泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

彼の覚悟、私の決意

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叶えられたとしても伝えられない夢...それはあまりにも寂しくて、あまりにも哀しい。
私は一声かけるのがやっとだった。
「...大翔」
「ごめん、かっこ悪いよな」
「そんなことない!」
大翔は私が思った以上に大きなものを背負っている。
私にできることは本当に少ない。
それでも、今の言葉は否定するべきだ。
「必死に頑張っている人がかっこ悪いわけがない」
思いを貫くのは大変で、それがとても難しいことだと知っている。
どうして大翔はいつも強いのか、きちんと分かっていなかった。
もっとしっかり話を聞くべきだったのかもしれない。
(いつも助けてもらってばかりじゃいられない)
「なりたいものの為に頑張れる人ははすごいんだよ」
「俺は何も、すごいことなんか、」
「『本当にすごいことをしている人は、自分のことをすごいって思ってない』...前に大翔が私に言ってたことだよ」
「...!」
物書きになりたいと初めて打ち明けたとき、背中を押してくれたのは大翔だった。
『それだけの文章を書き続けてるなんて、すごいな』
『そんなことないよ。...私はただ、自分にできることをやっているだけ』
『本当にすごい奴は自分のことをすごいだなんて思ってない。...久遠が頑張ってる証拠だな』
「どれだけ心が折れそうになっても、大翔はいつも励ましてくれた。
あの言葉があったから、私は今でも書いていられるんだよ」
大翔はゆっくり立ちあがると、震える手で私を抱きしめた。
「...俺は、すごいのか?」
「すごいよ。大翔は頑張ってる」
「ちょっとかっこ悪いから、しばらくこうさせて」
大翔の全部を抱きしめたくて、私はその背中に腕を回した。
打ちつけるような雨が降ってきたけれど、そんなことよりも今は彼を支えたい。
このまま不安を全部流してはくれないだろうか...。
(ううん、私が不安を打ち消してあげたい)
帰りのバスがくるまでに、今のこの気持ちを伝えたい。
「大翔」
「どうした?」
大きく息を吸って、一気に告げた。
「...私、絶対に物書きになる。それから、大翔のお手伝いができるようにもっと料理の練習をする。
だから...その夢、ふたりで一緒に叶えよう」
「...いいのか?」
「ひとりで難しいことは、ふたりでやればきっとできるよ」
「そうだな。そうかもな...」
そこまで話してバスがきたけれど、体がびしょ濡れになっているのをすっかり忘れていた。
それでも乗せてもらえて、なんとか帰路につく。
「久遠、もう少し時間あるか?」
「...?うん、特に急ぎの用事がある訳じゃないから全然大丈夫だよ」
「ここからならうちの方が近いから、よかったら寄っていかないか?」
「大翔がいいなら遠慮なくお邪魔します」
やっと笑ってくれた大翔を見てほっとしながら、これからやっていくことの決意を固める。
たとえどんな道になったとしても、ふたりでならきっと大丈夫だ。

──大翔の笑顔は、私が護る。
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