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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)
仲良し兄弟-優翔×大翔-
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「兄貴、どうしてもこの問題が解けないんだけど...」
「もうちょっとだけ待ってて。...よし、お待たせ。どの問題?」
夕暮れ時、大翔はバイト帰りのへとへとな状態で部屋にやってきた。
何があったのかと思っていると、どうやら数学のレポートが終わらなかったらしい。
さっぱり分からないと絶望しきった表情だった弟を帰すわけにはいかず、詩音に渡すお守りを作りながら勉強を教えることにしたのだった。
「兄貴、数学の先生にもなれそうだよな」
「専門知識が足りないと思うよ、苦手分野もあるし...」
「さっきから何作ってるんだ?」
「...笑わない?」
縫い目が雑なそれをあまり見られたくなくて、ついそんな言葉を返してしまう。
大翔は黙って頷くと、僕の手元をじっと見つめた。
「お守りって作れるものだったんだな。...そういう優しいところ、兄貴らしい」
「大翔に比べたら全然下手だよ...。手先が器用なわけでもないし」
「でも、こういうのって1番大事なのは気持ちだろ?」
その言葉にはっとした。
見た目重視で作っていたものの、はじめは想いが伝わればいいと考えていたはずだ。
だが、今はどうだろう。
「大事なことを思い出せたよ。ありがとう」
「俺は別に何もしてないから」
人の心を救いあげることができる大翔は僕の誇りだ。
本人には言えないが、誰相手にだって自慢できる最高の弟だといつも思っている。
「もう遅いし、今日は泊まっていきなよ」
「そうさせてもらえると助かる」
疲労の色が消えない弟は、物鬱げな表情で筆記用具を静かに置く。
そして、昔のように少しだけ甘えるような仕草を見せてきた。
兄としてはそれが嬉しいが、余程のことがなければこうはならない。
「食べたいもののリクエストは?今日は何でも作ってあげる」
「...焼き刺身」
「あれは通常残り物でやるんだけど...いいよ」
焼き刺身とは、ある時期から時々作っている前日残った刺身をフライパンで焼くというシンプルなものだ。
昔から好きだったのは知っているが、やはりそれだけ何か落ちこんでいるのだろう。
「他には?」
「兄貴が作ったものは全部美味しいから...」
「...大翔?」
ふと目をやると、すやすやと眠りはじめていた。
...どうやら甘えてきたのは眠かったかららしい。
「何があったか知らないけど、起きたらご飯にしよう」
それだけ話した後、起こさないようにブランケットをかけた。
刺身をフライパンに並べながら、ぐっすり眠っている大翔を見つめる。
人間、根本的な部分は変わらないのかもしれない...そんなことを思いながら、いつもは頼もしく見える姿を目に焼きつけた。
──起きた瞬間、ものすごい勢いで謝り倒されたのは、また別の話だ。
「もうちょっとだけ待ってて。...よし、お待たせ。どの問題?」
夕暮れ時、大翔はバイト帰りのへとへとな状態で部屋にやってきた。
何があったのかと思っていると、どうやら数学のレポートが終わらなかったらしい。
さっぱり分からないと絶望しきった表情だった弟を帰すわけにはいかず、詩音に渡すお守りを作りながら勉強を教えることにしたのだった。
「兄貴、数学の先生にもなれそうだよな」
「専門知識が足りないと思うよ、苦手分野もあるし...」
「さっきから何作ってるんだ?」
「...笑わない?」
縫い目が雑なそれをあまり見られたくなくて、ついそんな言葉を返してしまう。
大翔は黙って頷くと、僕の手元をじっと見つめた。
「お守りって作れるものだったんだな。...そういう優しいところ、兄貴らしい」
「大翔に比べたら全然下手だよ...。手先が器用なわけでもないし」
「でも、こういうのって1番大事なのは気持ちだろ?」
その言葉にはっとした。
見た目重視で作っていたものの、はじめは想いが伝わればいいと考えていたはずだ。
だが、今はどうだろう。
「大事なことを思い出せたよ。ありがとう」
「俺は別に何もしてないから」
人の心を救いあげることができる大翔は僕の誇りだ。
本人には言えないが、誰相手にだって自慢できる最高の弟だといつも思っている。
「もう遅いし、今日は泊まっていきなよ」
「そうさせてもらえると助かる」
疲労の色が消えない弟は、物鬱げな表情で筆記用具を静かに置く。
そして、昔のように少しだけ甘えるような仕草を見せてきた。
兄としてはそれが嬉しいが、余程のことがなければこうはならない。
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「...焼き刺身」
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昔から好きだったのは知っているが、やはりそれだけ何か落ちこんでいるのだろう。
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...どうやら甘えてきたのは眠かったかららしい。
「何があったか知らないけど、起きたらご飯にしよう」
それだけ話した後、起こさないようにブランケットをかけた。
刺身をフライパンに並べながら、ぐっすり眠っている大翔を見つめる。
人間、根本的な部分は変わらないのかもしれない...そんなことを思いながら、いつもは頼もしく見える姿を目に焼きつけた。
──起きた瞬間、ものすごい勢いで謝り倒されたのは、また別の話だ。
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