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泣かないver.
陰での努力の人
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「紅茶は俺が淹れるから、そっちの棚から好きな菓子を用意してくれ」
「ありがとう」
どれが合うだろうかと色々見ていると、なんだかいつもとは違った音がする。
砂時計をひっくり返して時間を正確に測るその姿は、本当のカフェのマスターのようだった。
「大翔が淹れてくれるものはいつも本格的だけど、今日は時間もしっかりやるの?」
「悪い。いつもならフィーリングでやるんだけど、紅茶検定の日が近いから実践した方が覚えられるだろうなって...」
「紅茶検定...そういうものもあるんだね」
テスト勉強をする前から疲れている日が多いとは思っていたけれど、まさか他にも勉強していることがあるからだとは思わなかった。
(バイトで疲れているのかと考えていたけど、本当に努力家だな...)
「今回は上級を受ける予定」
「え、上級!?」
「初級と中級は持ってるから、次はそうなるなって...久遠?」
まさかそんなに沢山受けているとは思わなかった。
私ならきっとそこに辿り着くまでに心が折れてしまうだろう。
(大翔がすごすぎて近づける気がしない...)
「証明書、見る?」
「見てもいいの?」
「汚したりしないだろ?見られて困るものでもないし、持ってくる」
大翔はそう話して、私が入ったことがない奥の部屋から立派なものをふたつ持ってきてくれる。
それは埃ひとつ被っていない、とても綺麗な状態だった。
「すごく掃除しているんだね」
「...毎回兄貴が丁寧に拭いてるのを見かける」
「え、そうなの?」
「実は来る度この部屋に入ってるの、本当は知ってるんだ。
ただありがたくて、俺も時々兄貴の部屋を勝手に掃除することにしてる」
砂が落ちきった瞬間、丁寧にテーブルにサーブされる。
「ちょっとかちゃかちゃいったけど、どうぞ」
「でも、すごく丁寧で見惚れちゃった。ありがとう」
「...!」
大翔はどうしてか顔を真っ赤にして、そのまま俯いてしまう。
「ごめんね、何か失礼なことを、」
「そうじゃなくて、その...素直に嬉しい。ありがとな」
頭をぽんぽんと撫でられて、それが堪らなく心地いい。
この想いを伝えれば困らせてしまうかもしれないけれど、こんな時間も嫌いじゃないと思う自分がいる。
「大翔って本当に努力家だね」
「別にそんなことないと思うけどな...」
「そういうところも好き。でも、あんまりひとりで無理しないでね」
「それは分かってるけど...久遠は時々狡いな」
「本当のことしか言ってないんだけどな...」
湯気が小さくあがるなか、ふたりで向かい合って距離がゼロになる。
こうして近くにいて、愛を分けあえる...この時間も、私にとっては幸せだ。
「ありがとう」
どれが合うだろうかと色々見ていると、なんだかいつもとは違った音がする。
砂時計をひっくり返して時間を正確に測るその姿は、本当のカフェのマスターのようだった。
「大翔が淹れてくれるものはいつも本格的だけど、今日は時間もしっかりやるの?」
「悪い。いつもならフィーリングでやるんだけど、紅茶検定の日が近いから実践した方が覚えられるだろうなって...」
「紅茶検定...そういうものもあるんだね」
テスト勉強をする前から疲れている日が多いとは思っていたけれど、まさか他にも勉強していることがあるからだとは思わなかった。
(バイトで疲れているのかと考えていたけど、本当に努力家だな...)
「今回は上級を受ける予定」
「え、上級!?」
「初級と中級は持ってるから、次はそうなるなって...久遠?」
まさかそんなに沢山受けているとは思わなかった。
私ならきっとそこに辿り着くまでに心が折れてしまうだろう。
(大翔がすごすぎて近づける気がしない...)
「証明書、見る?」
「見てもいいの?」
「汚したりしないだろ?見られて困るものでもないし、持ってくる」
大翔はそう話して、私が入ったことがない奥の部屋から立派なものをふたつ持ってきてくれる。
それは埃ひとつ被っていない、とても綺麗な状態だった。
「すごく掃除しているんだね」
「...毎回兄貴が丁寧に拭いてるのを見かける」
「え、そうなの?」
「実は来る度この部屋に入ってるの、本当は知ってるんだ。
ただありがたくて、俺も時々兄貴の部屋を勝手に掃除することにしてる」
砂が落ちきった瞬間、丁寧にテーブルにサーブされる。
「ちょっとかちゃかちゃいったけど、どうぞ」
「でも、すごく丁寧で見惚れちゃった。ありがとう」
「...!」
大翔はどうしてか顔を真っ赤にして、そのまま俯いてしまう。
「ごめんね、何か失礼なことを、」
「そうじゃなくて、その...素直に嬉しい。ありがとな」
頭をぽんぽんと撫でられて、それが堪らなく心地いい。
この想いを伝えれば困らせてしまうかもしれないけれど、こんな時間も嫌いじゃないと思う自分がいる。
「大翔って本当に努力家だね」
「別にそんなことないと思うけどな...」
「そういうところも好き。でも、あんまりひとりで無理しないでね」
「それは分かってるけど...久遠は時々狡いな」
「本当のことしか言ってないんだけどな...」
湯気が小さくあがるなか、ふたりで向かい合って距離がゼロになる。
こうして近くにいて、愛を分けあえる...この時間も、私にとっては幸せだ。
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