143 / 156
クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)
みんなの年越し-詩音side-
しおりを挟む
夜、優翔から連絡が入る。
「テレビ電話...」
私は独り、いつもどおりに過ごしていた。
歌詞を考えて、つけられそうなものには曲をつけて...。
特別なことをするわけではない私は、ふたつ返事でやろうと返した。
けれど、久遠はどうだろう。
彼女はきっと一般的な家庭で、あの優しいお母さんと過ごしているはずだ。
それを邪魔してしまうのではないか...そう思う。
『詩音、返信早かったね。勢いでかけちゃったけど大丈夫だった?』
「何もしてなかったから...。優翔たちは何をしているの?」
『年越し蕎麦作り』
後ろから大翔君が呼ぶ声もして、ふたりの仲のよさが伝わってきた。
「いいなあ...」
『今何か言った?』
「ううん、何も言ってないよ」
兄弟の時間を邪魔してしまってもいいのかと考えていると、大翔君に遠慮なんか要らないと声をかけられる。
『俺たちはいつもこうやって過ごしてるから、別に邪魔とか思わないし...詩音さんの邪魔にならないならこのままでいい』
『そうだよ、遠慮なんかしないで』
「あ、ありがとう...」
その瞬間、メッセージが飛びこんでくる。
「...久遠、年のぎりぎりになったらかけてくるって」
『あいつには母親との時間が必要だろうからな』
「そうだね」
本当に独りなのは私だけ...。
慣れているはずなのに、何故か哀しくなってくる。
『...兄貴』
『どうかしたの?』
『買い忘れがあったからちょっと出てくる』
大翔君が気を遣ってくれたことはすぐに分かった。
けれど、私にできることなんて何もないのだ。...情けないことに。
「大翔君に悪いことしちゃった」
『あいつはそんなこと考えないと思うよ。でも、僕からも後で感謝を伝えておく』
「...うん」
『今まで踏みこんで訊かなかったけど...詩音って1人で暮らしてるの?』
「どうしてそれを...」
そこまで言ってはっとしたけれどもう遅い。
秘密にしておくつもりだったのに、どこでバレてしまったのだろう。
『いつも寂しそうにしてるから、もしかしたらって思ったんだ。
金銭的な面は遺族年金とかあるから、それで暮らしてるのかなって...』
「...そうだよ。だから、毎年年越しは独りだった。寂しいけど、誰かに話して困らせたくなかった」
涙で滲んで画面が見えなくなってくる。
「新しい人たちのことは全然知らないし、私はこの家を護りたい」
こんなことを話せば嫌われてしまう、そう思うのに言葉は止まってくれない。
「...嫌いになった?」
『そんなことない。今までちゃんと聞かなくてごめん。詳しい話はまた来年になっちゃうんだろうけど、来年も一緒に過ごそう。
それから...僕にもっと甘えて、困らせて。もっと欲張っていいんだよ』
「優翔...」
涙が零れて止まらない。
そんな様子を、優翔は何も言わずにただじっと見つめていた。
その温かさが今はとてもありがたい。
『大翔が帰ってくる前に言わせて。...愛してる』
「うん、私も...」
──愛してる、その一言でこんなにも幸せな気持ちになれるなんて思っていなかった。
いつまでもふたりで歩いていく為に、きちんと私の話をしよう。
1年の終わりが迫るなか、来年の目標が自然と決まったのだった。
「テレビ電話...」
私は独り、いつもどおりに過ごしていた。
歌詞を考えて、つけられそうなものには曲をつけて...。
特別なことをするわけではない私は、ふたつ返事でやろうと返した。
けれど、久遠はどうだろう。
彼女はきっと一般的な家庭で、あの優しいお母さんと過ごしているはずだ。
それを邪魔してしまうのではないか...そう思う。
『詩音、返信早かったね。勢いでかけちゃったけど大丈夫だった?』
「何もしてなかったから...。優翔たちは何をしているの?」
『年越し蕎麦作り』
後ろから大翔君が呼ぶ声もして、ふたりの仲のよさが伝わってきた。
「いいなあ...」
『今何か言った?』
「ううん、何も言ってないよ」
兄弟の時間を邪魔してしまってもいいのかと考えていると、大翔君に遠慮なんか要らないと声をかけられる。
『俺たちはいつもこうやって過ごしてるから、別に邪魔とか思わないし...詩音さんの邪魔にならないならこのままでいい』
『そうだよ、遠慮なんかしないで』
「あ、ありがとう...」
その瞬間、メッセージが飛びこんでくる。
「...久遠、年のぎりぎりになったらかけてくるって」
『あいつには母親との時間が必要だろうからな』
「そうだね」
本当に独りなのは私だけ...。
慣れているはずなのに、何故か哀しくなってくる。
『...兄貴』
『どうかしたの?』
『買い忘れがあったからちょっと出てくる』
大翔君が気を遣ってくれたことはすぐに分かった。
けれど、私にできることなんて何もないのだ。...情けないことに。
「大翔君に悪いことしちゃった」
『あいつはそんなこと考えないと思うよ。でも、僕からも後で感謝を伝えておく』
「...うん」
『今まで踏みこんで訊かなかったけど...詩音って1人で暮らしてるの?』
「どうしてそれを...」
そこまで言ってはっとしたけれどもう遅い。
秘密にしておくつもりだったのに、どこでバレてしまったのだろう。
『いつも寂しそうにしてるから、もしかしたらって思ったんだ。
金銭的な面は遺族年金とかあるから、それで暮らしてるのかなって...』
「...そうだよ。だから、毎年年越しは独りだった。寂しいけど、誰かに話して困らせたくなかった」
涙で滲んで画面が見えなくなってくる。
「新しい人たちのことは全然知らないし、私はこの家を護りたい」
こんなことを話せば嫌われてしまう、そう思うのに言葉は止まってくれない。
「...嫌いになった?」
『そんなことない。今までちゃんと聞かなくてごめん。詳しい話はまた来年になっちゃうんだろうけど、来年も一緒に過ごそう。
それから...僕にもっと甘えて、困らせて。もっと欲張っていいんだよ』
「優翔...」
涙が零れて止まらない。
そんな様子を、優翔は何も言わずにただじっと見つめていた。
その温かさが今はとてもありがたい。
『大翔が帰ってくる前に言わせて。...愛してる』
「うん、私も...」
──愛してる、その一言でこんなにも幸せな気持ちになれるなんて思っていなかった。
いつまでもふたりで歩いていく為に、きちんと私の話をしよう。
1年の終わりが迫るなか、来年の目標が自然と決まったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
Tell me eMotion
黒蝶
キャラ文芸
突きつけられるのは、究極の選択。
「生き返るか、僕と一緒にくるか...」
全てに絶望した少女・雪芽は、ある存在と出会う。
そしてその存在は告げる。
「僕には感情がないんだ」
これは、そんな彼と過ごしていくうちにお互いの心を彩づけていく選択の物語。
※内容が内容なので、念のためレーティングをかけてあります。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる