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泣けないver.
予想を超えたもの
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「これは...」
詩音が落書きを落としてしまおうと鞄を持った瞬間、中身が零れ出る。
そこから出てきたのは、ぼろぼろに切り刻まれたスカートだった。
その奥からは裁縫道具が零れ、荷物の謎が解ける。
「...言えないよね、こんなの」
あまりにも酷い光景にただ言葉を失う。
何故こんなことをされなければならないのか...兄妹はよく似るというけれど、似すぎていて怒りしかこみあげてこない。
「...直さないと」
チェックのスカートであることが唯一の救いだ。
もしも襞スカートだったら、こんなふうに縫い直すことはできなかっただろう。
手間がかかるとか、そんなことはどうでもいい。
今の詩音は、きっと僕の想像以上にぼろぼろになっているはずだ。
「...これでよし」
数十分後、落書きもスカートも何とかなってくれた。
それをもとの位置に戻して、そのまま夕食の準備にはいる。
「お風呂、あがりました...」
「ゆっくり休めた?」
「うん。...ありがとう」
そんなやりとりをした後、部屋に入った彼女の声がする。
ぱたぱたと駆けてくる足音は、可愛いとしか言いようがなかった。
「優翔、これ、」
「ごめん。落書きだけ取っておこうと思ったら、鞄の中身をばらまいちゃって...」
怒られると思っていたのに、いつまで経っても彼女の声は聞こえてこない。
表情を確認しようとすると、俯いた彼女からぽたぽたと雫が落ちた。
「ごめん、泣くほど嫌だったなんて、」
「...違う」
そのまま言葉を待っていると、体がこちらに倒れてきた。
「私、私は...」
「ゆっくりでいいから、詩音の気持ちを教えて?」
「...もう、無理だって思ったの。保健の先生が、花を植えないかって誘ってくれて...。
ジャージに着替えて、ボランティア活動を手伝って...保健室に戻ったら、こうだった」
つまりつまりではあるけれど、思いを吐き出すように話してくれる。
人の手伝いをするのは彼女らしい。
だが、その心さえもつけ狙ってくる輩がいることにただただ憤りを感じた。
「外に出て人と話すの苦手なのに、頑張ったね」
「...っ」
涙を堪えきれなかったのか、僕の体にしがみついて本格的に泣き出してしまう。
その今にも消えてしまいそうな背中にゆっくり腕をまわして、ただなだめることしかできない。
こんな時間だけでも、詩音の心が安らぎに迎えたら...甘っちょろいことは分かっていても、そんなことをただ祈ることしかできなかった。
──どのくらいそうしていただろうか。
「ごめんなさい...」
「謝らないで。髪を乾かさないとね」
まだ濡れたままだったそこに触れると、くすぐったそうな反応がかえってくる。
そのまま襲いたくなってしまうほどの可愛さで、どうすればいいかと困ってしまった。
「そこに座って。今日は僕が乾かすから」
詩音が落書きを落としてしまおうと鞄を持った瞬間、中身が零れ出る。
そこから出てきたのは、ぼろぼろに切り刻まれたスカートだった。
その奥からは裁縫道具が零れ、荷物の謎が解ける。
「...言えないよね、こんなの」
あまりにも酷い光景にただ言葉を失う。
何故こんなことをされなければならないのか...兄妹はよく似るというけれど、似すぎていて怒りしかこみあげてこない。
「...直さないと」
チェックのスカートであることが唯一の救いだ。
もしも襞スカートだったら、こんなふうに縫い直すことはできなかっただろう。
手間がかかるとか、そんなことはどうでもいい。
今の詩音は、きっと僕の想像以上にぼろぼろになっているはずだ。
「...これでよし」
数十分後、落書きもスカートも何とかなってくれた。
それをもとの位置に戻して、そのまま夕食の準備にはいる。
「お風呂、あがりました...」
「ゆっくり休めた?」
「うん。...ありがとう」
そんなやりとりをした後、部屋に入った彼女の声がする。
ぱたぱたと駆けてくる足音は、可愛いとしか言いようがなかった。
「優翔、これ、」
「ごめん。落書きだけ取っておこうと思ったら、鞄の中身をばらまいちゃって...」
怒られると思っていたのに、いつまで経っても彼女の声は聞こえてこない。
表情を確認しようとすると、俯いた彼女からぽたぽたと雫が落ちた。
「ごめん、泣くほど嫌だったなんて、」
「...違う」
そのまま言葉を待っていると、体がこちらに倒れてきた。
「私、私は...」
「ゆっくりでいいから、詩音の気持ちを教えて?」
「...もう、無理だって思ったの。保健の先生が、花を植えないかって誘ってくれて...。
ジャージに着替えて、ボランティア活動を手伝って...保健室に戻ったら、こうだった」
つまりつまりではあるけれど、思いを吐き出すように話してくれる。
人の手伝いをするのは彼女らしい。
だが、その心さえもつけ狙ってくる輩がいることにただただ憤りを感じた。
「外に出て人と話すの苦手なのに、頑張ったね」
「...っ」
涙を堪えきれなかったのか、僕の体にしがみついて本格的に泣き出してしまう。
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こんな時間だけでも、詩音の心が安らぎに迎えたら...甘っちょろいことは分かっていても、そんなことをただ祈ることしかできなかった。
──どのくらいそうしていただろうか。
「ごめんなさい...」
「謝らないで。髪を乾かさないとね」
まだ濡れたままだったそこに触れると、くすぐったそうな反応がかえってくる。
そのまま襲いたくなってしまうほどの可愛さで、どうすればいいかと困ってしまった。
「そこに座って。今日は僕が乾かすから」
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