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泣かないver.
お誘い
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孤食の寂しさは俺にも理解できる。
久遠と俺では状況が違うわけだが、それでもやはり独りで食べるものというのは味気ないし...だんだんどうでもよくなってしまうものだ。
「ご飯、独りが多いのか?」
「お母さんがお仕事の日は朝御飯を一緒に食べられればいい方で、あとは独りで食べてるんだ。
夜も帰れない日...というより、帰らない日が多いから」
今のはどういう意味だろう。
誰かいい相手ができて、ということだろうか。
あの人に限って久遠を傷つけるようなことはしないはずだ。
...だが、言えないようなことをしているのかと少し疑ってしまう。
「真剣に考えてくれるのは嬉しいけど、今は楽しくご飯を食べたいな」
「悪い、そうだな」
当然納得したわけではないが、久遠が言うことも一理ある。
それに、今度は俺の話をする番だ。
「...久遠、明後日は何か予定あるか?」
「ううん、特に何もないけど...」
「それじゃあこれ、一緒に行かないか?」
チケットをひらひらさせると、久遠は不安そうな表情で箸を止める。
「私、人が沢山いる場所は...」
「兄貴が教えてくれたんだ。ここは穴場だから、人もそんなに来ないって。
本当は詩音さんと行きたかったんだろうけど、やっぱりなかなか難しいみたいでチケットをくれた」
「大翔は行きたい?」
「俺よりも久遠がどうしたいのか知りたい」
外に出るのは嫌いではないし、それが大切な恋人となら尚更だ。
だが、出掛けること自体に抵抗がある久遠は違う。
想像することしかできないが、人に対して敏感すぎるというのはとても苦労することだろうというのは理解できる。
何度も体調を崩すところも見てきているからこそ、無理強いはしたくない。
もし俺が行きたいと言えば、断れなくなってしまうだろう。
...だったら意見を尊重するべきだ。
「私は、出掛けると迷惑をかけてしまうかもしれない。
そう思うと、怖くて震えが止まらない...」
ただ黙って言葉を待つ。
久遠は覚悟を決めたように一息に告げた。
「でも、大翔となら行ってみたい。デートしたい」
「なら決まりだな。当日は迎えに行く」
「...ありがとう」
「礼を言われるようなことは何もしてない」
俺はただ久遠と過ごしたかった、とは恥ずかしくて言えなかった。
ただ、最近近場に出掛けることはあってもデートらしいデートができていなかったので楽しみで仕方ない。
「風呂、沸かしてあるからもう少ししたら先に入って」
「でも後片づけが、」
「これだけ美味いものを作ってもらったんだ、片づけは俺にやらせてくれ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて...」
ほっとした様子でソファーに座る久遠を見ていると微笑ましくなる。
何枚か洗い終わる頃、浴室に向かう彼女の後ろ姿は少しだけ楽しそうに見えた。
久遠と俺では状況が違うわけだが、それでもやはり独りで食べるものというのは味気ないし...だんだんどうでもよくなってしまうものだ。
「ご飯、独りが多いのか?」
「お母さんがお仕事の日は朝御飯を一緒に食べられればいい方で、あとは独りで食べてるんだ。
夜も帰れない日...というより、帰らない日が多いから」
今のはどういう意味だろう。
誰かいい相手ができて、ということだろうか。
あの人に限って久遠を傷つけるようなことはしないはずだ。
...だが、言えないようなことをしているのかと少し疑ってしまう。
「真剣に考えてくれるのは嬉しいけど、今は楽しくご飯を食べたいな」
「悪い、そうだな」
当然納得したわけではないが、久遠が言うことも一理ある。
それに、今度は俺の話をする番だ。
「...久遠、明後日は何か予定あるか?」
「ううん、特に何もないけど...」
「それじゃあこれ、一緒に行かないか?」
チケットをひらひらさせると、久遠は不安そうな表情で箸を止める。
「私、人が沢山いる場所は...」
「兄貴が教えてくれたんだ。ここは穴場だから、人もそんなに来ないって。
本当は詩音さんと行きたかったんだろうけど、やっぱりなかなか難しいみたいでチケットをくれた」
「大翔は行きたい?」
「俺よりも久遠がどうしたいのか知りたい」
外に出るのは嫌いではないし、それが大切な恋人となら尚更だ。
だが、出掛けること自体に抵抗がある久遠は違う。
想像することしかできないが、人に対して敏感すぎるというのはとても苦労することだろうというのは理解できる。
何度も体調を崩すところも見てきているからこそ、無理強いはしたくない。
もし俺が行きたいと言えば、断れなくなってしまうだろう。
...だったら意見を尊重するべきだ。
「私は、出掛けると迷惑をかけてしまうかもしれない。
そう思うと、怖くて震えが止まらない...」
ただ黙って言葉を待つ。
久遠は覚悟を決めたように一息に告げた。
「でも、大翔となら行ってみたい。デートしたい」
「なら決まりだな。当日は迎えに行く」
「...ありがとう」
「礼を言われるようなことは何もしてない」
俺はただ久遠と過ごしたかった、とは恥ずかしくて言えなかった。
ただ、最近近場に出掛けることはあってもデートらしいデートができていなかったので楽しみで仕方ない。
「風呂、沸かしてあるからもう少ししたら先に入って」
「でも後片づけが、」
「これだけ美味いものを作ってもらったんだ、片づけは俺にやらせてくれ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて...」
ほっとした様子でソファーに座る久遠を見ていると微笑ましくなる。
何枚か洗い終わる頃、浴室に向かう彼女の後ろ姿は少しだけ楽しそうに見えた。
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