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泣かないver.
夕暮れ時のデート
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「大丈夫か?」
「うん。もう少しだし...頑張る」
空で夕陽が輝く頃、俺たちは約束したとおり噂になっているクレープを食べにきた。
行列ができるほど人気とは聞いていたが、予想以上の人の波に圧倒されながらとにかく進む。
「着いたぞ。どれ食べたい?」
「苺とチョコがのってるのがいいな...」
「すみません、チョコレートパフェと苺チョコパフェをください」
大量の人にあてられてしまったのか、久遠はふらふらだった。
周囲に目をやると、席は端の方が何とかひとつ空いている状態だ。
「...歩けるか?」
「大、丈夫。えっとどっちに行けば...」
もう既にふらふらになっている久遠の腕をひき、店の外に連れ出す。
そして、誰も通ってこないであろう狭い路地に誘った。
「ちょっと休んだら朝の公園に行ってみよう」
「ごめんね...」
「気にしなくていい。...あれだけ大量の人間の思いを見ていれば疲れるだろ。
悪いけどクレープを頼む」
「大翔...?」
誰も来ないような道とはいえ、表の通りは人で溢れている。
このままではもっと酷くなってしまうのは時間の問題だと考えた俺は、久遠の体を横抱きにした。
「このまま裏道を突っ切る」
「分かった、信じる」
こんなに安心したように言われたら頑張ろうと思うのは、きっと間違っていない。
なんとか久遠が傷つかない場所に連れて行きたかった。
折角今日を楽しんでいたのに、最後の最後で苦しい思いをするのは誰だって嫌だろうから。
「ここならもう平気か?」
「...」
真っ青な顔が縦にふられるのを見て少しだけほっとする。
「飲み物買ったから、これ飲みながら一緒に食べよう」
「迷惑をかけて、本当にごめん」
「気にしなくていい。...予想外の人の数だったからな」
少しずつ落ち着いてきた久遠にぬるくなってしまった紅茶を渡しながら、一口頬張ってみる。
シンプルなのに甘くて少しほろ苦いこの味は、一体どうやって出しているのだろうか。
「大翔、目が完全にレシピ研究の人だね」
「悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど、どうやったらこの味が出せるのかつい考えこんだ。
...一口食べてみるか?」
「う、うん」
何故か恥ずかしそうにしながら一口食べた久遠は、美味しいと目を輝かせた。
「わ、私のもどうぞ」
「ありがとな。...ん、苺とチョコレートのバランス、が...」
そこまで言ってようやく照れていた理由に気づく。
...まさかこんなときに間接キスになるなんて、どんな表情をするのが正解か分からなかった。
「大翔」
「どうした?」
「今日はありがとう。本当に楽しかったよ」
「俺の方こそ、付き合わせて悪かった。次はこんでない時間帯を調べておくから、また一緒に行こう」
優しい瞳で頷く彼女の目には、沈みゆく夕陽がうつっている。
俺の瞳にも同じものがうつっていると思うと、なんだか少し照れくさかった。
「うん。もう少しだし...頑張る」
空で夕陽が輝く頃、俺たちは約束したとおり噂になっているクレープを食べにきた。
行列ができるほど人気とは聞いていたが、予想以上の人の波に圧倒されながらとにかく進む。
「着いたぞ。どれ食べたい?」
「苺とチョコがのってるのがいいな...」
「すみません、チョコレートパフェと苺チョコパフェをください」
大量の人にあてられてしまったのか、久遠はふらふらだった。
周囲に目をやると、席は端の方が何とかひとつ空いている状態だ。
「...歩けるか?」
「大、丈夫。えっとどっちに行けば...」
もう既にふらふらになっている久遠の腕をひき、店の外に連れ出す。
そして、誰も通ってこないであろう狭い路地に誘った。
「ちょっと休んだら朝の公園に行ってみよう」
「ごめんね...」
「気にしなくていい。...あれだけ大量の人間の思いを見ていれば疲れるだろ。
悪いけどクレープを頼む」
「大翔...?」
誰も来ないような道とはいえ、表の通りは人で溢れている。
このままではもっと酷くなってしまうのは時間の問題だと考えた俺は、久遠の体を横抱きにした。
「このまま裏道を突っ切る」
「分かった、信じる」
こんなに安心したように言われたら頑張ろうと思うのは、きっと間違っていない。
なんとか久遠が傷つかない場所に連れて行きたかった。
折角今日を楽しんでいたのに、最後の最後で苦しい思いをするのは誰だって嫌だろうから。
「ここならもう平気か?」
「...」
真っ青な顔が縦にふられるのを見て少しだけほっとする。
「飲み物買ったから、これ飲みながら一緒に食べよう」
「迷惑をかけて、本当にごめん」
「気にしなくていい。...予想外の人の数だったからな」
少しずつ落ち着いてきた久遠にぬるくなってしまった紅茶を渡しながら、一口頬張ってみる。
シンプルなのに甘くて少しほろ苦いこの味は、一体どうやって出しているのだろうか。
「大翔、目が完全にレシピ研究の人だね」
「悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど、どうやったらこの味が出せるのかつい考えこんだ。
...一口食べてみるか?」
「う、うん」
何故か恥ずかしそうにしながら一口食べた久遠は、美味しいと目を輝かせた。
「わ、私のもどうぞ」
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そこまで言ってようやく照れていた理由に気づく。
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「大翔」
「どうした?」
「今日はありがとう。本当に楽しかったよ」
「俺の方こそ、付き合わせて悪かった。次はこんでない時間帯を調べておくから、また一緒に行こう」
優しい瞳で頷く彼女の目には、沈みゆく夕陽がうつっている。
俺の瞳にも同じものがうつっていると思うと、なんだか少し照れくさかった。
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