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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)
兄弟の年越し準備-優翔×大翔-
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「今年は一緒に蕎麦でも食べる?」
「え、いいのか?」
突然訪ねてきた兄貴にも驚いたが、まさかそんな展開になるとは思っていなかった。
久遠はきっと、お母さんと過ごすのだろう。
こういうときは家族が揃うものなのだと、前に何かで読んだことがある。
だが、俺たちはいつもふたりきりで過ごしてきた。
兄貴が作ってくれた天ぷらに、買ってきた蕎麦を茹でて...そうして何度も年越し蕎麦(仮)を作ったのを覚えている。
「蕎麦から作る本格的なやつじゃなくていいんだ。ただ、あそこを出てから独りだったから無性に一緒に食べたくなっちゃった」
兄貴の部屋に移動して、そのまま年を越す準備を始める。
手を動かしながら嬉しそうに言う兄貴に、俺は訊かずにはいられなかった。
「俺はいいけど、兄貴の予定は?」
「ばっちりあいちゃってるよ」
ただ笑ってそう話す兄を、ただ見つめることしかできない。
俺は毎年、あの場所から出る為にバイトを入れてきた。
その間兄貴は誰かと過ごしているとばかり思っていたのに、声には寂しさが滲んでいる。
「それじゃあ、蕎麦買いに行こう」
「実はもう天ぷらも準備してあったりするんだけど...」
「え、下処理も全部!?言ってくれれば手伝いに行ったのに...」
「予定があいてるか分からない相手を呼び出すなんてできないでしょ?
久遠さんと過ごすのかもしれないなって思ったんだ」
「そう言う兄貴は詩音さんと過ごさないのか?」
「詩音、年越しだけは過ごし方を決めてるみたいなんだ。
毎年声はかけていて、今年もかけてみたんだけど...」
言葉を濁しても分かる。
ただ断られた、というわけでもなさそうだ。
彼女は遠慮しそうだが、今回はきっとそういうわけでもない。
だから俺は、そうかと答えることしかできなかった。
「それじゃあ、はじめますか!」
「そうだな。...なあ、兄貴」
「どうかしたの?」
「ふたりにビデオ通話してみるっていうのはどうだ?
久遠にかけたら邪魔になるかもしれないけど、詩音さんは寂しい思いをしてるんじゃ...」
兄貴はふっと笑って、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「折角風呂に入ったのに、髪がぐしゃぐしゃに...」
「その発想はなかった。先にふたりとメッセージでやり取りして、ふたりともがいい時間にやろうか」
「そうだな」
兄貴はいつも突く隙がないほど完璧にこなすのに、何故か恋愛のこととなると奥手だ。
初めてできた恋人だから、ということだろうか。
...まあ、俺も久遠が初恋の人なのだが。
「大翔」
「ん?」
「ありがとう」
「別に礼を言われるほどのことなんて何もしてない」
照れくさくてついぶっきらぼうな言い方になってしまったが、兄貴にはいつも感謝している。
夕陽が沈む頃、全ての準備が完了した。
「それじゃあ、ふたりにも連絡とってみるか」
「うん」
「え、いいのか?」
突然訪ねてきた兄貴にも驚いたが、まさかそんな展開になるとは思っていなかった。
久遠はきっと、お母さんと過ごすのだろう。
こういうときは家族が揃うものなのだと、前に何かで読んだことがある。
だが、俺たちはいつもふたりきりで過ごしてきた。
兄貴が作ってくれた天ぷらに、買ってきた蕎麦を茹でて...そうして何度も年越し蕎麦(仮)を作ったのを覚えている。
「蕎麦から作る本格的なやつじゃなくていいんだ。ただ、あそこを出てから独りだったから無性に一緒に食べたくなっちゃった」
兄貴の部屋に移動して、そのまま年を越す準備を始める。
手を動かしながら嬉しそうに言う兄貴に、俺は訊かずにはいられなかった。
「俺はいいけど、兄貴の予定は?」
「ばっちりあいちゃってるよ」
ただ笑ってそう話す兄を、ただ見つめることしかできない。
俺は毎年、あの場所から出る為にバイトを入れてきた。
その間兄貴は誰かと過ごしているとばかり思っていたのに、声には寂しさが滲んでいる。
「それじゃあ、蕎麦買いに行こう」
「実はもう天ぷらも準備してあったりするんだけど...」
「え、下処理も全部!?言ってくれれば手伝いに行ったのに...」
「予定があいてるか分からない相手を呼び出すなんてできないでしょ?
久遠さんと過ごすのかもしれないなって思ったんだ」
「そう言う兄貴は詩音さんと過ごさないのか?」
「詩音、年越しだけは過ごし方を決めてるみたいなんだ。
毎年声はかけていて、今年もかけてみたんだけど...」
言葉を濁しても分かる。
ただ断られた、というわけでもなさそうだ。
彼女は遠慮しそうだが、今回はきっとそういうわけでもない。
だから俺は、そうかと答えることしかできなかった。
「それじゃあ、はじめますか!」
「そうだな。...なあ、兄貴」
「どうかしたの?」
「ふたりにビデオ通話してみるっていうのはどうだ?
久遠にかけたら邪魔になるかもしれないけど、詩音さんは寂しい思いをしてるんじゃ...」
兄貴はふっと笑って、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「折角風呂に入ったのに、髪がぐしゃぐしゃに...」
「その発想はなかった。先にふたりとメッセージでやり取りして、ふたりともがいい時間にやろうか」
「そうだな」
兄貴はいつも突く隙がないほど完璧にこなすのに、何故か恋愛のこととなると奥手だ。
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...まあ、俺も久遠が初恋の人なのだが。
「大翔」
「ん?」
「ありがとう」
「別に礼を言われるほどのことなんて何もしてない」
照れくさくてついぶっきらぼうな言い方になってしまったが、兄貴にはいつも感謝している。
夕陽が沈む頃、全ての準備が完了した。
「それじゃあ、ふたりにも連絡とってみるか」
「うん」
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