。
だが、まさか本当に誘拐を企てるとは思っていなかったのだ。
「──燃やし尽くせ、全てを!」
部屋中から火の手があがるのを確認し、思いきり地面を蹴る。
「贄だけでも…ぐっ!?」
後ろから襲われそうになった瞬間、突風が巻きおこり相手が倒れる。
そこにやってきたのが義政さんだ。
「俺は大丈夫だから早く行って」
「ありがとう」
逃げ切れると思っていたが、しばらく走ったところで追手にひとつくくりにしていた髪を掴まれてしまった。
「捕まえたぞ…いいなあ、女学生ってそそられるな…」
なんとか穂乃の体には触られないように横抱きにしたが、いやらしい手つきで太ももを触られたのが気持ち悪かった。
「君は可愛がるように言われてるから、ちょっとだけ…ね?」
スカートを切りつけられ、下着が露わになる。
それを見てにたにたしているそいつらが気持ち悪くて吐き気を覚える。
穂乃だけは無事に帰したい。
その一心で男を蹴り飛ばし、持っていた札を地面に並べる。
「──爆ぜろ!」
思った以上に火力が強かった。
神宮寺本家の建物の方に向かって真っ直ぐ燃えはじめ、私が蹴飛ばした相手は悲鳴をあげてその場から逃げていく。
穂乃を抱えたまま蔵まで辿り着いたものの、いつまで経っても義政さんはやってこなかった。
電話をしても繋がらず、風雲のことも探したが見つからない。
結んだ髪はぐちゃぐちゃで、さっき男に触れられた感触を思い出して気持ち悪くなる。
「……ここまでか」
穂乃を護りたかったのに、こんなんじゃまだまだだ。
義政さんと連絡がとれたら稽古を増やしてもらって、穂乃は風雲に見ててもらうことにして……
《詩乃》
どこからか名前を呼ばれる声が聞こえ、そこで意識はぷっつり途切れた。
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