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泣けないver.
彼女の答え
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「おはよう」
「...おはよう」
翌日、僕は少しだけ早めに自分のマンションを出て詩音の家の前で待っていた。
制服なら学校まで、もしそうじゃなかったら...そんなことを考えているとすぐに車の扉が開き、後ろを振り返る。
その服装は、詩音が気に入ってよく着ている黒のトップスにチェックのズボンだった。
「...め、迷惑じゃなかった?」
「ううん、寧ろすごく嬉しいよ。こうやって詩音と出掛けられるの、すごく楽しいだろうなって思っていたから」
「講義は大丈夫なの?」
一気に話しても困惑させるだけだと思い、重要なことを話していなかったに気づく。
「今日は休みなんだ。もうほとんど履修済みで、卒業を待つのみ...みたいな感じだから全然平気だよ」
「そうなんだ...」
それから駅の駐車場を借りて停めさせてもらった後、普段は使わない路線の切符をふたり分購入する。
「この方向って何があるの?」
「詩音がよく読んでる小説の舞台になった場所だよ。特急列車で行けばすぐだし、そろそろ時間だから行こう」
「う、うん...」
静かな興奮を抑えるように頷く詩音を見ていると、思いきって誘ってみてよかったと沁々と感じる。
大人としては大不正解なやり方だと分かっているが、今の僕たちにとっては正解なのだと覚悟を決めた。
「詩音、着いたよ」
「ん...優翔」
まだ寝惚けているのか、周りをきょろきょろと見回している。
「列車の終点で、『真昼の星屑』の舞台になった町に着いたんだよ。降りられる?」
「うん。ちょっとだけ目が覚めたからもう大丈夫」
ふたり揃って降りてみると、そこはいつかにふたりで訪れた場所よりもずっと広い碧が広がっていた。
「これもしておいた方がよさそうだね」
自分のマフラーを詩音に巻くと、恥ずかしそうにしながら小さな声で温かいと返ってきた。
「...ありがとう」
「手、繋ごうか」
これだけで安心できるから不思議だ。
幼い頃は兄弟ふたりでよく手を繋いでいたが、それとはまた別の感覚に陥る。
この感情を、愛しいと呼ぶのかもしれない。
「ここに流れ星がぶつかって、女の子が現れる...そう思うと、本当に小説に入りこんだみたい」
「喜んでもらえたならよかった」
ふたりで話すのはやはり楽しくて、時折すれ違う人々も僕たちのことなんて誰も知らないのだから本当に不思議だ。
「...優翔」
「どうしたの?」
「連れてきてくれてありがとう。いい歌詞が書けそうだし、それに...」
「それに?」
「誰も知らないところで優翔とちゃんと恋人として歩けるのはすごく嬉しい」
詩音は笑っていた。いつもの貼りつけたようなものではなく、心から笑っているような気がする。
久しぶりに見たそれは儚げで、少しだけ元気になっているような印象を受けた。
「...私、今週いっぱい学校に行かない。でも、来週からは保健室にはちゃんと行く」
「それなら、時間があるときに電話しておいで。
僕は明後日の午前中以外なら出られると思うから」
「でも、本当にいいのかな?」
それが正解かと言われれば違うとこ耐えるべきだろう。
だが、決してたださぼっているわけではないのだ。
...それならば、僕にとっての答えを伝えよう。
「詩音の心と体が疲れてるってことだから、いいんじゃないかって僕は思う。
嫌じゃなければ、月曜日は学校の近くまで送るよ」
「ありがとう...」
1度言葉を間違えただけで、ある日突然人がいなくなることだってある。
それを踏まえた上での僕のせいいっぱいの答えを振りかざした。
これは正解ではない。だが、正しい選択だと信じている。
その選択を後押しするように、さざ波が押し寄せてきた。
「...おはよう」
翌日、僕は少しだけ早めに自分のマンションを出て詩音の家の前で待っていた。
制服なら学校まで、もしそうじゃなかったら...そんなことを考えているとすぐに車の扉が開き、後ろを振り返る。
その服装は、詩音が気に入ってよく着ている黒のトップスにチェックのズボンだった。
「...め、迷惑じゃなかった?」
「ううん、寧ろすごく嬉しいよ。こうやって詩音と出掛けられるの、すごく楽しいだろうなって思っていたから」
「講義は大丈夫なの?」
一気に話しても困惑させるだけだと思い、重要なことを話していなかったに気づく。
「今日は休みなんだ。もうほとんど履修済みで、卒業を待つのみ...みたいな感じだから全然平気だよ」
「そうなんだ...」
それから駅の駐車場を借りて停めさせてもらった後、普段は使わない路線の切符をふたり分購入する。
「この方向って何があるの?」
「詩音がよく読んでる小説の舞台になった場所だよ。特急列車で行けばすぐだし、そろそろ時間だから行こう」
「う、うん...」
静かな興奮を抑えるように頷く詩音を見ていると、思いきって誘ってみてよかったと沁々と感じる。
大人としては大不正解なやり方だと分かっているが、今の僕たちにとっては正解なのだと覚悟を決めた。
「詩音、着いたよ」
「ん...優翔」
まだ寝惚けているのか、周りをきょろきょろと見回している。
「列車の終点で、『真昼の星屑』の舞台になった町に着いたんだよ。降りられる?」
「うん。ちょっとだけ目が覚めたからもう大丈夫」
ふたり揃って降りてみると、そこはいつかにふたりで訪れた場所よりもずっと広い碧が広がっていた。
「これもしておいた方がよさそうだね」
自分のマフラーを詩音に巻くと、恥ずかしそうにしながら小さな声で温かいと返ってきた。
「...ありがとう」
「手、繋ごうか」
これだけで安心できるから不思議だ。
幼い頃は兄弟ふたりでよく手を繋いでいたが、それとはまた別の感覚に陥る。
この感情を、愛しいと呼ぶのかもしれない。
「ここに流れ星がぶつかって、女の子が現れる...そう思うと、本当に小説に入りこんだみたい」
「喜んでもらえたならよかった」
ふたりで話すのはやはり楽しくて、時折すれ違う人々も僕たちのことなんて誰も知らないのだから本当に不思議だ。
「...優翔」
「どうしたの?」
「連れてきてくれてありがとう。いい歌詞が書けそうだし、それに...」
「それに?」
「誰も知らないところで優翔とちゃんと恋人として歩けるのはすごく嬉しい」
詩音は笑っていた。いつもの貼りつけたようなものではなく、心から笑っているような気がする。
久しぶりに見たそれは儚げで、少しだけ元気になっているような印象を受けた。
「...私、今週いっぱい学校に行かない。でも、来週からは保健室にはちゃんと行く」
「それなら、時間があるときに電話しておいで。
僕は明後日の午前中以外なら出られると思うから」
「でも、本当にいいのかな?」
それが正解かと言われれば違うとこ耐えるべきだろう。
だが、決してたださぼっているわけではないのだ。
...それならば、僕にとっての答えを伝えよう。
「詩音の心と体が疲れてるってことだから、いいんじゃないかって僕は思う。
嫌じゃなければ、月曜日は学校の近くまで送るよ」
「ありがとう...」
1度言葉を間違えただけで、ある日突然人がいなくなることだってある。
それを踏まえた上での僕のせいいっぱいの答えを振りかざした。
これは正解ではない。だが、正しい選択だと信じている。
その選択を後押しするように、さざ波が押し寄せてきた。
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