泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣けないver.

学期末 詩音side

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「テスト範囲の用紙、貰ってきておいたわ」
「ありがとうございます」
あれから学校には行ったり行かなかったりの日々が続いている。
行かない日は優翔に勉強を教えてもらいながら、行った日は保健室で自主学習というものが習慣づいていた。
「今日は先生と話をしないか?」
「...!」
「静かに。ここは保健室で、今は体調が悪い生徒が寝ています」
私しかいなくても、養護教諭だけは私を護ってくれた。
成績が悪かったら担任教諭と話をするという条件を毎回突きつけられるものの、小テストだろうが抜き打ちだろうがその点以上をたたき出しているので今は問題がない。
(...でも)
「ごめんなさい、私今日は出張だから鍵を閉めておいてね」
「...いつもすみません」
「いいのよ。困っている生徒を助けるのも教師の仕事だから」
先生がいない日は不安で仕方がない。
そういうときは、決まって休み時間に優翔に連絡をするようにしていた。
『詩音、今日はひとりなの?』
「ごめんなさ、」
『謝らないで。いつも僕の講義がない時間にかけてくれるから、すごく助かってるよ。
それに、僕も連絡を取れるのは楽しいしね』
「優翔...」
心理学の勉強も進めながら、歌詞を作り終わる。
それを優翔に見て貰うのも楽しくて、ふたりで話せる時間だけは安心できた。
(周りに甘えすぎているのかな...)
『どうしたの?』
「なんでもない。そろそろ休み時間が終わるから、また夜連絡してもいい?」
『勿論だよ。またね』
「...うん、また」
養護教諭は毎回、私がお昼いない日は帰ってしまってもいいと言ってくれる。
けれど、そこまでやってもらうのは申し訳なくて...そのまま残らせてもらうようにしているのだ。
今はこれが私のせいいっぱいだけれど、4月からは教室に行けるだろうか。
...そんなことを思っていた自分が甘かった。
「来年度のクラスが変わらない...?」
「そうらしいの。2年生から3年生に上がるとき、普通クラスは文転や理転しない限りはそのままにって...大丈夫?」
頷くのがせいいっぱいだった。
いつもならクラス替えがあるからと思っていた矢先、その希望は粉々になる。
「...それから、ここだけの話なんだけどね」
そこからの話は予想はしていたことだった。
けれど、それなら4月からは本当にひとりで戦わなければならなくなる。
みんなに迷惑をかけて、心配させて...限界を感じた。
(...ごめんなさい、やっぱり無理みたい)


──もうすぐ桜が咲こうとしているとき、私はある決意を固めた。
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