泣けない、泣かない。

黒蝶

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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)

バレンタインの予定は-優翔×大翔-

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「兄貴、ちょっと相談があるんだけど...」
「どうしたの?」
何日かかけて教えてもらい漸く解き終わった数学の教材を片づけながら、然り気無く相談というワードを出してみる。
いつもそうだが、そういうときに兄貴は作業の手を止めて話を聞いてくれるのだ。
「あんまり人が来ないデートスポットを探してるんだけど、どこか知らない?」
「そうだな...実はここに遊園地のチケットなら2枚あるんだけど、行ってみるつもりはない?」
ひらひらと見せてくれたのは、なかなか手に入れることができないものだった。
「立地的に人がものすごく集まるわけではないだろうし、もし行くならこれをあげる」
「でもそれ、詩音さんと使う予定だったんじゃないのか?」
そう訊いてみると、兄貴は苦笑しながら答えてくれた。
「これは、大学の知り合いがくれたんだ。...チケットが余ったからあげるって。
でも、僕たちの過ごし方はもう決まっているからこのままだと勿体無いって思っていたところなんだよ」
「本当にいいのか...?」
「久遠さんと一緒に行っておいでよ」
兄貴は本気のようだった。
詩音さんにだってきっと色々な事情が複雑に絡みあっている。
このまま言い合ってしまうのはよくないと判断し、ありがたくもらうことにした。
「兄貴たちはここで過ごすのか?」
「そのつもりだよ。...もうバレンタインは終わっちゃったも同然だしね」
「どういうことだ?」
チョコレートをもらったという話と、それがものすごく美味しかったという話を聞かせてもらう。
「そっか、のろけるくらい楽しかったのか」
「違、そんなつもりじゃない...」
顔を真っ赤にする兄貴をからかうのは少し楽しい。
明るく接してくれるのはありがたいが、何かあったのかいつもと様子が違うように見える。
「...兄貴」
「バレンタインは、大翔がやりたいことをやって過ごすのが1番だと思うよ」
「ありがとな。それより、何か悩みごとか?」
「どうして急にそんなことを訊いてくるの?」
「元気がないから」
兄貴はいつも1人で抱えこんでしまう。
それでも俺の話を聞いてくれたり、問題を解決する為に動いてくれたり...ありがたいが心配だ。
「少し疲れているだけだから大丈夫だよ」
「...そっか」
こういうときは俺ではない誰かが絡んでいて、話していいか分からないときの反応だ。
結局、深く訊くことはできない。
「それじゃあ、チョコレートのリクエストは?」
「大翔が作ってくれるものなら何でも。大翔は何かないの?」
「そうだな、俺は...」
他愛のない会話をしていると、兄貴は少しだけ元気になったような気がする。
...気がするだけかもしれないが、今はそれでいい。

──この女子会のような会話が夜まで続いたことは、ふたりだけの秘密だ。
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