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泣けないver.
雪の中の彼女
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その夜、詩音は全く眠れていない様子だった。
寝ていなかった僕が言うのも変な話かもしれないけど、こんな時間まで起きていては体の調子が悪くなってしまう。
「...詩音」
「わっ、優翔」
「ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだけど...眠れないの?」
「色々考えちゃって、頭が冴えちゃった。だから、キッチンを借りようと思ったんだけど...」
起こしたと思っているのか、かなり申し訳なさそうにしている。
「僕は気づいたらこの時間だったんだ。本のやめどきが分からなくなってしまって...」
「今までずっと起きてたの?」
頷こうとすると、外が白く染まってきていることに気づく。
「この時期に雪なんて、なんだか珍しいような気がする」
「あ、本当だ。すごく綺麗、小さい頃は何も考えずに遊んでたな...」
思いを馳せるように目を細める詩音に、厚手のコートを羽織らせる。
「え、優翔?」
「ちょっとだけ雪遊びしよう。なんだかわくわくしてきちゃった」
袖に腕をとおし、そのまま少し強めにひく。
「冷えるからそれ着てて。あと手袋もどうぞ」
「あ、ありがとう」
ベランダに出ただけなのに、こんなにも清々しい気持ちでいられるものがこの世界にあるなんて思っていなかった。
「やっぱり綺麗...」
目の前に天使がいる。
こんなことを言ってしまえば馬鹿にされてしまいそうだが、真っ白いなかをくるっとまわった詩音はとても美しかった。
それに、やはり笑顔が可愛らしくて見惚れてしまうのだ。
「優翔、もしかして体調が悪いんじゃ」
「違うよ。ねえ、詩音。さっきみたいにもう1回まわってみてくれないかな?」
「...?うん」
両手を広げ、ブカブカのコートがふわっと舞う。
やはり何度見ても、あまりの美しさに言葉を失ってしまうらしい。
「ありがとう。すごく綺麗だね」
「そうだね。こんなふうに降ってるのは久しぶりで...」
雪のことだと思って話している詩音を抱きしめて、そっと耳元で囁いた。
「僕から見れば、詩音の方が綺麗なんだけどな...」
「優翔、くすぐったい」
「こうやって話すと、少しは温かいでしょ?」
恥ずかしそうに腕の中をじたばたと動き回る詩音を離したくなくて、背中にまわした腕の力を強める。
離してしまえばそのまま消えてしまいそうで、どうしても捕まえておきたかった。
「雪うさぎ完成」
「え?」
そんな狂おしい感情を抑えこみ、手に握っていた雪玉で手のひらサイズのうさぎを作ってみせる。
詩音の表情が明るくなっていくのにほっとして、しばらくふたりで遊んだ。
こうしている間だけは、彼女が嫌なことを考えずにいられるかもしれない...そうであってほしいと願って。
寝ていなかった僕が言うのも変な話かもしれないけど、こんな時間まで起きていては体の調子が悪くなってしまう。
「...詩音」
「わっ、優翔」
「ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだけど...眠れないの?」
「色々考えちゃって、頭が冴えちゃった。だから、キッチンを借りようと思ったんだけど...」
起こしたと思っているのか、かなり申し訳なさそうにしている。
「僕は気づいたらこの時間だったんだ。本のやめどきが分からなくなってしまって...」
「今までずっと起きてたの?」
頷こうとすると、外が白く染まってきていることに気づく。
「この時期に雪なんて、なんだか珍しいような気がする」
「あ、本当だ。すごく綺麗、小さい頃は何も考えずに遊んでたな...」
思いを馳せるように目を細める詩音に、厚手のコートを羽織らせる。
「え、優翔?」
「ちょっとだけ雪遊びしよう。なんだかわくわくしてきちゃった」
袖に腕をとおし、そのまま少し強めにひく。
「冷えるからそれ着てて。あと手袋もどうぞ」
「あ、ありがとう」
ベランダに出ただけなのに、こんなにも清々しい気持ちでいられるものがこの世界にあるなんて思っていなかった。
「やっぱり綺麗...」
目の前に天使がいる。
こんなことを言ってしまえば馬鹿にされてしまいそうだが、真っ白いなかをくるっとまわった詩音はとても美しかった。
それに、やはり笑顔が可愛らしくて見惚れてしまうのだ。
「優翔、もしかして体調が悪いんじゃ」
「違うよ。ねえ、詩音。さっきみたいにもう1回まわってみてくれないかな?」
「...?うん」
両手を広げ、ブカブカのコートがふわっと舞う。
やはり何度見ても、あまりの美しさに言葉を失ってしまうらしい。
「ありがとう。すごく綺麗だね」
「そうだね。こんなふうに降ってるのは久しぶりで...」
雪のことだと思って話している詩音を抱きしめて、そっと耳元で囁いた。
「僕から見れば、詩音の方が綺麗なんだけどな...」
「優翔、くすぐったい」
「こうやって話すと、少しは温かいでしょ?」
恥ずかしそうに腕の中をじたばたと動き回る詩音を離したくなくて、背中にまわした腕の力を強める。
離してしまえばそのまま消えてしまいそうで、どうしても捕まえておきたかった。
「雪うさぎ完成」
「え?」
そんな狂おしい感情を抑えこみ、手に握っていた雪玉で手のひらサイズのうさぎを作ってみせる。
詩音の表情が明るくなっていくのにほっとして、しばらくふたりで遊んだ。
こうしている間だけは、彼女が嫌なことを考えずにいられるかもしれない...そうであってほしいと願って。
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