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泣けないver.
来てしまった日 詩音side
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朝起きてみると、体が重い。
それでも行かないわけにはいかないから、何とか支度を済ませる。
「...いってきます」
その日、私の足はとても重かった。
学校と呼ばれるその場所に、もう優翔はいない。
そう思うと行く意味なんてないと感じた。
周りが喧しくしているのを聞きながら、誰にも見られないように保健室へと入る。
「...失礼します」
「おはよう。顔色悪いけど大丈夫?」
私が頷くと横にならせてくれた。
「内鍵、忘れずに閉めておいてね」
「...ごめんなさい」
「いいのよ、だってここは、」
瞬間、物凄い勢いで扉が開かれる。
入ってきた人物の顔を見てみると、担任教師で間違いなかった。
「なんで教室に来ないんだ?ここは勉強をする為の場所なのに、何の為に来ている?」
「...ちょっと先生、もう少し言い方を考えて、」
「さぼりに来ているのなら学校を辞めなさい。それともこれから教室に来るか?」
...やっぱり大人はこうなんだ。
自分はごくごく普通に育ってきたか、嫌がらせをする方だったのだろう。
そんな人間に分かるはずがない。
生きていたって意味がない、やっぱり私なんかいなくならなければ...そう思っていると、保健室の主の怒鳴り声が聞こえた。
「いい加減にしてください!彼女はたださぼっている訳ではありません。何も話も聞かないで自分の評価ばかり気にするのは、人間失格です。
あなたみたいな生徒のことを一切考えない教師がいるから、自ら命を捨ててしまう生徒が出てしまうの。...3年前だってそうだった」
3年前、この学校で何があったのだろうか。
ただ、彼女の瞳は真っ直ぐ氷のように担任を射抜く。
「私は彼女がさぼりたいからここに来ているのなら注意して行かせます。
でも、そうではないことは明白でしょう?...今日のことは校長先生と教育委員会に報告させていただきます」
「待ってください、それは、」
「私決めましたから」
担任は悔しそうにその場を後にする。
その後ろ姿を呆然と見送っていると、保健室の主は笑顔で話し掛けてくれた。
「...またああいうのが来たら嫌な思いをするから、そのまま鍵は絶対に閉めておいて。
大丈夫よ、だってここは具合が悪い人がいていい場所なんだから。心が弱り果てているなか、よく頑張りました」
「ありがとう、ございます...」
その言葉に少し驚きながら、私は主を見送る。
その姿が頼もしくて、手には真新しいお守りを握りしめたまま泣いてしまった。
『もし寂しくなったらすぐ連絡して』
「無理だよ...」
初日からこの調子では、やっていけそうにない。
外の雨は本降りになって、それは私の心そのものだった。
それでも行かないわけにはいかないから、何とか支度を済ませる。
「...いってきます」
その日、私の足はとても重かった。
学校と呼ばれるその場所に、もう優翔はいない。
そう思うと行く意味なんてないと感じた。
周りが喧しくしているのを聞きながら、誰にも見られないように保健室へと入る。
「...失礼します」
「おはよう。顔色悪いけど大丈夫?」
私が頷くと横にならせてくれた。
「内鍵、忘れずに閉めておいてね」
「...ごめんなさい」
「いいのよ、だってここは、」
瞬間、物凄い勢いで扉が開かれる。
入ってきた人物の顔を見てみると、担任教師で間違いなかった。
「なんで教室に来ないんだ?ここは勉強をする為の場所なのに、何の為に来ている?」
「...ちょっと先生、もう少し言い方を考えて、」
「さぼりに来ているのなら学校を辞めなさい。それともこれから教室に来るか?」
...やっぱり大人はこうなんだ。
自分はごくごく普通に育ってきたか、嫌がらせをする方だったのだろう。
そんな人間に分かるはずがない。
生きていたって意味がない、やっぱり私なんかいなくならなければ...そう思っていると、保健室の主の怒鳴り声が聞こえた。
「いい加減にしてください!彼女はたださぼっている訳ではありません。何も話も聞かないで自分の評価ばかり気にするのは、人間失格です。
あなたみたいな生徒のことを一切考えない教師がいるから、自ら命を捨ててしまう生徒が出てしまうの。...3年前だってそうだった」
3年前、この学校で何があったのだろうか。
ただ、彼女の瞳は真っ直ぐ氷のように担任を射抜く。
「私は彼女がさぼりたいからここに来ているのなら注意して行かせます。
でも、そうではないことは明白でしょう?...今日のことは校長先生と教育委員会に報告させていただきます」
「待ってください、それは、」
「私決めましたから」
担任は悔しそうにその場を後にする。
その後ろ姿を呆然と見送っていると、保健室の主は笑顔で話し掛けてくれた。
「...またああいうのが来たら嫌な思いをするから、そのまま鍵は絶対に閉めておいて。
大丈夫よ、だってここは具合が悪い人がいていい場所なんだから。心が弱り果てているなか、よく頑張りました」
「ありがとう、ございます...」
その言葉に少し驚きながら、私は主を見送る。
その姿が頼もしくて、手には真新しいお守りを握りしめたまま泣いてしまった。
『もし寂しくなったらすぐ連絡して』
「無理だよ...」
初日からこの調子では、やっていけそうにない。
外の雨は本降りになって、それは私の心そのものだった。
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