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泣かないver.
ようやく渡せたもの
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「...ほら、できた」
「ありがとう。...迷惑かけちゃったね」
「そんなことはない。俺がそうしたかっただけだから」
そうしてまずは湯船に浸かりに向かう。
何とか風邪は引かずに済みそうだなんて考えつつ、一緒にいられる時間が増えたのは純粋に嬉しい。
「...そろそろあがるか」
体を洗い、できるだけ手短に済ませる。
「悪い。待たせたか?」
「ううん。この子と待っていたら寂しくなかったよ」
久遠は楽しそうにぬいぐるみの手をぱたぱたとさせている。
そんな姿にまた頬が熱くなるのを感じながら髪を乾かす。
...今日だけは、絶対に湯冷めなんかしないような気がした。
「...久遠」
「どうしたの?」
「その、これ...受け取ってくれるか?」
気の利いたことなど言えず、結局真っ直ぐに伝えることしかできない。
「これ、私がもらっていいの?」
「寧ろもらってくれないと困る」
「それじゃあ、開けてみてもいい?」
俺が頷くと、ふたつある箱のうち冷蔵庫に仕舞っておいた方から開けた。
「か、可愛い...!」
「気に入ってもらえたならよかった」
大量のテンプテーションローズを使ったケーキは大好評のようだ。
それを丁寧に再び箱に戻すと、じっと俺を見つめてくる。
「明日の朝までここに仕舞っておく」
「ありがとう。こっちは小さいくまさんと...え、トパーズ!?」
俺は久遠の前に跪き、その小さめの石がついた指輪をそっと嵌めてみる。
「...やっぱりぴったりだ」
「こんなにいいものをもらっていいの?」
「俺は宝石については詳しくないし、これでいいのか分からないけど...久遠に似合う気がしたんだ」
兄貴みたいに完璧ではないし、他の人たちと比べるとそんなに高価なものではない。
...ただ、色が似合いそうだっただけ。
それだけのことなのだ。
「私に似合う、かな?」
「少なくとも俺はそう思う。...いつかここに、別の指輪を渡せる日がくるように頑張る」
先程つけた場所は右手の薬指、俺がとんとんとつついたのは左手の薬指だ。
「...!」
すぐに意味を察知したのか、久遠は真っ赤になったまま俯いてしまった。
そんな姿さえも目に焼きつけておきたいなんて、俺はおかしいのかもしれない。
暴れだしそうな感情を抑えつつ、目の前の体をそっと抱きしめる。
「いつもありがとな」
「大翔...私の方こそありがとう」
ふたりで抱きあい、そっと口づける。
その味は少しだけ涙の味がしたが、それが哀しいものではないことはすぐに分かった。
...これから先、どんなことがあっても彼女の手だけは離せそうにない。
「ありがとう。...迷惑かけちゃったね」
「そんなことはない。俺がそうしたかっただけだから」
そうしてまずは湯船に浸かりに向かう。
何とか風邪は引かずに済みそうだなんて考えつつ、一緒にいられる時間が増えたのは純粋に嬉しい。
「...そろそろあがるか」
体を洗い、できるだけ手短に済ませる。
「悪い。待たせたか?」
「ううん。この子と待っていたら寂しくなかったよ」
久遠は楽しそうにぬいぐるみの手をぱたぱたとさせている。
そんな姿にまた頬が熱くなるのを感じながら髪を乾かす。
...今日だけは、絶対に湯冷めなんかしないような気がした。
「...久遠」
「どうしたの?」
「その、これ...受け取ってくれるか?」
気の利いたことなど言えず、結局真っ直ぐに伝えることしかできない。
「これ、私がもらっていいの?」
「寧ろもらってくれないと困る」
「それじゃあ、開けてみてもいい?」
俺が頷くと、ふたつある箱のうち冷蔵庫に仕舞っておいた方から開けた。
「か、可愛い...!」
「気に入ってもらえたならよかった」
大量のテンプテーションローズを使ったケーキは大好評のようだ。
それを丁寧に再び箱に戻すと、じっと俺を見つめてくる。
「明日の朝までここに仕舞っておく」
「ありがとう。こっちは小さいくまさんと...え、トパーズ!?」
俺は久遠の前に跪き、その小さめの石がついた指輪をそっと嵌めてみる。
「...やっぱりぴったりだ」
「こんなにいいものをもらっていいの?」
「俺は宝石については詳しくないし、これでいいのか分からないけど...久遠に似合う気がしたんだ」
兄貴みたいに完璧ではないし、他の人たちと比べるとそんなに高価なものではない。
...ただ、色が似合いそうだっただけ。
それだけのことなのだ。
「私に似合う、かな?」
「少なくとも俺はそう思う。...いつかここに、別の指輪を渡せる日がくるように頑張る」
先程つけた場所は右手の薬指、俺がとんとんとつついたのは左手の薬指だ。
「...!」
すぐに意味を察知したのか、久遠は真っ赤になったまま俯いてしまった。
そんな姿さえも目に焼きつけておきたいなんて、俺はおかしいのかもしれない。
暴れだしそうな感情を抑えつつ、目の前の体をそっと抱きしめる。
「いつもありがとな」
「大翔...私の方こそありがとう」
ふたりで抱きあい、そっと口づける。
その味は少しだけ涙の味がしたが、それが哀しいものではないことはすぐに分かった。
...これから先、どんなことがあっても彼女の手だけは離せそうにない。
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