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泣けないver.
想定外
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荷物をまとめて足早に去ろうとすると、後ろから声をかけられる。
「小野、ちょっとだけ手伝ってもらえないか?」
「先生...」
講義終わり、資料の整理の手伝いを頼まれてしまう。
最近いつも断っていたこともあり、引き受けることにした。
それに、詩音の学校終わりの時間までまだまだある。
「悪いな、手伝ってもらって」
「いえ、大丈夫です」
時間潰しと余計なことを考えないという意味では丁度いい。
「終わりました」
「ありがとう。本当に助かったよ」
僕はサークル活動をしていない。
人と関わっている場合ではないからということと、人と関わっていくのが苦手だということ...。
それから、勉強に集中したかったからというのでどうしても入りたくなかった。
卒業の為に必要なものを仕上げていると、大翔から連絡が入る。
《兄貴、明後日家にいる?》
《特に予定もないからいるよ。何か用事?》
《数学で分からないところがあって...》
勉強をみる約束をしながらも、時間が気になって仕方がない。
つい急ぎがちに車をはしらせ、あっという間に学校近くに着いてしまう。
少し早かった...その程度の認識で会いたい気持ちを誤魔化すように珈琲を飲んだり読書をしたり、課題をすすめたりしてみる。
漸く周りが気にならなくなってきたのは、空の色が変わりはじめた頃だった。
「...よし、終わった」
あれからどのくらい時間が経っただろう。
空はとっくに茜色に染まっているのに、何故か詩音が現れない。
几帳面な彼女のことだから、もし歩いて下校しているなら連絡がくるはずだ。
「え...?」
そんな間抜けな声が漏れてしまうほど、目の前から足をひきずるようにしてやってきた詩音は酷い姿だった。
びしょ濡れの髪、傷だらけの足、ボロボロの鞄...何かを握りしめたままこちらへと歩いてくる。
「優翔、私、汚、」
「ごめん。タオルはこういうのしか持ってないけど、取り敢えず乗って」
何があったのか詳しく聞くのは今じゃなくてもいい。
とにかく早くしないと風邪をひいてしまうだろう。
「優翔、そっちじゃ、」
「僕の家の方が近いからそっちに行こう。大丈夫だよ、周りの人たちに見つからないようにする最適の方法があるから」
本当なら詩音が元気そうなときに教えたかった。
だが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。
とにかく温まってゆっくり休んでほしい...そう思いながら鍵が壊れている裏口からふたりで入った。
「お風呂はすぐ沸かすから、ちょっとだけ待っててね」
詩音は小さく頷くだけで、それ以上言葉が返ってこない。
空はもう、何もかもを呑みこんでしまいそうなほどの闇一色に染まっていた。
「小野、ちょっとだけ手伝ってもらえないか?」
「先生...」
講義終わり、資料の整理の手伝いを頼まれてしまう。
最近いつも断っていたこともあり、引き受けることにした。
それに、詩音の学校終わりの時間までまだまだある。
「悪いな、手伝ってもらって」
「いえ、大丈夫です」
時間潰しと余計なことを考えないという意味では丁度いい。
「終わりました」
「ありがとう。本当に助かったよ」
僕はサークル活動をしていない。
人と関わっている場合ではないからということと、人と関わっていくのが苦手だということ...。
それから、勉強に集中したかったからというのでどうしても入りたくなかった。
卒業の為に必要なものを仕上げていると、大翔から連絡が入る。
《兄貴、明後日家にいる?》
《特に予定もないからいるよ。何か用事?》
《数学で分からないところがあって...》
勉強をみる約束をしながらも、時間が気になって仕方がない。
つい急ぎがちに車をはしらせ、あっという間に学校近くに着いてしまう。
少し早かった...その程度の認識で会いたい気持ちを誤魔化すように珈琲を飲んだり読書をしたり、課題をすすめたりしてみる。
漸く周りが気にならなくなってきたのは、空の色が変わりはじめた頃だった。
「...よし、終わった」
あれからどのくらい時間が経っただろう。
空はとっくに茜色に染まっているのに、何故か詩音が現れない。
几帳面な彼女のことだから、もし歩いて下校しているなら連絡がくるはずだ。
「え...?」
そんな間抜けな声が漏れてしまうほど、目の前から足をひきずるようにしてやってきた詩音は酷い姿だった。
びしょ濡れの髪、傷だらけの足、ボロボロの鞄...何かを握りしめたままこちらへと歩いてくる。
「優翔、私、汚、」
「ごめん。タオルはこういうのしか持ってないけど、取り敢えず乗って」
何があったのか詳しく聞くのは今じゃなくてもいい。
とにかく早くしないと風邪をひいてしまうだろう。
「優翔、そっちじゃ、」
「僕の家の方が近いからそっちに行こう。大丈夫だよ、周りの人たちに見つからないようにする最適の方法があるから」
本当なら詩音が元気そうなときに教えたかった。
だが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。
とにかく温まってゆっくり休んでほしい...そう思いながら鍵が壊れている裏口からふたりで入った。
「お風呂はすぐ沸かすから、ちょっとだけ待っててね」
詩音は小さく頷くだけで、それ以上言葉が返ってこない。
空はもう、何もかもを呑みこんでしまいそうなほどの闇一色に染まっていた。
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